黒ノ七
「ゆう...ちゃん?」
彼女の声がしたような気がして思わず立ち止まる
視線は当然一緒にいる「誰か」の方に向けられるがこの暗闇の中ではお互いの視線
も顔もわかる訳がない、視覚は機能しないのだから
それが自分に向けられた言葉だとわかっていないであろう「誰か」は相変わらずの
沈黙を貫いたままだった
恐る恐るその顔の方に手を伸ばす
パサついた長髪にカサついた小顔、顔の位置から見て身長はさほど変わらない
嫌がることなく私の手を受け入れたそれは女性の?
髪を優しく撫でながらもう一度問いかける
「あなたは優ちゃん?」そんなわけない
「...」やはり返事もない、気のせいだったのだろうか?
いや違う、今確かに彼女の声がした
震えるような声で、恐怖に歪んだような声で
まるで助けを求めるかのように彼女は私の名前を呼んでいた
辺りを見回すがそこには何も見えない暗闇だけが永遠に続いている
思わず彼女の名を叫びそうになる
しかし現実が私の声を押し殺す...住人に私の存在を
「サァ~ヤァ~、サァ゛~ヤァ゛~」
私のすぐ後ろから今度は確実に彼女の声が聞こえた
振り向く先は闇、闇、闇、でも確実にそこにいる
この世界に入ってから常に聞こえていたこの世のものとは思えない悲鳴
私に必要以上の恐怖を与え続け、そこに近づくことを拒ませ続けてきたあの悲鳴は
私を呼ぶ彼女の声だった事にようやく気づく
その事実に気付いたと同時に体が動いた
返ってくるわけないと思いながらも「誰か」の手を強く握りしめる
「お願い一緒に来て、大切な友達なの。優ちゃんを助けて」
「...」返事はない、わかっている
でもあなたは一緒に来てくれる
そんな気がして「誰か」の手を引き悲鳴と笑い声のする方へ走り出そうとした
ガクッと転びそうになる体を必死で支える足、ピンと張った右手に痛みはもう無い
体が全く前に進もうとしない
今まで簡単に引き回してきた「誰か」の体が急に重くなる
それは後ろへ行くのを拒んでいるとかそういうレベルではない
確かにそこに存在している「誰か」が
いつの間にかそこに居るのではなく、そこに在るへとその存在を変えていた
改めて右手の指に全神経を集中させる
これは確かに人間の感触だ、それは間違いない...でも
乾いた喉で無理矢理生唾を飲み込み問いかける
「あなたもしかして」「...」
わかっていた、そんな質問する前から
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます