黒ノ八
「じゃーまたねノシ」
キーーバタンッと立て付けの悪い戸の閉まる音が響き渡る
アパートを出た時には完全に夜の世界が広がっていた
見渡す家々には明かりの消えた窓が多く見られ
静寂と呼ぶに相応しい空気をかもし出す
ご飯だけのつもりがついつい話し込んでしまった
明日は休日ということもあり泊まることを勧められたが
なぜか両親に会いたくなり私は帰ることを望んで外へと出た
スマホの画面に母親の名前が並び、心配そうな顔が浮かぶ
「やっぱ電話しておいた方がいいかなぁ?」
発信の文字に指を滑らせるが、ソロソロあの優しい母親も声質が変わるかも
と想像すると首を横に振り画面は色を落とした
「やっぱ泊まっていった方が良いかなぁ?」
そんな事を一人呟きながら家路を急ぐ
誰もいない夜の学校、昼とはうって変わって見るものに恐怖すら与える
綺麗と言っていた校門でさえ不気味に思え、避けるように歩道の端を歩く
ここまでは良かった
大きく不気味にそびえ立つ学校を挟んで彼女の家とは反対側
今の私にとっての通学路はその比ではない
普段バスで通るそこは昼間ですら歩いたことのない場所
通学路にも関わらず街灯が疎らに並ぶ寂れた商店街が永遠と続く
健全な下校時間ならなんの問題もないだろうが
今の時間帯は平日/休日の区別なく全てのシャッターが閉まってる無法地帯
そういえばこの前痴漢がどうこう言ってたな...山中部が...痴漢って
その景色が私を立ち止まらせる
「やっぱ泊まっていった方が良いかも」
肩に掛けたバックの中を漁る
スマホの電話帳に地野と打ち込むと、出てきた昨日ファミレスで交換した真新しい
番号に向け発信する
...「お掛けになっ」ピッ
家の中で電波がない...訳ないか、充電でも切れて電源を切っているのだろうか?
それに気付くのを待つのもな...
視界の端に強い光を感じそっちに顔を向けると小さく頷く
その商店街を捨て遠回りになるのを覚悟で繁華街経由の道を選んだ
*
「デッカイ蛾、気持ち悪っ」
そこまでの道のりは車こそ通らないものの街灯が私の影を四方に造り出す
近づくにつれ灯りは大きくなり夜との境界がぼやけて見える
今朝は慌ただしかった為?にいつも持ち歩いている私服を忘れ
未だにセーラー服である事を気にして人目を避けるように歩く
そんな不安を裏切る街の明かり
まもなく日も変わろうかという夜の入り口
しかし休日を前にした街を照す光たちと、そこを行き交う人の群れが全くそれを
感じさせない
あきらかに私と同世代の人たちも様々な色でその身を隠している
そこに女子高生がいても誰も振り返ろうとしない
私は街を彩る色になる
右に見えますは~路上に寝そべる青い面
左に見えますは~夜を羽織った黒い群
振り返りますは~寒さも忘れた白い肌
前から来ますは~揺れて揺られて赤い声
いつの間にか大手を振って道の真ん中を歩いていた
まるで縁日の出店を見て回る子供のように右に左に視線を奪われる
「ご飯だけ」「...下さい...下さい」
「お小遣い」「...下さい...下さい」
「帰るお家」「...下さい...下さい」
ビルの影から聞いたことのある声が聞こえて立ち止まった私は
表通りから漏れる僅かな光の中に目を凝らす
カップル?よりも親子の方がしっくり来るかな?
フラフラと立っているのがやっとといった上に横にと大柄な中年の男と、身を
縮める小さな若い女が仲良く手を繋いでいる
話の内容はわからない、いや興味も無い
ただ聞き覚えのあるその声に歩み寄っただけ
「あなたもしかして...」
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