白ノ四

「...お客様のご都合により...」


ガチャと機械アナウンスが途中で途切れる


やっぱりダメだ、何度掛け直しても繋がる事はない


画面に写る無邪気な笑顔で寄り添う二人の写メが、虚しく光の色合いを落とし

また灯る


充電が切れた?本来の使い方を要求されないスマホ

私の場合は三日に一度の充電で事足りるのだけど


まだ帰宅途中?あの時間はバスが走ってる時間では無かったけど

流石に始発まで待てばもう着いているだろう


誰かと遊んでる?制服の彼女を朝まで連れ回す誰か

まともな人では無い


いてもたってもいられずに外へ飛び出した


呼び止める母の声も聞かずに寝間着のまま外の階段を駆け降りる


所狭しと並ぶアパートの隙間から登りかけの太陽が柔らかな空間を醸し出し

それにつられていつもより遅めの活動を始める人々の姿が目に写る


実際周りには朝から泥にまみれた小学生や犬に自転車を引かれているおばさん

Tシャツと短パンを見事に着こなしたおじいさんなど色々な人が思い思いに走って

いるのだが、私の存在はその中でも群を抜いている


休日の学校を抜け彼女が通ったであろう商店街に自然と足が向く


行き交う人の目にはやけにハイペースなランニングをしているように写るだろう

何事か?と私を振り返り見上げるがそんな視線など一切気にせず

ポニーテールを風に踊らせながらの爆走


でも視線だけは小さな子猫でも探しているかのように、物陰や行き交う人々の足元

など隅々まで見下ろすように行き渡っていた


お願い小夜、出てきて

昨日でもまだ話し足りないよ、そうでしょ?


頭の中で小夜に念を送る、そんな最中私を呼び止める男の声


「おぉ優里~走っちゃいかんぞ、商店街(ここ)も」


すれ違ったのは誰だろう?


通学路と書かれた標識を使いとっさにスピードを殺して止まると

振り向いた先にいたのは上に下に視線を動かしながら小走りで近くに寄ってくる

中年の男...山中部


優里って馴れ馴れしすぎだろ


ってか私今私服だよ?よくわかっ...なっヤバい

山中部を目の前にタンクトップとショートパンツ!?


母が呼び止めた理由を、同じ高さのはずの山中部の視線が下を向く理由と重ねて

後悔という言葉と共に後で知る事となる


肌の露出部分を手で隠そうとするが小さな女性の手では完全に隠しきることが

出来ない

たるむ襟が屈むことを許さないのなら、せめて引きつった笑顔で相手の注意を

反らす方に切り替える


「おはようございます山中部先生、朝から色々お忙しそうで」


「いやあ~まぁ、じつは」自分から話しかけといてよそよそしい


軽く視線を反らすが常に私の肌はロックオンされている


この感じ、確かに学校側としては小夜の事はまだ公にしたく無いということだろう

あれ?でも私に電話がきたきっかけは...


「あの先生、さ...空知さんのことでですよね?」


私の言葉に一瞬目を丸くさせたが、知っているならという感じに


「おおそうか、優里にも連絡入ったか...お前ら最近仲よくスカート揺らして登校

してくるもんな、いつも

優里が校門付近で時間合わせてるんだろ?小夜は怪我してからは毎日同じ時間の

バスで来るけど待ち合わせって感じの会話じゃ無いもんな、あれは

それにしても小夜はどこで何してんだか、見つかったらタップリと説教してやらん

とな、これは」


ニタ~ッと口元を緩ませ舌舐めずりをする山中部からは

有名な監督たちが造り上げたどのホラー映画をも越える恐怖しか感じない


というか全文通して気持ち悪い、過去の視線もその存在も含めて気持ち悪い


「ごめん小夜、会いたいけど今は...ダメ。しばらく身を隠して、自分のために」


居場所のわからない彼女にテレパシーを送る


「取り敢えずこの辺から捜すか、二人で」


「...くぁwせdrftgyふじこlp」


山中部の予想外の言葉に私の口から変な声?(悲鳴?)が出た


なに考えてんの?これもセクハラ?自覚ありますか~?


口元を隠す私に向けられた視線はやはり下を向く

だがそんなことを気にしている場合じゃない


今私の身に明らかな危険が迫っている


「あっ一緒に捜してくれるんですか?」→断れ!!


「二人の方が捜しやすいですもんね」→早く!!


「じゃ私はあっちの方を捜してみますね」→良し!?


そう言い終えると同時に商店街を全速力で走り出した

後ろから聞こえる声に耳を傾けずただ自分を守るためだけに走っていた


「ごめんね小夜、今はチョッと」

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