白ノ九
「フゥーフゥーフゥー」
全身を大きく震わせながらただ歩く
その震えが寒さから来るものなのか?恐怖から来るものなのか?
あるいはまた別の...わからないまま薄暗い階段を登っていた
「優里ちゃん何処にいるの?お願いだから出てきて」
「あの、電話が...ちょっと廊下で話して...まさか部屋に...」
「やめて!!今そんなこと話してる場合じゃないでしょ、わかんない?」
「僕のせいじゃ...」か細い叫びが消えていく
下の階から私を呼ぶ声が聞こえてくるが、そこにお人形の私はもういない
感情の戻った人形はもう今までのお人形さんには戻れないのだから
あの夢の中の彼女の姿が目に焼き付いて離れない
ごめんなさい森さん、貴女の事を困らせたい訳じゃないの
嫌いになった訳じゃないの、好きでいて欲しい訳じゃないの
ただ私はそこにいていい人間じゃないから...だからごめんなさい
罪悪感に苛まれる私はただただ上を目指す
そこに救いがあるから?出口があるから?終わりがあるから...
階段を上がりきった先の冷えきった扉
鍵のつまみ部分が透明なプラスチックでガードされている
さっきまでの私なら開けれなかったであろうその鍵を回し
冷たい扉を押し開けると、ヒューと乾いた空気が流れ込む
混じりっ毛の無い白たちが私の到着を待ちわびていた
「ようこそ...こっちにおいで」
降り積もった雪たちが辺り一面を白く染め上げながら私を迎え入れる
ギュッギュッと音を立て、ここにいた痕跡を残す事を望まない私の思い通り
踏み固められた足跡を消すかのように尚も雪が白く降り続く
着衣と同化したその景色は自分の存在を忘れさせてくれるようで落ち着く
目的もなくさ迷うように歩く私の目には、白の中に一つ白金色に輝く手すりだけが
しっかり写っていた
それは目に見える芯まで冷えきった生と死の境界線
間に三途の川などという生死を誤魔化すモノはない
かじかみ震える手を暖める事なく、白の中に消えたサンダルに振り替える事なく
一つの目的の為だけにそこまでたどり着いた私は、降り積もった雪を払うことなく
足をかけ乗り越える
そこから先はもう薄暗い冬空しかその目に写る事はない
もうそれ以外は必要がない...そしてまだ先があるかのようにまた歩き出す
迷いや躊躇いなどはいらなかった
そんなもの最初に壊れたあの時すでに無くしていたから
.........ドシャッ!!
一瞬この静寂を破る音がするが、また何事もなかったように無言で降る雪
ありがとう、これでよかったの
私には誰かに看取られたり悲しませたりする権利は無いのだから
冷たく白いベッドが優しく私を包み込む
「スゥー...スゥー...」
ひんやりとした白い大地に段々赤い暖かさが宿っていく
深く息をすると限りなく広がる空を仰ぎ手を伸ばした
これで会えるかな?ちゃんと謝れるかな?もう許してくれるかな?
...いや私は望んじゃいけない、そんな権利始めから持っていない
そう、彼女の言う通り...小夜を巻き込んだのは私なんだから
「小夜、わたしの...せい...で...ご...め....」
顔に降り注いだ雪たちが私からそっと熱を奪い水に変わっていくと
静かに閉じられたまぶたから涙のように流れ落ちていく
支える力を失った腕はこの真っ白な静寂を壊さぬように
ただただゆっくりと降り積もる雪の中に落ちていった
そんな彼女の思いとは裏腹に
白い静寂の中に赤い真実だけが静かに広がっていった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます