黒ノ四
「おっはよ~、小夜っ」
深まる秋を感じさせない日差しが指す私の通う私立高の校門
古くからあるわりにはキレイな方である
見慣れたその門に差し掛かった時、後ろから背中を軽く叩かれて振り返る
「あっ優ちゃん、おっはよ」
手の届くこの距離で互いに手を振る相手は一昨日出来たばかりの隣のクラスの友達
昨日夜遅くまで一緒にいたのが高い位置で風に揺れるポニーテールの似合う
細身の彼女「地野優里」だ
準備を含め長期に渡る文化祭が終われば部活に入っている子達以外とは少しだけ
距離が出来るもの
そんな中、怪我を理由に一時的に帰宅部になり寂しげにトボトボ校門へと向かう
私に声をかけてくれた優しい彼女
そんな彼女とここまでの仲になるのに時間なんかいらなかった
向かい合った二人はお互いの顔を見て一瞬止まり、同時に指差しながら
「「あ~、クマッ」」「「www」」
息が合ったこと?お互いの顔?に笑い合う二人
「おぉお前ら朝から元気だな~、今日も」
「「っ!!おはようございます」」
突然話しかけてきた中年の男に淡々とした挨拶だけを返すと
二人は競歩のようなスピードでその場を去り校舎を目指す
うちの学校で有名なセクハラ教師、生活指導の「山中部源五郎」だ
「何であの人毎日校門のところにいるんだろ?」
「さぁ?ってか昨日の帰りバス停ですれ違ったし」
「うっそ~怖っ、バレなかった?」
「私服だったし、それにほら」
指差す先には挨拶だけして足早に避けていく生徒たちに違和感も覚えずに
満面の笑みで次々話しかける山中部の姿があった
時折振り返り生徒たちの生足を舐めるように見つめている
本人的にはバレないようにしているつもりなんだろうけどバレバレ
すれ違う全校生徒が引いてるっての
そのせいか不便にしか思えない黒タイツの着用率が高い気がする
「露出さえ抑えれば...まぁ例外もいるか、海藤さんまた捕まってるよ」
他のクラスの丸メガネをした優等生がセクハラギリギリのボディータッチを
受けていた
似つかわしくないダボついたカーディガンが地味で小さなあの子はここよ
と溢れる生徒の中で目立たせる
ブルッ!大っ嫌いなホラー映画より怖いって、昨日バレなくて良かったな
誰かに助けを求めたくてもそれが出来ない内気な優等生を哀れみながら
昨日話しきれなかった話と共に校舎へと入っていった
*
「はぁっユ、ウ、ウ、ツ」
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
ため息のすぐ後に否応なしに気力と自由を奪う鐘の音が鳴り響く
文化祭が終わって数日
まだ余韻の抜けきれない中での授業という独特の睡魔と私との戦いが始まる
えっと、1時限目は...2時限...3......?
思い出せない、教室にはいたとは思うけれど
ん~~お弁当のオカズは昨夜の食卓の残りであろう揚げ包み納豆揚げ?
「小夜って揚げ物好きなの?」「うっ!へぇっ?」
昼休みの屋上、澄み渡る青空の下で私のお弁当箱を覗きこんだ彼女が言う
「昨日のお弁当かき揚げ入ってた、ファミレスでも勝つ盛りトンカツ?」
「べっ別にフェアで安くなってたからだよ、こっ好んでは食べないかな?」
軽く視線を落とし自分(ポンポンポン)と、彼女(ポンキュッキュッ)とを見比べた結果
の全くもって無意味な嘘だ
私なんかダイエット込みでバド部やってるのになぜ帰宅部が...
長身でその体型を活かせる部活は少なくないだろうに
「そっか、じゃも~らい」あれっ?
お弁当箱を彩る野菜たちの中に隙間が出来た
余計なことを考えていた為その一瞬の出来事に体は反応出来なかったが、微かに
目元は潤んだ
残り物であることを気にして二切れしか入れなかった母の優しさが憎い
ってか昨日食べてないから残った分全部でも...
その優しさをためらいなく食べれる彼女の無邪気さが憎い
えっと、あなたのお名前何でしたっけ?
「何これ、納豆だ!!美味し~お母さん料理上手だね」
目を閉じ噛みしめながら彼女は言う
ありがとう優ちゃん、その言葉がせめてもの救いだよ
チ~ンと私は心の中で天に昇る納豆に手を合わせた
「いいな~小夜のうちはお弁当作ってくれて
うちなんか片親で忙しいからお弁当どころか朝晩も自分でだよ
高校入った時はまだ良かったんだけど最近この辺に越して来てからは
いつも一人...」
彼女の言葉は次第に力を失っていく、そうだったんだ
初めて聞いた彼女の家の事情
当たり前だと思っていた自分の家が恵まれている事に気づかされる
「...そうだ、今日も何処か食べいかない?」
勿論お母さんの言葉は覚えているし今日は早く帰ろうと思った
財布の中身とも相談しなくちゃ、でも...
「えっ!あっだけど小夜の親は大丈夫なの?昨日電話が...」
一瞬喜びを見せるも直ぐ心配そうに聞き返してきた
「うち?ま遅くならなければOKだよ」
「やった~」その言葉を聞いて両手を挙げ子供のように無邪気に笑う彼女は、感情
が直ぐ顔に出てしまうアンチポーカーフェイス
善くも悪くも嘘をつけない(バレバレ)タイプの子だ
「あのさ、じゃうちで食べない?」
申し訳なさそうに弁当箱を見下ろしながら胸ポケットからスマホを取り出す
画面にロックは無く自分で作った料理らしき写真へと進むと、一つ選び見せてきた
本体よりも大きい猫のストラップを横目に画面を...ん?これは
「先週作ったの、揚げ物じゃないけど美味しかったから一緒に作ろう?」
まるで宝物でも自慢するかのように満面の笑みを添えて
どうやら私もアンチポーカーフェイスだったのね
「アヒージョ初めてなんで、是非」彼女とは反対に苦笑いを添えて
二つの笑顔を包み込むように、澄み渡る青い空が何処までも続いていた
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