4 「あーはっはっはー! 超絶かわいい魔法使われのマカイダちゃんは空も飛べるのですー! どうだーまいったかー!」


「あーはっはっはー! 超絶かわいい魔法使われのマカイダちゃんは空も飛べるのですー! どうだーまいったかー!」

 桜川教授を引き連れトレナやコッキー達と合流し、地上に出るとマカイダが高笑っていた。空の上で。角度によってはローブの中が見えそうなくらい高空を飛んでいた。

「ドローン技術はすごいな。人も運べるようになっていたとはね。驚いたよ」

 桜川教授は感心していた。マカイダは何機ものドローンから伸びるロープを掴みながら空を舞っていたのだ。確かに私もここまで技術が進んでいるとは知らない。どうやら"DG"の科学技術は進んでいるらしい。

「いやーもっと悪さしたかったですねー残念です。しかし悪は滅びぬ! 我々が居る限り世界に平和は訪れない! 誰を倒そうと第二第三の"DG"が現れるだろう! 人間は悪から逃れられないのだ! ふうーわっはっはっはっー!」

 マカイダは演説しながら高笑う。そして空高く高くへ消えていき、私達はマカイダを見失った。

「アイツああいうのが好きなんだナ。狂ってるネ」

「似たようなのが横に居ますぜ」

 私はフリーデを見る。ごっご遊びなら正義の味方を自称するフリーデだって負けないだろう。

「フリーデ、言い返してやりましょうや。お前さんの好きなヒーローごっこができますぜ」

 だが当の本人はガックリと落ち込んでいた。というか座り込んで地面を見ながら雪を指でなぞりいじけていた。

「マカイダが"DG"なんて嘘だぁ……」

 いつもの状態が百とするなら今は一と表現できるフリーデの力なき声量だった。なーにやってんだコイツは。

「まじかよー……いつも優しく接してくれたじゃんかー……あれゼンブ演技だったのかよー……」

「あの悪党かぶれの魔女とはどれくらいの付き合いなんですぜ?」

「ぶっちゃけムラサキより長い」

「そりゃお気の毒なこった。友情のご冥福をお祈りしますぜ」

 私は冗談半分に手を合わせる。続けざまにノリの良いコッキーと無表情ながらアスタロイドも手を合わせた。

 トレナは完全に不動で無視。桜川教授はそもそも目に入ってないご様子だ。

「さて。国際捜査官のお二人さんよ、後始末は頼みますぜ」

「えー。コッキー後始末は嫌いダナ。トレナが全部やってくれヨ!」

 陽気なコッキーは堅物なトレナの肩をポンポン叩きご機嫌を取ろうとする。対してトレナはコッキーの頬を抓った。

「アダダダ!」

 ちゃんとやれ、ということらしい。

「今回の"DG"に対する捜査資料は膨大になるだろう。なにせメンバーの一人がわかったからな。逮捕とまでは行かないが存分に暴れさせてもらう」

 トレナ・ダブルクロスはそう宣言しコッキーの頬を引っ張ったままこの場を後にした。

「任務完了と判断。報酬を求む。はよはよ」

 ゴシック衣装を纏ったアスタロイドが私にせがんできた。

「わかったわかった。ちゃんと振り込みますよ。不満なら殺しに来てもいいんですぜ?」

「それは卑怯……」

 真に受けるなって。

「冗談だよ」

「むー……早急に受領したい。ではまたのご利用を」

 機械音声のように喋ったあと、アスタロイドも護衛艦へと去る。去り際に鎖を振り回しながらヘリコプターのように飛んでいった。便利な奴だ。

「私はどうしようかね」

 桜川教授は考えあぐねていた。

「それは桜川教授の好きなようにすればいいでしょう」

 私がそう返答すると桜川教授は首を横に振った。

「残念だが私はそう易々と自分を自由にできる人間ではない。まだ罪の清算も終わってないしね」

「教授がやったことなど人生背負っても払いきれませんぜ。開き直って投げ出してしまいましょうや」

「……だめだろう」

 桜川教授はため息交じりに笑った。思い通りにならない自分の意思を笑うに笑えないのだろう。

「ムラサキくん、キミは何をするか何をしたいか、もう道を決めているようだね。羨ましい。私はまた道を探すことにするよ」

 そう言って桜川教授はゆっくりと歩いていく。マカイダに誘拐された子供達のほうへと進んでいった。

 少しの合間は桜川教授も被害者として護送されるだろう。

「はぁー……」

 そしてこの場には分厚いため息を吐くフリーデとそれを見る私だけになった。

「なあフリーデ、元気出せ。私がお前さんを救ってやろうか?」

「うるせー悪党の施しなんざ受けるかよー」

「いや、今日から私は正義の味方だよ」

 都合のいい思想だ。時にやりたければ悪党、違うときは正義の味方を名乗るんだから。

「頼みがあるんだフリーデ、聞いてくれるか?」

「……なんだよ、ムラサキ」

 私は飛びっきりの作り笑顔をして手のひらを伸ばした。

「デザートイーグルをくれ。私も正義の味方が持つ銃を欲しくてたまらない」


***


 切り裂き通りは多様な店が並んでいる。ケーキ屋や洋菓子屋もあちこちに店舗が存在し個々強烈な菓子を販売している。

 その中でもオーソドックス、鉄板な王道ケーキ屋に私は足を踏み入れた。

 特段変わった模様や派手なものは一切ない。見たことあるチョコレートやチーズのケーキの形。品揃えは前時代的だが一週回ってド直球だ。それでいて味もウマイ。

 私はホイップクリームにイチゴが一つ可愛く乗っかる典型なケーキを注文した。

「三人分頼む」

 するとフリーデが横槍を入れてくる。

「俺とムラサキと、残り一人は誰だァ?」

「獄中の哀れな囚人」

 私はカニバリスト殺人鬼カリーを誤って刺した男のことを言った。

「別に許そうとは思わん。だが地獄に落とさせるのはやりすぎだ。ケーキぐらい食べさせるさ」

「悪党がよく言うぜ」

 フリーデは捻くれながらキザっぽく喋る。私の行為がいけ好かないのだろう。

 それもいい。フリーデがやらなければ私にやる余地があるということだ。

 ちょっとだけフリーデに勝っている、悪い気分ではない。

「じゃあ正義の味方、ヒーロー様ならどうするんだ?」

「ぶん殴る!!」

 フリーデは拳を突き出して宣言する。血気盛んなことで。

「私は手を差し伸べるのもヒーローだと思うんだがね」

 そういうとフリーデは首を捻った。私の回答は違うと思ったらしい。

 それでもいいさ。私とフリーデは違う人間なのだから。


***


「できれば不発する爆弾をそのまま提供して欲しいんだがね」

 話すのには最適な雰囲気の暗さを保つバーのカウンターにて私は喋る。

「悪くない話だと思いますぜ。マスターだってテロの加害者にはなりたくないだろ?」

 カウンターの向こうで透明なガラスのコップを礼儀正しく磨くマスターは紳士的口調で返答する。

「黙れメスカギが。こちとら信用で食ってるんだよ。ニセもん提供したら稼げなくなるんだ。それぐらいわかれアンポンタンが」

 顔をとてもにこやかにしながらマスターは語る。うむ。実にマスターは薄汚い紳士である。武器の密輸も手配もなんのそのだ。とても助かる。

 だが今回はそんな上手く行きそうな話ではないのだ。

「こちとらトレナに密告してもいいんですぜ? 信用以前に捕まるのは嫌だろう?」

「てめぇのスカスカ脳みそで理解できないのなら教えてやるよ。俺達マスターは脅しに屈さない。それが史上最悪のテロリストでも一緒だ。わかったかクソ淫乱ビッチ。さっさと壁もねぇ家に帰ってスパゲッティで顔を洗ってろ。お前のせいでテロリストが来るバーって噂が立ち始めてるんだ。いい迷惑だ。失せやがれ豚が」

「手厳しいねぇ」

 こちらとしては学校を占拠して学生達を人質に取り、大勢の人間を呼び寄せてから爆破するというなんとも大胆なテロは防ぎたいのだ。

 何故なら私は正義の味方だからだ。

 なんとかテロを計画する組織には潜り込めたが数が多すぎて一網打尽とは行かない。

 安全のため爆弾を摩り替えることを提案しているがマスターは呑んでくれそうに無い。困ったものだ。

 どうしようかと私が考えていると突然少女の叫び声が聞こえる。

「私はテロリストです!!」

 緑色のフードを被りつつ大きすぎる丸縁メガネを掛けた少女が右手に爆弾らしき筒を持ちながら立っていた。

 あまりにも、予想外だ。本当に爆弾だろうか? よく見てみるが筒の外見は取ってつけたような見た目で爆破しそうは見えない。

 この少女の体つきも鍛えた感じはしない。雇われでもなさそうだ。脅されている? そうも見えない。

 ともかく他の誰も爆弾について気付いてなさそうだ。ならば私が行動するしかない。

 私は席を立ち緑フードの少女に近づき爆弾を取り上げた。あっさりと。

 調べてみるが、答えは明白だった。

「こいつは粘土ですぜ」

 バラバラにしてみる。とても見られたものではない。こんなのに騙されたとなると失笑ものだ。

「手の込んだイタズラだ。驚いたよ。世紀の大テロ計画だね。本物のテロリストなら名乗る前に隙も見せず爆発させますぜ」

 ……まあ次の仕事は隙を見せちゃうテロリストだけどもだ。時代が変容したともいえよう。

 このテロリスト隆盛時代、手段も目的も多様なテロが多くなった。それは認めるしかない。認めたうえで言うが、隙は見せること無かれ、だ。さもなくば私やフリーデのような正義の味方に突かれしてまうだろう。

 それはそれとして……なるほど、偽者か。

 私は思いつく。何もマスターに頼む必要は無い。自分で偽者の爆弾を作って摩り替えればいいのだ。

 よき名案だ。このアイディアを頂こう。そうだ。この少女にもなにか礼をしてあげねば。

 と言ってもこんな突飛な行動をしてしまう少女だ。何か傷でも負っているに違いない。少年少女特有な心の傷かもしれない。

 すこし刺激すれば気分も晴らすことができるだろう。それこそ銃を持たせてみるとか。遊んでやるのも悪くない。

「度胸だけは理解しますがね。なにか飲むかい?」

 迷うものを導くのも私の役目だ。そう格好をつけながら、ヒーローを気取れば、なんだってできるさ。あの悪党にしか見えないフリーデのように。

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ヒーローテロリスト 夢ムラ @zinkey

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