"悪の研究"

1 私は町外れの個展に来ていた。


 私は町外れの個展に来ていた。その個展ではオリジナルの拷問器具が並べられている。

 割れ目のある円盤の拘束台。柱と呼べるほど大きいトゲ。槍が刺さった箱。体を抉り刺すための小さな刃物。頭に被せ両耳から頭蓋骨を捻り潰す鋼の装置。

 木でできた絞首台の下には気味悪い茶色の虫達が蠢いている。

 私はこれらに用があるわけではない。ベルを叩き人を呼び寄せる。

「ほいほいよー」

 作業服を着た女の子がスパナを持ちながら出てきた。シャサだ。

 シャサの背は低く幼く見え、短髪だが髪の毛に油汚れがついている。

 全身を覆うように着る作業服にも同じような茶色い汚れがあちこちに存在し、焼けた焦げ跡もある。

 その風貌は女性にしてはかなり汚い。美しさより汗臭さを求めているようだ。ゆえに不恰好には見えない。

「ほえ! ムラサキさんじゃないですか! おっひさー!」

 シャサは右手を天に突き上げて元気にジャンプした。

「弾薬を買いに来たんだ。あと備品を少々」

「はいよー!」

 そういってシャサは暑苦しい釜戸のある工場を通してくれる。その先に扉があり、そこを抜けて階段をくだると地下には倉庫。

 中は全て銃器。シャサは武器商人なのだ。親の経営をそのまま継いだらしい。

「ムラサキさんの銃ってAKでしたよね?」

「随分前にガリルエースに変えた」

「ほえーそうなんですか。じゃ私取ってきますね!」

 シャサは小走りしながら倉庫奥へと消えていく。可愛げがある走り方だ。彼女が死の商人だと言ったら笑われるだろう。

 だが拷問器具の個展は本当の趣味だとシャサは言っていた。笑えない。

 そんなシャサがダンボール箱を重そうに持ち上げてやってくる。

「シャサ、一度聞いてみたかったんだが」

「ほえ? なんでしょう?」

「上の拷問器具って実際に使ったりするのか?」

 そう聞くとシャサは頬を含まらせて赤を真っ赤にした。

「使いませんよ!! 死んじゃうじゃないですか!! 私が拷問器具を作る理由は拷問器具としての美しさ、機能美に惚れているからであって、拷問行為そのものに惚れてるわけではないんです!」

 シャサは手をブンブン回しながら否定する。私はクスっと笑ってしまった。おかしい人間がいたものだ。

 笑う私を見てシャサは手回しを止めパッチリ目を開いた。

「ムラサキさん、明るくなりましたね」

「そうかな?」

「前はなんかもう、死んでましたから。死人みたいな。でも今はちゃんと生きてそうですよ。銃も変わって心も変わったんですかぁ~?」

「明るくなった、か……」

 前にシャサと会った時を私はかろうじて思い出す。

 ああ、あの時はまだフリーデと同居する前だったな……。

 私が変わったのはフリーデのおかげだろう。

 過去の記憶がまた蘇った。

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