2 何年前かは覚えていない。


 何年前かは覚えていない。私は殺し屋まがいな仕事ばかりを引き受けていた。

 赤子の頃から銃を握り戦場に居た私は国が負けても銃を捨てれず、他国へ渡って兵士として生きていた。

 そんな最中、私の腕を見込んでかとある依頼が舞い込んだ。それは某国のお姫様の暗殺。金は大量に積まれた。

 特に仕事を選びもしなかった当時の私は特に何も思わずその仕事を引き受けた。当時の私は感情の起伏無く仕事をこなすだけの機械だったからだ。

 そしてある日。日が沈みそうな時刻。お姫様を乗せた車が白樺の森に囲まれた道路で走っていた。私はそれを襲った。

 走っている車に対して遠くからロケットランチャーを発射した。弾頭は猛スピードでお姫様が乗っている車に突進した。

 しかし弾は途中ではじけとんだ。車は何事かと急停止した。弾は当たっていなかった。

 私はもう一度ロケットランチャーを車に向けて発射したが今度はさっきよりも早くはじけとんだ。

(……今思えば、フリーデが拳銃でロケット弾を撃って直撃を防いだのかもしれない)

 私は不運を呪ってアサルトライフルを手に持ち歩兵戦による襲撃に切り替えた。

 車に近寄ると護衛のSP達が外に出て様子を確認していた。すぐに射殺した。

 お姫様を乗せている車はVIP用に防弾ガラスや銃で撃たれてもパンクしないタイヤが備え付けられている。それは知っていた。

 だから私はすぐさま車のボンネットに飛びついて逃がさないようにした。見えたのは怯える運転手と奥にお姫様。

 そして黒いコートを羽織った顔に縫い目の跡があるフリーデ。この頃はまだ顔に火傷は無かった。

 私がフリーデを確認した時、確かに笑われた気がした。私はその時初めてどこかで会ったような感覚に陥った。

 運転手は私を振り落とそうと車を走らせる。右に左にジグザクと体が揺れたが多様な戦場を駆け抜けてきた私にはなんの問題も無い。

 ガラスに向けて何発か銃弾を撃った。ガラスは白い飛沫を記憶したように割れ目が広がったがびくともしない。

 しかし視界を奪う程度にはヒビは広がった。そのまま撃ち続けガラスにヒビを入れていき前を見えなくした。

 車はゆっくりとコンクリートの道を逸れて白樺の木にぶつかる。ボンネットから炎があがっていった。

「火事だ!」そういった運転手の男は転がり落ちる。私は彼を射殺した。

 続けざまに私は車内にお姫様とよくわからんコートの女がいるはずだと思い、運転席のドアから中を覗いた。

 誰もいなかった。後部座席の扉が今まさに開いたと言わんばかりに揺れている。

 顔を上げるとお姫様を片手で抱えてフリーデが走っていた。片手に持った拳銃で応戦されたが問題ないと私は判断して追いかける。

「ピィー――」高い口笛のような音が聞こえた。フリーデが発していた。

 私は無視してひたすらアサルトライフルを撃ち続ける。フリーデは片手でお姫様を抱えているのにもかかわらずよく避けた。

 だが私の腕はそれを超えた。銃弾の一発がフリーデの左手を直撃。私は仕留められると確信する。

 その瞬間だった。私の後ろに走ってきたものがいた。

 あまりに気配が近かったので振り向いてみるとそれは狼だった。狼は私に飛びついてきて襲おうとした。容赦なく射殺する。

 その隙に私の上から一つのものが投げ込まれた。スモークグレネード。足元に置かれ白い煙が立ち込めた。

 その場を退避しようとすると狼がまた襲ってくる。何匹も何匹も飛びついてきた。さっきの高い口笛はこれを呼びつけるものだったのかと私は気付く。

 狼が襲ってきてそれを銃で撃ち殺すの繰り返しを何回も行いフリーデ達がどこに行ったのか確認しようとした。

 フリーデとお姫様は消えていた。ただ血痕の跡が二手に分かれていた。


***


 そう遠くは行ってないと思いながら私は片方の跡をつけて走っていた。二つの血痕には差異があった。

 左は血痕の間隔が離れていて猛スピードで逃げたのがわかる。もう片方はそれよりも若干間隔が狭くゆっくりだ。

 だがどちらも遠くに行っている。太陽は完全に沈みかけ視界は悪くなる一方だった。素早く追いかけなければ見失うだろう。

 私はまず間隔が短い右を選び血痕の跡をよく見ながら走っていた。その正体はすぐに見つかった。

 狼がトテトテと歩いていたのだ。どこへ行くかもわからずあさっての方向へ。その時私は嫌な予感がした。

 狼は振り返って私を見る。すると狼の口には人間の手が咥えられていた。そこから人間の血が流れていたのだ。

 私は足早に引き返しもう片方のほうを追った。間隔が離れている左へ。

 走って走って、それでも走ると遠くで何か素早く動いている。私は最大級を悪寒がした。

 私は走っているものを撃ち殺した。「キャウン」という狼の声。急いで駆け寄った。

 狼は人間の腕を咥えていた。そこからは血がボタリボタリと垂れていた。

 太陽は完全に沈み外灯の無い白樺の森は完全な闇となっていた。

「……やられた」

 私はお姫様とフリーデを完全に見失ってしまった。

 今更探す手がかりも無く、場所は夜の白樺の森でこれ以上の戦闘を行うのであれば装備も不十分。そもそも初手で失敗したこともある。

 私は暗殺をあきらめその場から撤退した。

 そしてそれからだろう。フリーデの左腕が銀色に光り輝く代物になっていたのは。

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