"森のケーキ"
1 「さあよってらっしゃいみてらっしゃい! 紙芝居のはじまりだよー!」
「さあよってらっしゃいみてらっしゃい! 紙芝居のはじまりだよー!」
大きな緑化公園でフリーデはめいっぱい叫んだ。私は後方の木陰でその様子を眺めていた。
「ムラサキ! そんな遠くじゃ見えねーだろ! こっちこいよ!」
フリーデは私を呼んだ。私は「お構いなく」と手を振った。この私ムラサキには紙芝居を最前列で見るのは恥ずかしすぎた。
「さあ楽しい楽しい紙芝居だよ!」
フリーデが声をより大きくして叫ぶ。
よくもまあ、声を出せるものだと感心する。元々フリーデはやりたいことがあればそれに全力を賭ける。ヒーローごっこだってそうだし、この紙芝居もそうだ。
アジトで唐突に絵を描いたり工作をしはじめた時は何をやっているか皆目わかなかったが答えは目の前にある。紙芝居だ。フリーデは突然やりたくなったらテロリストでも紙芝居でもやるのである。
やりたいからには腕を千切ってでもやるのだ。私にはできない。何故なら私は数多の戦場を渡り歩いたが傷一つだって受けたことはないから。
次第に紙芝居の前には子供達がぽつぽつと並び始めた。フリーデの格好、つまり顔に火傷と縫い目のある黒いコートを着た少女なわけだから、怖がられると思ったものの紙芝居屋としては受け入れられているらしい。
「さあさあさあ! お集まりいただき光栄の極み! 今日やる話はこちらでございます!」
フリーデがダンボールで自作した扉を開くと紙芝居の題名が現れた。
「"森のケーキ"!」
***
「むかしむかしあるところに。お姫様が居ました。お姫様はケーキが大好きです。それはもう毎日食べていました。
ある日のこと、お姫様とケーキその両方が悪い狼に盗まれてしまったのです。
お姫様を取り返そうと騎士達は馬を走らせ狼を追います。狼も負けじと自慢の足で逃げようとします。
森に入るとケーキは溶けだしてしまい、ポタリポタリと垂れてしまいます。それを追いかけて騎士達は悪い狼と戦います。
カキーン! カキーン! 騎士達は剣を振るい、悪い狼は爪で抵抗します。そのうち悪い狼は仲間の狼を呼んで、森はしっちゃっかめっちゃか!
騎士達が気付いた頃には悪い狼の姿はありませんでした。するとケーキが垂れ落ちた跡が二手に分かれて道しるべとなっています。
悪い狼が逃げたのは右かな? 左かな?」
子供達は右だ左だと言い合った。私は過去の記憶が蘇っていた。
それは恐らくフリーデに会った二回目の話だった。
そしてまだフリーデに左手があった時の話。
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