"時には銃弾のように"
1 切り裂き通り三四の二○二号室に真っ白の四角いダイア封筒が届いていた。
切り裂き通り三四の二○二号室に真っ白の四角いダイア封筒が届いていた。宛先はムラサキ。私宛だ。
中身を空けてみると手紙の類いは入っておらず、弾が一つだけ入っていた。
「なんだそれ」
フリーデも気になって食い気味に近づいた。
「AKの弾だな」
それは世界で最も多く使われた軍用銃として、世界各地あらゆる紛争地域で使われるアサルトライフルの銃弾だった。私もガリルエースに変えるまで愛用していたAKは元彼でもある。
つまりこれは世界でもっともありふれた銃弾でもあった。それを封筒に入れて送ってくる意図が私はあまり理解できない。
「今からムラサキを殺すぞっていう脅しだったりしてな!」
「気の利いた暗殺者だ」
フリーデの冗談を聞き流し私は真剣に考える。私は世界各地で恨みを買いは晴らしを繰り返してきたので暗殺される理由はいくらでも考えられる。だがそうとは思えない。暗殺者ならこんな予告をせず、すぐ殺しにやってくるだろう。
何かのメッセージであることは間違いないがそれが全くわからなかった。するとフリーデが封筒を手にとって気付いた。
「ムラサキ、これ送り主書いてあるぞ」
「なんだと?」
私はフリーデ一緒にダイア封筒を覗き見た。
そこには簡単に「ロシスト 南国のジャングルにて」と書いてあった。それを見た瞬間、懐かしい顔が浮かび上がった。
茶色の軍服を着て赤いベレー帽を被り顔が傷だらけの強面な大男。そして幼少期の私と少年兵達を率いて戦った軍人。
兵を鍛え上げるために鉄拳制裁を躊躇なく行い、戦場に出向けば誰よりも体を張り先陣を切って指揮を取る。粗暴さはあれど時に優しく手を差し伸べ次の戦場へ万全の体制を整える。ロシスト大佐とはそういう有能な指揮官だった。
少年兵を率いて戦場に出向くという国際法に違反する手段を取りながらも戦争に負け国を失ったことを除けば、間違いなく人格者だった。
階級が大佐であるのに前線に出向いたのは、当時の劣悪な人材不足を思い出させる。あの国では階級が飾りだった。二等兵以下の少年兵たちの隣に銃を持った中佐少佐が居るなどザラだった。
「なつかしいな……」
そんな彼、ロシスト大佐が私にAKの弾を送ってきた。よく私の居場所を掴み渡せたものだ。それほど強いメッセージなのだろうか。
「会いに行こう」
私がそう呟くとフリーデも乗った。
「付いていっていい?」
「構わないが間違いなくロシスト大佐は悪人だぞ」
「加減して殴っていい?」
「そういうノリな出会いならいいが……」
そんな言いあいをしながら私とフリーデは南国の紛争地域にあるジャングルに向けて旅支度を始めた。
***
ジャングルの紛争地域は昼間でも暗い。加えて木々が無造作に茂っており道なき道を歩かなければならなかった。
加えて電波妨害が敷かれておりGPSは頼りにならない。紛争地域ではよくあることだ。私とフリーデは地図とコンパスを頼りに目的地へ歩いていく。
そしてようやく拠点へと辿り着く。そこには木の枝で作られた小屋などが並んだ一見すればジャングルに住む原住民達の村だった。
しかし拠点に居る者達は私やフリーデよりも幼い子供達しかおらず、彼らは全員アサルトライフルであるAKを手に抱え武装していた。
「敵だ!」
少年兵達が私とフリーデに気付くと問答無用で銃撃戦を開始しAKの銃声が荒れ狂うように鳴る。
「よく訓練されてらぁ!」
私は急いで銃弾の雨を避けながら事前に木の枝と白い布で作っておいた白旗を投げ込む。世界共通の降伏するサインだ。
しかしそれを投げ込んでも少年達は撃つのを止めない。少しよそ見するとその白旗は無残にも踏み潰されていた。
「優秀な兵隊さんだこって!」
私は少年兵達の練度が兵士としてゲリラとして優秀だと認めざる得なかった。さすがロシスト大佐が関わっているだけある。
「どうすんだよムラサキ、中央突破でもする?」
「いや待ち伏せしよう。相手が突っ込んできたところを無力化させる」
殺してしまえば楽ではあるがフリーデはそれを許しはしないだろう。私も少年兵達を殺しに来たわけではない。ロシスト大佐に会いたいだけなのだ。
私とフリーデは姿勢を低くしジャングルの木々に身を潜め待った。すると三人の少年達が駆け足で向かってくる。
そのまま突っ込ませ虚を突き足払いをする。そのまま腹に拳をぶつけAKを木々の奥に投げ捨てる。それを三回、四回、五回繰り返しても終わらない。
それでも私とフリーデは少年兵達を拳で説得した。次々と子供達が地べたに叩きつけられさらがな蟻地獄のようだった。
少年兵達が何十人も重なっていく。しばらくすると倒れた少年兵が起き上がり体を張って襲い掛かってきた。
難なくフリーデが左足で蹴り飛ばすが、彼らは死ぬまでやる気だ。そういう風に訓練されている。再び襲い掛かってくるだろう。
「いい加減にしてくれ! 私はロシスト大佐に用があるんだ! お前らに用はねぇんだよ!」
私はうんざりした。いわば彼らは過去の自分と同一な兵士とはいえ敵に回した時にこんなにも厄介だとは思わなかった。私も想像力が足りないもんだ。
「階級が一番高い奴は誰だ! こちとら話すをする意思があるんだ! 出て来い!」
そう叫ぶと木の上から銃撃が飛んでくる。そこに居るにはわかっていたので避けれはしたがまだ戦いは終わらない。
フリーデが上空へ飛びかかり事なきを得るがまだ銃声は収まらない。相手は死ぬまで戦う気なのだ。不殺の正義の味方とは相性が悪すぎた。
このまま兵の数が尽きるまでやるのか。フリーデなら即答で「やる」と言いそうだが、あいにく私はそこまで単純になれない。
「クソが! 全員説教してやるからかかってこい!」
そう言うとさっそく立ち上がった少年兵が私に襲い掛かってくる。だが動きが単純すぎる。右の拳を受け流し腕を掴んで投げ飛ばした。
「何も考えずに突撃して成果があげられると思ってんのか! もっとマシな命の賭けた方をしろ! 次!」
するとナイフを持った少年兵が向かってくる。既の所でそのナイフを投げてくる。そしてもう一本隠し持っていたナイフで仕留めようとしてきた。
しかしその手は前動作で読めている。最初に持ったナイフの構え方が投擲だとわかれば次に何か仕掛けてくること読める。そのまま二本目のナイフを叩き割り少年兵の腹を右手でぶん殴る。
「最初から偽の攻撃だと知らせる馬鹿がいるか! 本命を隠したいならフェイクも本気を出せ! 次!」
今度は片手に手榴弾を持った少年兵が走ってくる。だが手榴弾は投げずそのまま私に素早く突撃してきた。どうやら道連れを狙っているらしい。
私は足を上げ少年兵の腕を蹴り飛ばし手榴弾を奪う。ピンが抜かれていたのでそのまま空中高くに放り投げ空で爆破させ少年の頭は蹴り飛ばす。
「てめぇ目の玉ついてんのか! 敵の力量を見てから作戦を考えろ! そもそも誰一人協力しようとしねぇなあ!? チームワークはどうした!? 一人ずつ来たって一生私は倒せんぞ!」
そう叫んで私は少年兵達に説教する。気迫に押されたかみな静まり返ってしまった。
「どうした! お前らにとってこれは戦争じゃねぇのかよ!」
だが挑発しても誰も何も言わず少年兵達はただ睨むだけだった。
「戦争じゃないのならさっさとロシスト大佐のところまで案内しろ!」
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