"一片"
1 フリーデが何も言わず突然居なくなることはよくある事である。
フリーデが何も言わず突然居なくなることはよくある事である。
用事があって出かける時は「これからライブハウスに行ってマジックショー見てくるわ」ぐらいの伝言をフリーデはしてくれる。しない時は誰かを助けに行く時である。
つまり正義の味方として行動するときは話す間も惜しんでフリーデは出かける。ついでに壁も壊す。
なので切り裂き通り三四の二○二号室の壁が空いていてるのならばフリーデは誰かを助けに行ったのだ。皮肉なことに壁から吹く風が気持ちいい。
昨日も今日もで元気だな、と思った。私はいまだにカリーについて悩んでいた。
もしよければフリーデと熱心に議論を繰り広げたいという気分だったがそれも叶わず。
だがフリーデは必ず帰ってくる。焦らず家で待っていればいい。無為に暇を潰そう。
私は朝食のパンを食べながら壁の穴から外を見た。夜には雨が降っていたが今となっては気持ちの良い日差しだ。
日差しは私のその下にある看板をよく照らしている。マカイダ。私はふと思い出す。
切り裂き通り三四の一階には外壁が緑の草木で覆われた店がある。窓は黒いカーテンが垂れ下がり中は見えない。唯一のヒントは看板に書かれてある「マカイダ」という文字だけで、何の店か全くわからない。
人が入ったこともなければ出て行くところも見たことがない。今まで興味がなかったのでフリーデに聞きもしなかったがふと気になった。
マカイダとは一体なんの店だ?
「暇つぶし、か」
私は階段を降りてマカイダの前に立った。扉の取っ手を掴み中へと入る。
薄暗い店内だった。ビーカーや望遠鏡、地球儀などの備品が立ち並び独特の雰囲気を出している。
他にも絵画、ロウソク立て、古めかしい本の山、黒く大きな釜。次第に私は魔女というキーワードが連想された。
それは間違いではなかった。店の奥から足音を立てやってきたのは紫色の三角帽子、ローブを纏った少女。赤髪を揺らしその紅の瞳で私を見ると彼女は名乗った。
「ふふふふ……ついに見つけてしまいましたか。そう! 我の名は! 魔法を愛し魔法を使い魔法に使われる女!! 正真正銘の魔法使われ! 無限の魔女、黄金の魔女、奇跡の魔女、原初の魔女、そう呼ばれたかった女ぁ!! そう我の名はぁ!! 切り裂き通り三四で開業したはいいものの、何一つ考えず、何一つ商才が無く、赤字経営を続ける……けどちょっとおっぱいはある女ぁ!!」
私はその叫びを眺める。特に何もせず。
「はぁっ、はぁっ……ツッコンデモ、イイノヨ?」
「……」
「喋って! 無視しないで! ちょっと! 話しかけてくださいよ!」
どうやらこの見るからに魔女の格好をしてる女の子は、いじるほうが楽しそうだ。
「うう……マカイダです。しがない魔法使われをやってます、ドウゾヨロシク」
マカイダはそう名乗ってお辞儀する。東洋の文化だ。名前も東洋風だし出身もそうなのだろう。
「ムラサキだ。上に住まわせて貰ってるよ」
「知ってますよ。よく見かけますから。でもこうして会うのは初めてですね」
そう言ってマカイダは微笑む。第一印象はともかく、悪い人間ではなさそうだ。
「ああ、ところでここは何の店なんですぜ?」
「魔法使われの店です」
マカイダは両手を突き上げながら言う。
「時に人の悩みを聞き、願いを叶えるお店です! 最近は浮気調査とか家ネコ探しとか。こないだは家出した子供の捜索とか」
「私も世俗に疎いから偉そうに言えないが、それは探偵という奴じゃないかね?」
「うう……そうですよ。しがない探偵ですよーだ」
いじけるマカイダ。浮いたり沈んだり感情が豊かなもんだ。
「でもお力になれる事は多々ありますとも! 私は魔法使われ! なんでも知ってますよ!」
「なんでも、ね」
強気に出るマカイダを私は意地悪したくなった。
「私のスリーサイズなんてお前さん知らないだろ」
「うえからナナイチ、ゴーゴー、ナナハチです」
……嘘やん。
「ふっふっふ。私は全てを知っているのですよ。魔法使われですからね!」
「私が最近悩んでいることは?」
「カニバリストのカリーを救えなかったこと。彼女を殺した男を救うのは正しいか正しくないかを悩んでいる」
マカイダは全てを当て始めた。
「私が彼氏をガリルエースに変えた理由は?」
「AKの扱いにくさを日ごろから感じていたから。それで色々なライフルを試してガリルエースに落ち着いた」
「私のフルネームは?」
「パスポートにはムラサキ・シバと書いてあります」
「私を生んだ母親の名前は?」
「それムラサキさんも知らないですよね?」
怒涛の質問攻めにマカイダは全く屈しなかった。
「私が母親を知らないことも、お前さんは知っているんだな? マカイダさんよ」
「ふふっ。天才ですから。魔法使われを舐めてもらっては困りますねぇ。いっひっひ」
鼻で一息しながな自慢げにマカイダは語る。
雰囲気こそアホっぽい陽気な奴ではあるが得体の知れなさが感じられる。表面は見えるが底が見えない。
「といわけで偉大な魔法使われであるマカイダちゃんは、ムラサキさんの今欲しいものだってわかるんですよ」
マカイダはローブの中から黒いカードを私に差し出す。
「招待状です」
"DG"と金色で彫られていた。
その通り名を私はよく知っている。昔よく依頼を受けたお客さんだった。
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