3 「嘘だろお前……」
「嘘だろお前……」
驚愕した私はそんなセリフを吐くことしかできなかった。確かに、それはフリーデ・アッカーマンだった。見間違えない姿だ。
正義の味方であるフリーデが何故"DG"のマカイダと一緒に居るのか、私はまるで理解できなかった。脳に直接情報は入るものの全く整理ができていない。
驚きのあまり立ち尽くしている私にアスタロイドが背中を強く叩いた。ゴシック衣装から出した鎖で。イッタイ!
「ムラサキ、安定。持ち直し。治療必要?」
アスタロイドは変わらぬ冷めた口調で私を奮い起こす。仮面をつけているみたいな顔をしているが一定の優しさを感じさせてくれた。
「いや、必要ない」
私は気を取り直してガリルエースを構える。大丈夫だと自分に言い聞かせた。
確かにフリーデとの戦闘は避けたい。命の保障がないからだ。だが今私は完全武装している。手榴弾の予備はあるしロケットランチャーだってあと二本背負っている。弾薬も充分。彼氏であるガリルエースは頼もしいぐらい頑丈だ。
スーパームラサキちゃんモードである。備えは充分だ。なら一対一でも充分勝機はある。
だがそれはフリーデを傷つける前提なら、の話だ。
それでもなんとかなるかもしれない。私の横には鎖を操るアスタロイドが居る。前回タッグを組んでフリーデを拘束することに成功したコンビだ。
おまけすれば増援で国際捜査官のコッキーとトレナも駆けつけてくれるかもしれない。地上に出れば護衛艦五隻の援護と補給を受けられる。
諸々含めてこちらの有利に変わりはない。
そう思って私は一歩踏み出した。だがその瞬間また大釜から人が飛び出した。
それは銀色の人間。キラキラと輝く人形の怪人だった。だが左手と右足が存在せず一本足で地面に着地する。
私はその欠損部分を見て瞬間的にわかってしまった。フリーデには銀色に輝く義手の左手と義足の右足がある。
フリーデはこの銀人からその義手義足をもぎ取り付けたに違いない。あのデタラメな威力を出す頑丈な左腕と右足を、だ。
「困ったぜ。フリーデが二人居るようなもんだ」
私は冷や汗を掻く。フリーデとは何度も戦ってきたが二人のフリーデを相手になどしたことがない。想像もつかない大戦力だ。こんなことなら爆撃機に乗ってくるべきだった。
「さあ正義の味方さん、そこにいる正義の味方を倒してください」
マカイダは私とフリーデに向けてそう言った。
飛び掛ってくるフリーデと銀人。試しにガリルエースで発砲してみるがフリーデは左腕で弾く。銀人にいたってはその銀色の肌で全て弾かれる。
向かってくるフリーデ達の拳。防ぎようがない。私とアスタロイドは左右に散会し攻撃を避ける。
私の目の前にはフリーデが立ちふさがった。
「頼みますぜフリーデ。正気に戻ってくれ。お前さんは悪に肩入れする奴じゃないだろう!」
語りかけてもフリーデは返事をしない。ただ薄っすらな、にやけ顔を保ったまま左腕を私へ突き刺す。
私はバク転しながら拳をかわす。だが次々とフリーデの拳と蹴りは連打されていく。ただでさえ破壊力のある銀色の左手だけに防ぐことはできない。全てかわす。
「今ならそのわがままも許してやりますぜ。お前さんのことだ。一度でいいから仲のいい友人を裏切ってみたかったってな。そんぐらい言いそうなもんだ。さあ言ってみろ!」
フリーデは何も言わず左足で飛び膝蹴りを繰り出してくる。畜生が。黒いコートマントとおびただしい傷跡が様になってしまっている。これじゃただの悪党だ。
今のフリーデはあきらかに精神状態がおかしい。通常の状態ではない。マカイダが何か手を施して操っているのだ。ではその方法は?
「思いつかねぇ」
私の背と対を為して反対側の壁ではアスタロイドと右手左足だけの銀人が戦っている。アスタロイドも鎖を駆使して抵抗しているが攻め切れておらず防戦一方のようだ。
ともかくこのままではジリ貧だ。ロケットランチャーをぶっ放せば爆風でなんとかなるかもしれないがフリーデに傷が付く可能性が高い。あまりいい手だとは思えない。
少なくとも今の私は正義の味方なのだ。フリーデを殺すわけにはいかない。
「片っ端から試すしかねぇ!」
またフリーデの左腕が私を襲ってくる。思い切り力を込めた両腕でフリーデの銀色を羽交い絞める。
「抜けろ!」
そのまま体を捻り思い切りフリーデの腹を蹴り飛ばす。肉と肉が千切れる嫌悪な音が聞こえた。
私の両腕の中に銀色の左腕がボトリと落ちた。断面にはピンク色の触手たちが飢えたように激しく踊っている。
それでも構わずフリーデは私に襲い掛かる。回し蹴りで私の腹を的確に突こうとした。
「これでも食らえ!」
私は銀色の左腕を持ちそのままフリーデの頭に叩きつける。
除夜に鳴りそうな良い響きの手ごたえ。そのままフリーデは倒れこんだ。
今のうちだ。私は隙を見逃さずフリーデが持つ銀色の右足も抜く。相変わらず断面には踊るピンクの触手だ。
「どうだいフリーデ。洗脳されたお前さんは弱かったですぜ」
私は強がった。今回はうまく行ったが同じ手は二度と通用しない気がする。ならここぞとばかりと自慢した。
聞こえたのか、フリーデは唸りながら右手で目を擦った。
「ここは、どこだァ?」
寝ぼけているのだろうか。私は倒れているフリーデの上に被さる。
「私を見ろ」
「ひでぇ悪党ヅラだ」
即答だった。いつものフリーデが帰ってきた。私はちょっと、ほんの少し、少しだけ安心した。
「バカヤロウ。私は絶世の美女ですぜ。ちょっとはときめいて欲しいね」
「お? ここベッドの上なのか? それにしちゃ床固いぞ」
どうやら状況がよくわかっていないらしい。フリーデにとっては突然手足をもがれて私に押し倒されていることしか記憶にないのだろうか。
……それって私がフリーデを性的に襲っているということでは? いや誤解だからいいけども。
「緊急! いちゃついてないで援護! 早急に!」
アスタロイドの叫び声が聞こえた。さすがにアスタロイド一人では銀人は倒せないようだ。
「おう。なんかよくわからねぇがあの銀色をぶっ飛ばせばいいのか?」
「悪の組織"DG"が作った殺戮人形だ。正義の味方の出番ですぜ、フリーデ」
「よっしゃ!」
フリーデは右手だけで体を半分起き上がらせ指示を下す。
「ムラサキ! このまま俺をアレに投げ飛ばしてくれ!」
「アイアイサー」
私はフリーデの体を持ち上げ一回転する。勢いそのまま投げ飛ばしフリーデは宙を飛んだ。
「おらっしゃああああああ!!!」
フリーデは右手で銀人を殴る。頬に命中しそこから閃光が走った。光が一瞬だけ部屋を照らすと爆音が鳴り響く。銀人は顔から崖崩れのようにバラバラに砕け散っていく。
首はもげて体は崩れ落ち銀人は動かなくなった。
「うおう。ビビる威力だ」
一撃必殺だった。銃弾も効かない銀人をいとも簡単にフリーデはやっつけてしまった。
「嘘だろフリーデ。そんな威力は左手じゃないと出ないと思ってましたぜ」
「え? 普通利き手の方が威力出るだろ。俺右利きだぜ?」
フリーデはキョトンとした顔で地面に伏せながら言う。
「だいたい俺の左手と右足、今壊した奴から奪ったんだぞ」
「お前さんには二度と腕相撲を挑まないことに決めたよ」
私はうすら笑う。とにかくいつものフリーデが帰ってきた。戦いも終わった。一件落着だ。
「大変。マカイダが逃走。姿が視認出来ず」
「なぁにぃ!?」
丸々ハッピーエンドとは言いがたいようだが。
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