後編
第16話
「ひひひ、いい研究材料じゃ」
と白衣を着た老人は一枚の写真を手にしてほくそ笑む。
その写真には白い髪の少女の後姿、脱衣所らしい場所で撮影されたもので、少女は服を着ていない。
裸体の盗撮写真には違わないのだが、それよりも少女の姿形の方が異様だった。
少女の耳は動物の耳のように毛が生え、尻にはふさふさの尻尾も生えている。
「今時珍しくもないコスプレだぜ。それより前から撮ったヤツはないのかよ」
机に腰掛けてサバイバルナイフを研ぎながら男が言う。
軍人と言うよりはサバイバルゲームマニアのような、仰々しすぎる服装をしたその男は、刃の具合を確かめるように照明にかざした。
その様子を見ながら薄青いワンピースを着た黒髪の少女、永遠湖は「ロリコン共め」と侮蔑を込めた目で睨み付ける。
自分とさほど変わらない歳の女の子の盗撮写真を男どもに手引きしたのは自分なのだ。侮蔑は自分自身にも向けている。
日向と言う青年に適当な事を吹き込んで、パラダイスホテルの事を教えたのを聞き出し、監視カメラを仕掛けさせた。
この世から隔絶された存在。そういったモノを研究する機関は昔から存在する。心霊やら未確認生物もそのうちの一つだ。
永遠湖の家である水無月はそういった機関に資金提供をしている。はっきり言って金持ちの道楽なのだが、永遠湖は実娘とは言えまだ若いので、やっかいな部門の監督役を押し付けられている。
それがようやく成果を上げられそうだというのに……。この連中の不謹慎な態度には苛立ちを覚えずにはいられない。
マスコット扱いの少女は、水無月家のジジイ共に自分の力を知らしめてやりたいのだ。
永遠湖は、手持ち無沙汰にナイフを研いでいる『狭間調査機関』に所属する男を見る。
機関の実力者だというが、どうもただの軍事オタクにしか見えない。湯水のように金を浪費しては装備と称して怪しげな機器を調達してくる。
格好も軍服と言うよりSF映画か何かに出てくる海兵隊のようだ。鎧のようなプロテクターは至る所に電極やスイッチがあり、LEDが敷き詰まって明滅している。
全身に電線を巻いていると言っていい。
「クリスマスツリーかよ」
永遠湖は聞こえないように呟く。
永遠湖はその頃を知らないが、この機関は数十年前にも大ポカをやらかしているのだ。
有力な手がかりを得たが紛失、機関も一部解体された。
今追っているものがその手がかりに近いものかどうかは分からない。当時の記録はほとんど残っていないのだ。
機関内には本気で調査していない者も少なくない。それは当時からそうだったのだろう。
元よりバカバカしい話なので情報公開も狭い範囲でしか行われず、もっぱら事情を知らない探偵にやらせているのが実状だ。
方々に探偵を雇い、集めた情報からやっとそれらしいものに辿り着いた。
「それで浦木教授。その子はどうなの?」
「ひひひ、本物じゃな。見れば分かる、これは作り物ではない。突然変異か、遺伝子異常か。早く実物を拝みたいわい」
気持ち悪っ、と言わんばかりの表情で永遠湖は浦木から離れる。
写真を見て生物学の権威だかなんだかに意見を聞いたのだが、永遠湖にはただのスケベジジイにしか見えない。
「それで、どうやって捕獲するんだ?」
ナイフの男、立石が言う。
問題はそれだ。
人を張り込ませて捕まえられるなら苦労はしない。そんな事は散々やってきたのだ。
分かっている事は監視カメラには映るが、視認した者は一人もいないという事。
だが見えない訳ではない。ホテルのチェックインなど自分から姿を現す時などは当然だろうが、日向という青年は外部からの接触に成功している。
聞く所によると、彼らを見つけた時は雨が降っていた。
光学迷彩か、道端に転がる石ころのように気にされなくなる帽子の力かは分からないが、彼らのステルス能力は雨の日には効果が薄くなるのではないだろうか。
こちらも雨の日などは監視を強化どころか休んでいたはずなのだ。
だが雨の日に見つけて取り囲んだとしても、捕えられるのか?
そもそも何なのかも分からない連中だ。下手を打って失敗したらもう雨の日にも行動しないだろう。
ここは慎重に行かなくては、と永遠湖は思索を巡らせた。
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