狭間の旅人 ~FrameZone~
九里方 兼人
狭間の旅人
プロローグ
カン!
甲高い音を立ててボールが高く飛び、黄色い歓声が上がる。
野球と比べると大きめのボールは高く弧を描いて落ちてくると、皮製のグローブにキレイに収まった。
落胆の声が上がるも、直ぐに明るい調子に変わる。
都内からは少し外れた所に位置する
初秋の澄み渡った空が少し赤みがかる頃、閑散とするグラウンドとは対照的に各部室が賑わう。
ソフトボール部の部室で、女子達が着替えながら昨日のテレビや新しく出来たお店などの話に花を咲かせていた。
その部屋の隅で、ショートカットに白いふわふわの耳当てをした女子が体操服から腕を抜いて、マフラーのように首に巻くような形にする。
「お疲れ~!!
体操服にマジックで相沢と書いた女子が声を掛ける。
真白と呼ばれた少女はビクッと体を震わせたが、声の主を確認すると表情を和らげた。
「
「しょうがないよ。まだ病み上がりなんだから。あんま無理しないでよね」
半裸で仲良さげに語らう二人の前に三人組の女子が立つ。
「ちょっと村上さん。今日のプレーは何? それに随分長く休んでたようだけど」
明らかに先輩らしい中央の女生徒が高圧的に言う。
「高梨先輩。あの……、ごめんなさい」
敵意のこもった目で見下ろされた真白はペコリと頭を下げる。
「それに何? そのフリフリは」
右横に控えた女子が、真白の耳や手首のフリフリと言うよりはふわふわを指す。
あの……えーと、とおどおどする真白に円佳が横から割って入る。
「仕方ないじゃないですか。事故の傷が残ってるんですよ。誰だって傷跡なんか見られたくないです」
先輩にも怖じ気ず物申したが、
「小学生じゃあるまいし、私達はそんな事でいじめたりはしません。それに仲間なんだから、そんな事気にしないでもいいんじゃないの? こそこそ隠される方が、それこそ私達にとっては信用されてないような気分よ」
左横の眼鏡の女子が言う。
そ、それは……と円佳も口篭った。
「今度対抗試合があるんだから。もちろんブランクのあるあなたは出られないけど、みんなの足を引っ張るなら練習を控えてもらう事になるわよ」
むう~と不満げにする円佳の横で真白はひたすら謝り続ける。
「早く着替えて頂戴。部室は閉めて行ってよね」
と言って出て行く三人に向かって円佳がべーと舌を出す。
「まったく、私達は好きに楽しくやりたいだけだっつーの」
振り向いた円佳の目に着替え途中の真白の姿が映る。
さして大きくない胸にあまり括れていない腰は、円佳と同じ十六才のはずなのにまるで小学生のようだ。
円佳は真白と似た物同士という感じで仲良くなったのだが、事故で入院してしばらく見ないうちに前よりも小さくなったように思う。
それは自分が成長したという事だろうか、と内心首を傾げたが、
「早く着替えちゃお。大丈夫、私向こう向いてるから」
部室の鍵を返して二人帰路に着く。
「そのポーチかわいいね」
円佳が真白のお尻を見て言った。
「あ、うん。薬とか、入ってるから……」
少しバツが悪そうに答える。小さなポーチがお尻の位置に来るように巻いているのだが、確かにファッションとしては少し不恰好だ。
そっか……と、もうその事には触れず、二人は他愛の無い話をして別れた。
真白は自室に入り、カーテンを閉めるとポーチを外してベッドの上に投げ捨てる。
スカートに手を入れ、「いたたた」とさするとスカートのファスナーを下ろした。
半分ずり下ろしたような不自然な位置にある下着の後ろからは、白いふさふさとした物が飛び出していた。
それを後ろ目に見てから正面の大きな鏡に目を移す。
白いふわふわなファーで出来た耳当てに手をかけ、そっと外す。白いふわふわは耳から離れるが、一部はまだ耳に付いたままだった。
うう、と真白は鏡に写った自分の姿を見て泣き顔になる。
「一体……どうなってるのよ~」
と泣く真白からは、犬の耳と尻尾が生えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます