前編
第1話
「じゃあね~。また明日~」
と生徒達は挨拶を交わし、各々の帰路に着く中、白いふわふわの耳当てをした真白は円佳と共にいつもの道を行く。
だが真白はその慣れ親しんだ風景に違和感を覚えた。
「どしたの?」
円佳の問いに声を落として答える。
「なんか……人に見られてるような気がして……」
円佳は横目で電柱の陰に隠れた人影を確認する。
「ストーカー? っぽくないよね。探偵みたい、誰かの浮気調査でもしてんじゃないの?」
あんまり見ちゃダメだよ、と言いながら気にせず円佳は歩く。
馴染みのカフェでお茶しながら談笑する真白の目に、一人席に座る男が映る。
円佳と会話しながらもちらちらと見てしまう真白の様子に気が付いたのか、
「何? どうしたの?」
「いや……、なんかさっきの人がいるみたいな気がして」
「マジ? どこ?」
円佳は何気に店内のメニューでも確認するような素振りで見回すが、
「どこよ? いないよそんなの」
「服装が違うけど、同じ人の気がして……」
もう、と心底安堵した溜息を付き、
「何よそれ。わざわざ途中で着替えてついてきたって言うの? そうだとしてもそれこそホントの浮気調査か何かだよ。私達に関係無いって」
しかし真白は何か釈然としない。心が焦る。
男はこちらを見る事は無いが、自分を見張っているような気がしてならない。
ありきたりのスーツを着て、無表情で特徴の無い顔は何か人間とは違うような……そんな気がするのだ。
そう、特徴が無い。あまりに特徴が無さ過ぎて真白の目に付くのだ。
もう薄暗くなった帰り道、また同じ顔を発見してしまう。
いや、顔は違う。特徴の無さが同じような気がするのだ。気味が悪くなるものの、さすがにここまで来ると気分的なもののせいにも思えてくる。
日も落ちてきたのだ。気にしすぎるあまり、そう見えてもおかしくはない。
しかし真白は隣を歩く友人に切り出してみる。
「ねぇ、今日ウチ来ない? お母さん、帰り遅いんだ」
「ええー、今日は家の手伝いする約束になってるから~、また今度ね」
そっか、と円佳と別れて家に入る。
◇
真白が家に入ったのを遠目から確認した人影は足を止める。
髪は短く精悍な顔立ちと言えるが、これと言った特徴が無い。黒い服だがスーツではなく、薄着のシャツにダボついたズボン。
その全身黒ずくめの人影は辺りの暗さを差し引いてもかなり怪しい。
なぜならその影は今時珍しい腰帯の右側に棒状の長物、日本刀を差しているからだ。
赤い鞘に鍔が小さい。だが柄は柄紐ではなくラバー製のようだ。
そのやや後ろ寄りに差した長物に右手をかけて辺りを窺うように見回すが、通行人が彼を気に掛ける様子はなかった。
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