第15話
セキュリティの厳しそうなマンションの自動ドアが開くと、中からごみ袋を持った青年が現れる。
何気ない、いつもの日課だという感じだかその表情はどこか寂しそうだ。
両手に計四つの袋を持ち、ビンと缶が入った袋が互いにぶつかり合ってガチャガチャと音を鳴らすのを聞きながら、マンションに隣接しているごみ置き場まで歩く。
積み上げられたゴミの山の上に、持ってきた袋を投げ上げながら青年は「あれは夢だったのか」と思う。
刀みたいな物を持った兄貴はおっかなかったが悪い奴ではなかったし、何より妹は可愛かった。
あわよくば、という気持ちがないでもない。
そんな気持ちで助けたのではないと思いつつも、やはり何も言わず行ってしまわれるのは寂しいものがある。
書置きと少しばかりのお金は置いてあった。
迷惑はかけられないというありきたりの文面は、青年の心をより寂しいものへと変えた。
埃を払うように手を叩くと部屋へ戻ろう振り返る。
その前でいかにも高そうな車、リムジンと言うのだろうか、それが青年の前で停車する。
ドアが開き、スーツを着たごつい男が二人降りてきた。
何事か、と見ていると男達は青年の前にやってくる。
「失礼。尋ね人を探してます。この子達を知りませんか」
と写真を見せる。
よく見るまでもない。これはあの二人、真白と真黒だ。
あの二人が犯罪者のはずはない、こいつらの方がよっぽど怪しい。
「知りません」
そっけなく答えて立ち去ろうとすると、一人が道を塞ぐ。
「こちらの……、あなたと部屋に入る所もカメラに映ってるんですよ」
と言ってマンション内に設置された防犯カメラの物らしい写真を見せる。
青年はやや睨みを利かせて男を見る。
それがなんだと言うのだ。自分に真白を売れとでも言うのか。ヤクザか何か知らないが、絶対に口を割るものかという決意の篭った目で睨む。
「お待ちなさい」
やや険悪な雰囲気になった場を、柔らかい女性の声が和ませる。
「そんな聞き方では、答えないでくれと言っているようなものです」
リムジンのドアが開き、一人の女性が降りて来た。
女性と言うよりは、女の子だ。真白とほとんど変わらないか少し年上の、スラリとした長い髪の少女。
薄青のワンピースと髪を風になびかせて、優雅に歩み寄るその姿は真白の比ではない。すごい美人だ。
少女が歩み寄ると男達は道を開け、青年は美人を前にして少し赤くなる。
「申し遅れました。わたくし、
姉!? と驚いた顔をする。
明らかに似てないのだが、それを言うなら真黒とも似ていない。
「真白とは母親違いなんです。彼女は天涯孤独の身になって、ウチへと招いたのですが、真白はこの男と駆け落ちしてしまったのです」
と目を閉じて唇を噛む。
はあ……、と永遠湖の言葉に青年は肩を落とす。
そう言われれば合点はいく。あの二人は兄妹にしては怪しい部分があったし、ここで世話になり続けるわけにもいかない訳だ。
「わたくしは、真白に辛い生活をさせたくないのです。どうか……、どうか真白を助けてやってください」
と言って青年の手を取る。
胡散臭いと思いつつも、青年は永遠湖の匂いと手の感触に少し心を緩ませた。
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