第5話

「あいつらは、何なわけ?」

 どこに向かっているのかは知らないが、道中黙っているのも何なので、気になっている事を聞いてみる。

 未だに見た物が信じられないが、とても人間とは思えない。

「幸人は『リペアドール』と呼んでいた。この世の『修復者』だ。世界の歪みを修正し、あってはならない物を排除する」

「それが何で私を襲ってくるのよ」

 それだけ聞けば掃除屋か、警察みたいではないか。

「それじゃあ、まるで私が……」

 とそこまで言って真白は立ち止まり、恐る恐る耳に手を当てる。


 まさか……。


 これのせい? と声にならない呟きを漏らす。

「思い当たる節があるのか?」

 少年の問いに、真白は真っ青になって耳当てを外す。

 そこには白い毛の生えた動物の耳があった。

 それを見ても少年は特に驚く事もない。

「もしかして……あなたは知ってたの?」

 いや、と少年は否定する。

「これを……治せる?」

 何度か見せた不可思議な力で、これも治せたりしないのだろうかと期待するが、それも少年は否定する。

 不可能とは言わないが、完全に戻るとも限らない。下手をすればもっと酷くなる可能性もある、と話す。

「少なくとも幸人が何をしたのかが分からないと、下手な事はできないだろう」

「幸人? お父さんが? 私に何をしたの?」

 父は死別してから、かなり経っているはずだ。思い出というか記憶が無いのだから子供の頃だろう。

 真白の交通事故はひと月ほど前のはずだ。もっとも真白自身は事故前後の記憶は無いが。

「かなり長い間眠っていたから、記憶が混乱してるんだって……」

 だがそれ以前の事を思い出そうとしてもひどく曖昧で……、父についての記憶らしい記憶が無い。なのに小さい頃に死別したという記憶も無い。

 そんな話は聞かされた事が無い。父と一緒に過ごしていたような気がするのに、その思い出が出てこない。

 うう、と思わず頭を押さえてうずくまる。

 思い出すのを諦めて立ち上がり、少年を見ると目を閉じて唇を噛んでいる。


「そうか……。幸人は……、死んだのか」

 悲しんでいるのだろうか。だが父が死んだのは何年も前のはずだ。

「済まない。俺は君を守ってくれと頼まれただけで、君の疑問に答えてあげる事は出来ないんだ」

「頼まれたって……父に? いつ?」

 真白の問いに少年は答えない。そのまま踵を返して歩き出す。

 その後姿は本当に父、幸人の死を悼んでいるように見えたので、真白はそれ以上問い詰める事はしなかった。

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