第3話
着の身着のままで出てきた真白はとぼとぼと少年の後を付いて行く。
あれは何だったのかの説明を期待したし、一応助けてくれた事には違いないようなので、ついて来たのだが何も言わず歩くだけだ。
色々と聞きたかったが、完全に話しかけるタイミングを逃してしまった。どう話を切り出そう……と考えていると少年は足を止める。
「ここを出れば少しは時間が稼げる。直ぐに見つかるがそこに居るよりいい」
ここを出るって、何も無いただの通り道ではないか、と訝しげに少年と通りを見比べる。
だがこの先へ行け、と言っているようなので、少年を追い越すように三歩進んでから後ろを振り返る。
「俺はこの先には進めない。いや、進めるんだがえらく難儀する」
と言って、少年はパントマイムのように何も無い所に壁でもあるみたいに手を付く。
何を言ってるんだろう、と真白は眉を動かす。
この人も十分怪しい。こちらに来られないと言っているのならこのまま逃げた方がいいのか? と数歩離れるように後ずさる。
だが少年に追ってくる様子はない。本当にこちらに来る気は無いようだ。
しかし家に戻ってもさっきの奴らがいるかもしれない。でも母親が帰ってくると母の身が危険かも……。
しかし自分には何も出来ないし、警察に相談しようにもさっきの事を何と言っていいのか……。
何者か分からないが、今はこの少年に頼る以外ないように思えた。
「ねぇ、あなた名前は?」
ただの路地に立つ二人だが、間に川でも流れているのかという距離感を置いて問いかける。
「名乗る名は無い。敢えて言うなら狭間の住人だ」
露骨に「なにそれ?」という顔になったが、単に言いたくないだけなのかもしれないと特に気にせず質問を続ける。
「どうして、私を助けてくれたの?」
「幸人に……君のお父さんに、助けてくれと頼まれたからだ」
お父さん? 一体いつ? なんで? と次々と疑問が浮かんだが、こんな少年が自分と父を知っているなんて……。
「私の父とどういう関係?」
「幸人は俺の恩人だ」
どういう恩義があるのかは分からないが、そう言われれば自分を助ける道理はあるのだろうと思う。しかしその経緯をここで聞く気にはなれない。
真白は夜風にぶるっと体を震わせる。
「ねぇ、一度着替えを取りに帰りたいんだけど。それにお母さんが心配だし」
夜通し室内着で外を歩くわけにもいかない。
「あいつらは君を狙っている。君が居ない所に危険はない」
そんな事言っても……、先の連中が自分が居ない事を知らなければ意味ないではないか。
「でも、やっぱり帰りたい。心配するだろうし、それにあなたはこっちに来られないんでしょう?」
「君の手を借りれば移動できる。戻るなら必要ないが、奴らが見失うまでもう少しそっちに居た方がいい」
見失う? こんな見通しのいい所にいる方が見つかりやすいのではないのか? と思うが今更でもある。
「どのくらい?」
「もうそろそろ大丈夫だろう。用を済ませたら、また別のエリアに移動しよう」
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