第22話
ホテルの部屋を取り、ベッドに座って休む。
真白は薬を買ってくると言って出かけて行った。
一般的には若い男女が二人で入り、宿泊する事なく出て行く事が多いホテルなのだが、怪我人を休ませたいと言えば入れてくれた。
「あなた達は何者なの?」
ベッドに腰掛け、立ったままの真黒に聞いてみる。
「狭間の住人だ」
「それって何なの?」
「あえて言うならこの世とあの世の狭間に住む者、闇に生きる者だ」
要するに化け物か、という言葉を永遠湖は飲み込む。
本当にこんな連中を捕獲するなど可能なのか?
姿を消し、時間を止め、ワープして、テロリストの一団をも簡単に制圧する。
捕まえられないわけだ。
だが仲良くなる事でかなりの情報を得る事も出来た。むしろ今それが出来るのは自分だけなのだ。
「『フレーム』って何なの?」
「全ての物体を取り囲む『枠』だ。俺も、君もフレームに囲われている。この部屋もだ。システムは全ての物体を一律に管理しているわけじゃない。フレームをより大きなフレームの中に収める事で管理をやり易くしている」
特に隠さずに教えてくれる真黒に少し悪い気がしてしまう。もっとも意味はさっぱりだが。
「システムでもっとも大きなフレームは『宇宙』という事になるが、それだけ大きなフレームには触れない。俺には部屋のサイズが精一杯だ」
「あなたはそれを誰かに教えてもらったわけ?」
どこかにそのフレームとやらの師匠でもいるのだろうか。
「幸人、真白のお父さん達が作った言葉だ」
真黒の言葉に永遠湖は拳を握り締める。
それはウチの研究機関ではないか……。狭間を研究している者はそうはいない。あいつらは何の資料も残さずに、調査対象からそれを教えてもらう事になるとは……。
申し訳ない気持ちは一気に吹っ飛んだ。こうなったら根掘り葉掘り聞き出してやろう。もちろんそれは自分だけの手柄だ。
しかし真白にそんな縁があったとは……、だが納得も出来る。何の縁もない女子高生が、狭間に巻き込まれている方が不自然だ、と永遠湖は納得した。
「さっきの……、あのいっぱい出てきたのは何なの? 仲間がいるわけ?」
「あれはリペアドール、世界の修復者だ。普段は俺達の敵になる事が多い」
また分からない言葉が出てきた、と口を曲げる。
「レストランには人が多かったから……、しかしテロリストは皆同じ武器を、全員が持っていたからな」
「真白は人間みたいだけど、あなたは? 前は普通に生活してたの?」
「俺は幸人達にこの世に引きずり出された。狭間に残された人間の残滓を寄せ集めたモノだ」
意味が分からないという顔をする永遠湖に、真黒は刀を抜いて何もない所を切りつける。
空間に裂け目が出来、割れた穴から全裸の男が転がり落ちてきた。
転倒した男は「いたた」と頭を押さえて立ち上がり素っ頓狂な声を上げる、
「わーっ、なんだ!? 誰だあんたらは! 京子? 京子はどこ行った!?」
股間を隠して喚く全裸の男に刀を突き立てると粒子になって消えた。
「前にこの部屋を使っていた人間の残滓だ。今の男は情報が新しいから完全に近かったが、時間が経てば欠損していく。同じように俺は過去に存在した人間の情報から欠損を補い合った集合体。誰でもなく、過去もない」
表情も変えずに刀を納める真黒に、少し顔を赤くした永遠湖が目を伏せる。
こういう場合、普通は女の方を出さないか?
どうもこの少年からはそういう男らしさを感じない。一見大人しそうな真白が心を許すというか、あっさりついて行くのも分かる気がした。
しかし考えてみればホテルの一室に男女が二人きりなのだ。
真黒は男として見ても悪くはない。普通の人間ではないという事が分かっても、それは永遠湖の好奇心を刺激しただけだった。
足さえ挫いていなければ……。いや、方法ならいくらでもあるか、と考えた所でドアが開き、白髪の少女が入ってくる。
「まったく」
永遠湖は少し意地悪な目で真白を睨み付けた。
真白が買ってきた薬を広げると、脇腹の傷を消毒しようと永遠湖はワンピースを脱いで下着姿になる。
「永遠湖さん!?」
動揺する真白が向ける視線の先、真黒を見て、
「平気でしょ? この人は」
と平然と傷を消毒する。
「ねぇ、真黒の力で傷は治らないの?」
「出来るが……、治るなら普通に治した方がいい」
絆創膏を張り、足を湿布して包帯を巻く。
「それにしても永遠湖さん、スタイルいいよねぇ」
と真白が永遠湖の腰を見て言う。
そう? と立ち上がって括れを見せつけるように腰を回す。
「本当に内臓入ってるんですか?」
「私もたまに心配になるー。どうなってるのか一度見てみたいよね~」
と笑っていると真黒が刀を抜き、永遠湖の胴をスライスする。
え? と固まっていると永遠湖の腰がダルマ落しのようにスライドした。
「ちょ、ちょっと! 何やってんのよ!」
「いや、見たいと言ったから……」
早く戻して~、と慌てふためく真白の横で、永遠湖は自分の胴体の輪切りを見ながら「動かない方がいいのか?」とひたすらバランスを取っていた。
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