最終話 そして

 いつもの放課後。といってももうすぐ夏休みなので、クラスメイトはどこかそわそわとした様子だ。


「水瀬ー。遊びに行こうぜー」


 そしていつも通り宗太郎は遊びに誘ってきた。演劇部はやめたためいつでも遊びに行くことは出来る。


 出来る、んだが……。


「すまん、今日予定あるんだよ」

「チッ!!!!!!!!!!」

「どんだけ舌打ちデカいんだよお前!」


 バカみてえな大きさの、もう爆発音みたいな舌打ちを噛ましてくる宗太郎。理由も言う前から何だこいつは……。変に注目されてるじゃねえか。


「予定ってどうせ成宮ちゃんだろ? あーあーやだやだ。明日水瀬が引っ越すことになって遠距離恋愛からの悲恋になれば良いのに」

「そしたら早奈んちに置いてもらうよ。瞳子さんも受け入れてくれそうだしな」

「ファッキン!!!!! 図書室行ってくる!!!!!」

「あ、おい……」


 俺の言葉も待たずに教室を出ていく宗太郎。今日の予定の相手は早奈じゃないんだが、まあ良いか……。どっちにせよ女子だから余計にキレそうだ。


「水瀬先輩ー」


 噂をすれば何とやら。スライドドア付近に立って俺を呼んだのはこれから一緒に帰る予定の綿だ。

 今日はAチームが休みということで、前に言っていた母さんと会わせる約束を果たすことになっている。断じて浮気ではない。断じて。


「おー? 水瀬ってば浮気ー? 早奈に言いつけちゃうよー?」

「うるせえ違えよこの女子学生モブその一」

「誰がモブよこのシスコン浮気男!」

「呼び名が不穏すぎるだろうが!」


 クッソこいつらいつまでも紅葉とのことをネタにしやがって……! 覚えてろよあのモブ女め!


「ふふっ、水瀬先輩ってばいつもこんな感じなんですか? 愛されてますね」

「からかわれてるだけだ……」

「それが愛されてるって言ってるんですよ。とりあえず行きましょう。さ、早く早く」

「お、おう」


 グイグイと俺の背中を押してくる綿。後ろでモブが何か言ってた気がするが無視だ無視。どうせ俺を貶めてるだけだ。

 てか綿のやつ、何かいつにも増してアクティブだな。そんなに母さんに会いたかったのか。それなら一ヶ月ほど時間を空けたのは悪いことしたのかもなぁ。


「……何かそう考えると、綿って案外子どもだな。尻尾振ってる子犬みたいな話だろ?」

「は? 喧嘩売ってるなら女子のコネクションをフルに使って買いますけど」

「すまん忘れてくれ。俺が悪かった」


 脅しのレベルが最上級すぎる。もう不用意に綿は敵に回さないでおこう。そう誓ったのだった。




 帰り道を他愛もない話をしながら歩くこと十五分程。俺と綿は水瀬家に到着した。俺はドアを開け玄関で靴を脱ごうとする……が。


「すまん綿。また今度にしないか?」

「はい? 嫌ですよ何でここまで来て帰るんですか」

「いや、だって……」

「おっかえりー楓真ー! 驚いたでしょー先に楓真の家に帰るサプライズ……。ねえ」

「ッ!?!?」


 ビクゥ!? とビックリし過ぎて俺は肩が弾け飛んだ錯覚を覚える。そこには満面の笑みを早奈が立っていた。そして早奈は静かな憤怒の顔に表情を変える。何を言っているかわからねえと思うが(ry


 いややっぱ居るよな!? だって早奈の靴が何故かあるんだもの!


 ……多分怒ってる理由は、言わずもがな、だよな?


「いや、その綿はその辺で拾ってきた犬ってか……」

「にやり」

「何口でにやりつってんだ綿」


 ドアに黒板消しを挟んだ小学生みたいににやにやした顔……え? 何する気なんだこいつ? 普通に怖いんだけど。


「前に先輩が俺の家に招待してやるって言ってたんです! 私は成宮先輩に悪いからって断ったんですけど……水瀬先輩が無理やり……」

「お、お前嘘だろ!? とんでもない嘘吐くな!?」

「楓真」

「違うって! 俺が浮気なんかするわけねえだろ!?」

「他の女の子とキスもしてるくせに?」

「あれは妹だろ!?」

「妹とキスするのもどうかと思いますが……」

「うるせえ綿は黙ってろ!」


 コイツさっきから面白がりやがって……! 俺が今どんだけ焦ってると……!


「ご、ごめんなさい……。私、悪気はなくて……」


 白々しい泣き真似。もし綿が宗太郎だったら助走つけてぶん殴ってるレベルだ。

 俺と綿が靴も脱がずに言い合っていると、廊下の奥のドアがガチャリと開く。


「あら、演技の上手な子がいるのね。あの子がフウちゃんの言ってた女の子?」

「母さんか……」

「!」


 目を見張る綿。さっきまでとは全く違う様子で、本気で驚いたのが伝わってくる。いつも余裕そうだからか、何となく珍しいなと感じた。


「確か、綿ちゃん? 私に会いに来てくれたのよね? ささ、上がって」

「あ、あの、はい! お邪魔します!」


 ペコリとお辞儀をして靴を脱ぎ、綺麗に揃えて母さんの後をついて行く。ちなみに俺は靴も脱がずに立ち尽くしている。


「楓真」

「はい……」

「楓真の部屋で待ってるから。絞り尽くしてあげる」

「待てお前それだと卑猥な意味に聞こえるから! 怒る方のこってり絞るだろ!? 下に母さんも綿も居るからな!?」

「わ、わかってるよこの変態楓真!」


 早奈は顔を真っ赤にして階段をかけ登っていく。ふわりと翻った制服のスカートはダメ押しで俺にダメージを与えてくる。


「……まあ、誤解もすぐに解けるか」


 なんたって俺と早奈は幼馴染み。そして今は恋人同士だ。わかり合えないはずがない。


「楓真ー!!! 早く来ないと三股クソ野郎って噂流すからねー!!!」

「おまっ彼氏にする仕打ちじゃねえだろ!? てか紅葉カウントすんな!」


 ……うん、わかり合えるはずだ。多分。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺にめちゃくちゃくっついてくる女子が幼馴染みで元カノな件 しゃけ式 @sa1m0n

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ