第7話 Bチームの主役

 週明けの月曜日の朝礼前。俺はいつものように教室で宗太郎と駄弁っていた。


「そうだ水瀬。カタログは見たか?」

「眼鏡のあれな。正直どれも変わらなくね……?」

「はぁ!? バカかお前! 良いか、まず眼鏡には色フレーム大きさ派手地味と色々種類が分かれていてだな……」


 これは長くなるな。こいつの前で眼鏡の否定と図書室の女子の話はしたらダメなこと忘れてた……。

 俺は宗太郎の眼鏡講義を右から左へ雑に流していると、教室の後方のドアにうちのクラスではない顔が見えた。こちらに用があるようで、こちらへずんずんと歩いてくる。


「おはよ、楓真」

「おお」


 俺と宗太郎に割って入って挨拶してきたのは香月友愛こうづきゆま。一昨日早奈と紅葉と昼飯を食べていた時話題に出てきたBチームの主役のことだ。ボブカットの大きなつり目、あと乳がデカイ。身長の割に乳がデカイ。大事なことなので(ry

 まあそんなことよりも。俺はいつものやつを投げかける。


「おはようさん、友愛フィリア

「誰がギリシャの四つの愛の一つよ」

「でもフィリアじゃなかったらアガペーかストルゲーか……。……あ、お前まさかエロスか?」

「まずはそこから離れなさいっての! 友愛ゆまよゆま! 友愛ゆうあいじゃなくてゆま!」

友愛ゆまはいつも良い反応してくれるなぁ。あ、エロスだっけ?」

「ゆま、って何回言わせんのよアンタは」


 こいつのツッコミセンスは流石だな。くだらないかつしつこいとわかっててもボケてしまう。


「香月ちゃん。おはよー」

「ん」

「相変わらずオレにだけは素っ気なくね!?」


 続けて宗太郎も挨拶をするが、案の定軽く流される。まあそうなるよなぁ……。こいつの第一印象は最悪だったらしいし。


「アンタアタシとのファーストコンタクト忘れたの? 図書室で勉強してたらいきなり“オレの面倒とか見てくんない?”とかわけのわかんないナンパしてきて……」

「宗太郎……、だから図書室で勉強する系女子がナンパに引っかかるわけないんだよ」

「ナンパじゃなくてお誘い! ただ一緒に勉強しようぜーって言っただけだろ!?」


 動機が不純だからナンパだろ。

 まあ何にしても宗太郎の見た目がもうナンパなんだよ。やめる気はなさそうだからもう言わねえけど。


「まあそんなことは置いといて」

「やっぱ辛辣!!」

「三日前の部活紹介の演劇なんだけど、やっぱり流石Aチームね。見事だったわ」

「俺も思ったよ。みんな頑張ってた」

「へー。オレも見たら良かったなぁ」


 宗太郎が羨ましそうに呟く。

 部活紹介の時間は放課後だし、演劇を見ずに帰る人も結構いるんだよな。他の部活に行ってる人とかもいるわけだし、必ずしも全員がみているのではない。


「でもBチームも中々らしいな? 紅葉……、妹から聞いてさ」

「そりゃアタシがやってるんだもん。当然よ」

「おお、紅葉もお前のことを褒めてたよ。一人凄い上手い人が居るって」

「流石水瀬真紀の娘。わかってるわね」

「……ん? 誰がなんだって?」

「アンタの妹が水瀬真紀の娘って言っただけよ? アンタがそうなんだから妹さんもそうじゃない」


 演劇部全体が知ってるってBチームも含めての話かよ。あんま知られて注目されるのは嫌だからやめてくれねえかな。

 そこでハッとした顔で俺に視線を向ける宗太郎。何だ?


「それオレも知ってるわ。てか多分うちのクラスは全員知ってるんじゃねえの?」

「は?」

「だって成宮ちゃんよく言ってるじゃん。母親同士はテレビで見るより仲良しだって」

「アイツ……」


 まだ登校してないから何も言えないが、教室に入ってきたら説教だ。言うなっつってんのに。


「アンタの妹はどっちに入るの? Bチームうち?」

「よくわかったな」

「アタシがアンタの妹なら成宮とは同じチームには入りたくないもの」

「血気盛んなのか変なところでネガティブなのか……よくわからん」


 早奈と勝負したいからか、早奈と一緒だと主役を取れないからか。まあ紅葉の理由は前者だけどな。


「水瀬真紀の娘でしょ? やっぱり凄いんでしょうね」

「当たり前だろ。なんせうちの妹だからな」

「シスコン……。今日から仮入部期間だし、手放さないようにしないと」

「早奈に勝ちたいらしいし、多分そんなことにはならないと思うがな」

「ふーん」


 髪の毛をクルクルと弄りながら興味無さげに生返事をする友愛。視線も明後日の方向に向いているが、本当に興味が無いわけではないはずだ。

 なんせ新入部員の質はそのまま七月にあるAチームとBチームの対抗戦に直結する。負けた方は地区予選にすら進めないので、必死にもなるだろう。


「なぁ水瀬……? オレのこと忘れてない……? 寂しいよ……?」

「あ、成宮来たわね。じゃあアタシ帰るから」

「んー、紅葉をよろしくなー」

「やっぱりお前らオレのこと忘れてね!?」


 友愛はともかく、何故か早奈は友愛のことをめちゃくちゃライバル視している。そのため出会うと毎回ギスギスしており、二人は極力出会わないようにしているのだ。クラスが違うのはせめてもの救いだな。あと宗太郎は知らん。


「おっはよー楓真ー!」


 ドア付近から大声で俺に挨拶をする。ハツラツとした表情。朝から元気だな、早奈は。


「……あ! そうだ早奈! お前また親のこと言ったんだろ! こっち来い説教してやる!」

「ええ!? 何で朝イチからお説教!?」


 コロコロ変わる表情もいつも通り。俺は後ずさる早奈を追いかけた。

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