31話は牛
クエストを受けるにたって、まず始めに確認したのは、戦力だ。
一先ず彼らが使っているという仮の拠点に案内してもらう。
少し生活感のあるキャンプ、と言ったらいいのだろうか。
基本的に綺麗にされていて、住み心地が悪くなさそうな場所だ。
「ガイルさんは、基本的にはその片手剣と盾を使っているんですね?」
「如何にも。
某の装備は全てが黒鋼製。
丈夫さにかけては随一だ」
「全てって言ったか?」
そこでジカさんが返した。
俺からすればすごいという感想だけなのだが、ジカさんは何かあるのだろうか。
「黒鋼はその丈夫さと強靭さはほかの鉱石と比べると頭一つ飛び抜けている。
しかし、合金にすることが不可能な点と、作られた装備全てが超重量になってしまうから、全身装備なんて……」
ジカさんがぶつくさとガイルさんの装備を見ながら呟く。
見る限り、ガイルさんの装備は黒一色。
手甲に関してはヒビが入ってしまっているが、その鎧には無数の傷が見えるだけで、破損はしていない。
「ガイルは特殊な力を持っています。
彼の前に重量の制限はないのです」
「逆に言うと、それしか取り柄がないのですがな」
ジカさんは、そういうスキルが? なんて言っているが、俺からしたら気にする点はそこではない。
彼が本当に重さを無視できる力を持っているとしたら、恐ろしい。
顔こそトカゲのようで気持ち悪いが、特筆すべきはその体。
筋骨隆々で、鍛え上げられている。
しかも、その全てが無駄な筋肉ではなく、戦って着いた筋肉……。
前世の記憶でよく見る、強い人たちの特徴そのものだったので、思わず分かってしまった。
もし、そんなトレーニングを出来なくなるような能力を持ちながら、あの体を得たとしたら……。
「で、ガイルさんは近接の、それも防御重視、重さ重視なんですね?」
そこで俺は考えを辞める。
なんだかまるで戦うのを前提とした考えをしてしまったためだ。
「それで、そちらのべナさんは、どういう戦い方を?」
話の先をべナさんにする。
まずはやるべき事をやり切ってから。
考えるのはそれからでいい。
「私は、星の術を使います」
ジカさんを見る。
知らないらしいな。
「星の術、というのは?」
「いえ、特に難しいことではありません」
そこで言葉を一旦とめたべナさんは、少し考えてから、
「星に手を伸ばしたことはありますか?」
俺とジカさんは疑問符を浮かべる。
その様子に、べナさんはふふふ、と笑って、
「普通は、伸ばしたことがあるはずです。
私の術はそれに習い、人の奥底にある手を伸ばす、それにたどり着こうとする意志を助長させるものです」
【ヘイト……注目を集めるスキルだ。
結構ある】
ジカさんからのチャットで、理解する。
攻撃の目標を決めさせれるのか……。
確かに、堅固な兵が攻撃を受け持つのはよくある話だし、そこに攻撃を集中せざる負えない状況を作ったり、ってのが実際にあったのを考えると、ありだな。
ゲーム経験はほとんどないに等しい俺は、前世の記憶に照らし合わせて考え、納得した。
「まぁ、あなたの場合は、一度で気づき始めて、弾き続けていたんですがね」
俺の方を見てそういうべナさんに、俺は驚愕する。
その言葉に俺も驚き、同時に納得する。
あの時のレジストはべナさんのものか。
「たまたまでは無いでしょうか?」
「…………そうでしょうかね……」
意味深な返事に俺はなんかしたか? とビクビクする。
「それじゃあ、こっちの話だな」
ジカさんが立ち上がり、話し始める。
「俺はクエスターの奴らの装備を作っている。
鍛冶師のジカだ。
基本的には戦線に立てないが、その代わり回復とか陽動は引き受ける。
存分にこき使ってくれ」
「……もしや、貴方がそちらの機械を?」
「あぁ、あんたはもう分かっているだろうが、そいつの機械も、オール黒鋼だ」
「……なかなかの業物ですな……」
「褒めてくれんな。
こいつはこれをあと三丁求めているんだよ」
ガイルさんの関心の言葉に、ジカさんが返す。
その言葉に驚いたガイルさんがこちらを見るので、俺はゆっくり立ち上がりながら、
「あ、あの、諏訪です。
銃を使います」
それしか言えなかった。
…………馬鹿野郎ぼっちに自己紹介を求めるなよ。
普通に話すのはなんだかゲームみたいでいいんだけど、自己紹介とかそういうみんなの前に立つ、みたいなことを連想させるものは未だに苦手だ。
頭が真っ白になって、話せなくなる。
「諏訪……と言ったな」
「あ、はい」
「……分かった」
ガイルさんは、俺の自己紹介を聞くなり、考え込んでしまった。
俺の名前に考える要素あった? と思い返す。
「で、だ。
こいつの銃なんだが、強力な方は数が限られている」
「残り、三十一発です」
先の戦闘でガイルさんに二発、べナさんを見つけるために三発撃った。
そして残り三十一発。
三回分の弾を貰ったが、これで足りるのかと不安にすらなる。
ちなみに支給品の弾に関しては、サブマシンガンとか持ってこない限り尽きないほどの量が、クエスト変更時に貰えた。
「それでだ。
まずは諏訪の攻撃がしっかりと敵さんに聞くのかどうかがわからないと話にならない」
そこで、とジカさんは俺の方を叩いて、
「こいつ一人に先遣をやってもらう」
首が史上最速で曲がった。
『殺したもんが勝ちは、まぁ二流だ』
「無茶苦茶だな……」
俺は溜息をつきながら、壁伝いに歩いていく。
明かりを持てば直ぐに気づかれるそうで、暗い洞窟の中を夜目をきかせながら歩いている。
確かに、俺のスタイルは本来ならば、暗殺とか気づかれないように行くのが正解だ。
しかし、拳銃に武器を固定してしまった以上、そういう方法は取らづらくなっている。
いくらデザートイーグルが威力が高かろうが、飛距離が劇的に伸びているわけじゃない。
俺の拳銃では、精々が二三十メートルが関の山だろう。
だから、逆に言うと、これで俺は見知らぬ強大な相手に二三十メートルの距離に近づかなければいけない、ということで、
「あいつな」
遠目で確認する。
視界にしっかり入っていれば、HPバーの表示は有効だ。
最早夜目ではなくゲームのアシストになっているのだが、そこら辺は気にしない。
洞窟の曲がり角の影からこっそり見ている感じ、50メートル程の遠さだ。
「姿勢を低く」
姿勢を低く、
「呼吸は深く」
呼吸は深く、
「視線は高く」
見下ろす程に、
「言葉を込めて」
弾一つ一つに、
「地に足つけて」
されど歩みは空を歩く様に、
駆けるっ!!!
1秒で気づかれる。
2秒で攻撃態勢に入った。
3秒で俺は銃を撃っていた。
4秒で股下をくぐった。
5秒で攻撃を見届けてから、HPバーを見る。
6秒で減ったことを確認する。
7秒で相手の面を初めて見た。
「牛ね」
ミノタウロス。
やけに今日は亜人と接触する日だ。
俺は足元にジカさん特性の煙玉を打ち付けて、そこから消えた。
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