赤く揺らめく22話

 五回目のクエストチャレンジ。


 俺は三回目のクエストチャレンジで得ることが出来たスキルを、四回目で試そうとして、盛大に失敗した。


「五回目だけど、今回は難易度七を一回目に、消費が激しかったら難易度五に向かうってことでいいわね?」


 すっかりリーダー感が溢れてきたカナリアちゃんに、俺以外の二人は頷く。


 対する俺は、ぼさっとしながら自分の手のひらを眺めていた。


「諏訪!」


「っ!……なに?」


「だーかーら、最初七で、弱ったら五、ってこと」


「りょうかい」


 俺は四回目のクエストを思い出す。


 カナリアちゃん曰く"明らかに普通じゃない"スキルにギフト。


 俺は溜息をつき、みんなに従ってクエストに向かった。


「……じゃ、いくわよ」


 特にフィールドやモンスターに感慨がわかなくなってきたタイミング。


 みんなは着いた途端武器を携帯し、準備を始めつつ、歩く。


 なんか知らないけど、俺がよく失敗するせいか、みんながかなりの成長速度である。


 でも、ガチ勢というよりは、真剣に遊んでいる雰囲気は十分に感じられる。


「ねーねー、月曜日のの宿題さー」


「……もう終わった」


「私は半分終わったわ」


 宿題なんてワードが出て、尚且つあの背の低さ、華奢さ。


 俺より小さい子達が真剣に取り組んでいる様子に、俺は武器を準備する。


 3回目と違い、四回目までに貯まったイベントクエストの報酬を全て売ることによって、新しい武器を、一つ手に入れた。


 AK47。


 世間一般的に一番アサルトライフルっぽい銃だ。


 しかも、実式。


 30発の装弾数に、なんと言ってもフルオート。


 セーフティを外し引き金を引けば、込められた弾の数まで連射する。


「諏訪さん、それ、高かったんでしょ?」


 俺はキャントちゃんからの言葉に、しみじみと頷き、


「ジカさんに頭を下げた…………」


 そもそも、壊れてしまったショットガンと拳銃を直すだけでよかった。

 そのため、一回目のクエストが終わった段階で、ジカさんには連絡はしていた。


 すると、四回目のクエストが終わり、俺がスキルとギフトを得たあとに返答があり、急いで向かったら、


「父さんもほんと……怒ってもいいのに……」


「……笑われてたのは、ちょっと面白かった」


 大爆笑された。


 いつもながらの無茶苦茶だと言われ、今回のクエストではなくホワイトバットのクエストだと説明すると、今のイベントクエストで何を使っていたのかを聞かれた。


 そこで虚式のショットガンに、実式のナイフガンだと言ったら、これまた大爆笑された。


 そうして渡されたのは、このAK47。


 ジカさんではなく、友人の趣味の産物らしく、受け取った時にちょうど、俺からの連絡があり、これ幸いと渡してきた。


 俺は当然お金を渡そうと思ったが、そもそもアサルトライフルは他の銃より少しばかり素材にも技術にも必要なもののコストが高いらしい。


 払いきれないと言う事実に打ちひしがれる俺に、ジカさんは、


「借金」


 血の涙が出そうだった。


 が、お陰で今回のイベントクエストは死にものぐるいでやることが決定した。


 そこで、スキルをしっかりと使いこなすことがやはり上を目指すために必要だと、考えているのだが、


「諏訪」


「ん?」


 カナリアちゃんから声が掛かる。


 会話は聞いていたし、ボサっとしているわけではなかったので、まだ到着していないのは分かる。


「あたしのギフトも、本当に異常なものだから分かるけど、悩み過ぎないようにね」


 年下から教えられるとは。


 そもそも楽しむためのゲームなのに、どこか楽しくなくやろうとしている自分がいる。


 俺はカナリアちゃんが教わりたいと言ってきたものを、カナリアちゃんから再認識させられる。


「あいさ」


「…………なんか馬鹿にしてない?」


 そこから始まったのは、俺の話し方がなんか歳上と言うよりおじいちゃんっぽい、という話に入る。


 ……目的の難易度の場所に着くまで話は続いた。











『己が知らない己を見つけろ』











 今度は、パセリだった。


 最初ブロッコリーだと思ったが、やけに小さいし、茎がすごく見えるし。


 今回のパセリは、他のやつみたいに人間の三倍くらいの大きさではなく、人間大の大きさだった。


 俺は食べたことないなー、と思いながら、準備を終わらせる。



 ちなみに、クエストに行く際の支給品は、結構多めだ。


 デスペナルティが大きいせいか、回復薬やスタミナ剤、銃弾などの消耗品は多くある。


 ちなみに、支給品の弾は、大きさの指定がされていないため、ストレージから出す前に触った銃の大きさのものになる。


 弾の数は大体数百発くらい入っている。


 今回は採取クエストなので、一人百発だった。


 アサルトライフルはフルオートだから弾数を気にしないとな、と俺は気合を入れ直す。



「…………狩る」


 弾の数を勘定していると、後ろから小さなつぶやきが聞こえた。


 それは、カナリアちゃんの様にちょっと大人びた女の子の声でなく、


 キャントちゃんの様に快活な女の子の声ではなく、


「あいつは、許さない」


 感情が妙に読み取れない、ウルトちゃんの声だった。


「え? ウルト?」


「どうしたの?」


 当人と俺以外の二人が声をかけると、後ろに般若でも見えそうな強者オーラを放ち、ウルトちゃんはパセリを指さす。


「小さい頃に食べてから、本当に嫌いなの」


 あいつだけは許さない。


 凡そ小さい女の子が出していい声ではない声で、ボルトアクションのスナイパーライフルが発射準備に入る。


「行って」


 開幕一発。


 虚式の癖に威力振りという変な性能をしたその一撃で【キラーパセリ】は目覚める。


 ぱせぇぇぇぇぇ!!!


 相も変わらずネタが無いというかなんというか。

 語尾にニャンをつけてキャラ付けしたいわけでもなかろうに、と俺はAK47を構えて、走る。


 走る先は、パセリの後ろ。


 大きく円をかくように走る。


 パセリはその小さな体躯で、ウルトちゃんに向かっ……


「早いだろっ!」


 俺はウルトちゃんの前にいるカナリアちゃんとキャントちゃんたちのさらに前に向かい、五発程連射。


 ログで一発当たったのが分かるが、これは


「やっばい強いよ!」


 防御されている。


 俺は舌打ちしながら、射線がみんなに被らないような位置までくる。


 そうして目に映ったのは、両腕と盾でパセリの突進をガードをしている二人だった。


 カナリアちゃんは、即座に腕に石製の篭手を付けているため、防げている。


 二人でやっと守れる程度。


 俺はアサルトライフルをちまちまと撃ち込む。


 避けれそうな広い空間、足元など邪魔になりそうな位置に撃っていく。


「せいっ!」


 石槍の一撃がパセリに決まる。


 丁度俺の攻撃でガードしていたところに決まった。


 パセリは吹っ飛び、土煙を上げながら地面に着く。


「っなんなのよ!

 さっきの六と差がありすぎじゃない?」


 六までは基本的に大型で、動きは緩慢、しかし攻撃力は強いというものだったが、今回のは速い。


 俺に生えてきたスキルでは全くの役に立たない。


「残り半分!」


 カナリアの後ろ……ウルトちゃんの近くにより、土煙に向かって全発射。


 ウルトちゃんも真似てスナイパーライフルの一撃。


 ログ。


 三発。


 ウルトちゃんに目線を向けると、首を横に振られた。


 一応一箇所集まったが、これはあくまで死なない方法としか考えられない。


 俺がカナリアちゃんに撤退と言おうとした瞬間、


 土煙が晴れた。


 そこから出てきたのは、パセリ。


 そのマスコットチックな拳をカナリアちゃんに振りぬき、


「エンサァァァァア!」


 キャントちゃんの瞬時の反応によって短槍がパセリの横顔に突き刺さる。


 パセリはキャントちゃんとは反対の方向に足を踏み抜き、地面が砕けたと思った瞬間、


 キャントちゃんが吹っ飛んだ。


 パセリはいつの間にかキャントちゃんの方に拳を振りいていた。


「おいおい」


 ウルトちゃんも俺も、一歩も動けなかった。


 速すぎる。


 それ故に、足掻くことさえ無駄に感じるこの無力感。


 そこで俺は、二つのことに気づく。


 一つは、パセリの頭には【キラーパセリ】と書いてあるはず場所に、【キングキラーパセリ】と書いてあること。


 もう一つは、


「このぉ!」


 最初に吹っ飛ばされ、防御していたはずのカナリアちゃんのHPが、無くなっていたこと。




 赤く揺らめく髪。


 薄く赤く光るオーラ。


 肩に担いだバット状の光る棒。


「まだ私達はゲームしてたいの」


 さっきまでとかなり違うカナリアちゃんがそこにいた。

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