背火の23話

 HP0


 頭の上に表示されるのは、プレイヤーネームと、HPバー。


 今、カナリアちゃんの頭上に表示されているのは、プレイヤーネーム……【カナリア】の文字のみ。


「カナリアちゃん……」


「言っとくけど、これ使わせたんだから絶対勝つわよ」


 スキルとギフトの話については、ウルトちゃんもキャントちゃんも聞いていたらしい(俺がスキルとギフトの取得の時に説明された時だったという)。

 しかし、カナリアちゃんは、自分ののスキルとギフトに関しては話していないと聞いた。


「あたしのギフトの能力は単純明快。

 壊した武器の形に変化できるビームサーベル。

 さらに単純で大幅な能力上昇」


 手に持っている光の棒が、槍の形へと変化していく。


「名を」


 パセリが吹っ飛んだ方向から、声がした。


 パセリの着地地点に上がっていた土煙は一瞬にして晴れ、見えるのは緑色のの残像。


 安っぽい怪人の声みたいな様子で向かってこられても、速いものは速い。


「【背火の勇者】」


 そのパセリに向かって、カナリアちゃんは目にも止まらぬ速度で槍を投げる。


 緑色の残像は、轟音と共に姿を消す。


 瞬間、先程晴れたはずの土煙が上がった場所に、先ほどより大きな土煙が上がっていた。


「片付けるか」


 いつの間にか光の斧を握っていたカナリアちゃんが、身を屈めた瞬間、


「うおっ」


 風が吹いた。


 カナリアちゃんがいたはずの場所には、地面に出来たヒビ割れしか残っていない。


 上がっていた土煙が、晴れる。


 見えるのは、小さな緑色のものと、紅く光るもの。


 緑色は空に上げられ、紅色がそれを追う。


 幾つもの光を生み出した紅色は、緑色に追いついたと思ったら、次々とその光で攻撃を始めた。


 一連の攻撃が終わった後、緑色は高速で地面に落ちる。


 紅色がそこに降り、


【congratulations!!!

 見事、レアモンスター、キングキラーパセリを採取しました!】


 そんな表示が現れた。


 幾つかのボーナスがログとして流れる中、俺とウルトちゃんはカナリアちゃんの元へと向かっていた。











『背に火を、前に敵を、手に信念を』











「カナ!」


 ウルトちゃんの焦りようは凄かった。


 カナリアちゃんの所には、既にキャントちゃんがいた。


 どうやらパセリに吹っ飛ばされた場所と近かったようだ。


「ウルト!」


 キャントちゃんの強めな言葉にウルトちゃんはビクリと肩を上げる。


「大丈夫だから……。

 ゲームだから……」


 キャントちゃんの瞳には安堵の様子が見て取れた。

 俺からしたら意味がわからないことばかりなので、とりあえず近づく。


「カナリアちゃんは?」


 俺がやんわりと聞くと、キャントちゃんに抱かれていたのか、カナリアちゃんの様子が見える。


 カナリアちゃんは目をつぶって眠っているように見える。


「起きな」


 このゲームに気絶という概念はないので、話しかけるとカナリアちゃんは目を開け、


「何よ」


「ありがと」


 一言、そう告げると、カナリアちゃんは目を見開き、黙る。


「私たちじゃ倒せなかったからね」


「……すごかった」


 カナリアちゃんに向けられる賛辞の言葉に、


「な、なによ…………」


 単純に照れた。


 そんな様子に、キャントちゃんとウルトちゃんは居てもたってもいられなくなったのか、


「「カナ!!!」」


 抱きついて行った。


 俺はそんな様子にほのぼのとしながらも、カナリアちゃんの頭上を見ると、


 HPバーは未だにゼロのままだった。


 俺は回復薬を出そうとするが、


「意味無いわ」


 一言だけ告げられる言葉は、もみくちゃにされているカナリアちゃんのものであり、俺に対しての言葉だった。


「【背火の勇者】は、二つでひとつのギフト。

 【背火】は、HPを0にすることによって得る強大なバフ。

 【勇者】は、七つの武器を供物にすることによって得る万能の武器。

 そして【背火】は、恩恵を失っても尚、HPが増えることは無い。


 これが無くなるのは、デスペナルティと同じく、現実時間で八時間。


 その間はHPを回復できない」


 俺はそのギフトの内容に戦慄した。


 いくらなんでもこのギフトは可笑しくないのか?

 そんな考えが頭をよぎるが、


「私のギフトは、これだからこそここまで来れたの。

 可哀想とかほざいたら、張り倒すわよ」


 俺の考えすぎだったらしい。


 というか、そんなギフトを持っているなら俺のギフトが異常とか言ってられないんじゃないのかな……。


 俺は出しかけた回復薬を仕舞い、


「二人とも、どうする?

 まだクエストは終わってない。

 やるにしても、リタイアにしても、時間は待ってくれないよ」


 二人は、最初の時だったらオロオロしていたはずが、今では、


「諏訪さんこそ、折角カナちゃんの活躍をリタイアでドブに捨てる気ですか?」


「……やるに決まってる」


 俺にそんなことを言い始めた。


 両手を上げた俺は、


「どうする?」


 満面の笑みのカナリアちゃんに問いかける。


「やるに決まってるじゃない」


 花が咲いたような、という表現は、こういう時に使うものなのか、と俺は実感した。











『笑みとは、最大の華である』











 噴水前に戻ってきた俺達は、今日はここいらで辞めることにした。


 リアル時間ではそろそろおやつの時間に差し掛かるタイミングだが、カナリアちゃんの様子を見るに、続けるのはよろしくない。


 キャントちゃんもウルトちゃんも、こんなにプレイしたのは初らしく、疲れたなんて言っていた。


「おつかれさま」


「お疲れ様です!」


「……楽しかった」


 キャントちゃん、ウルトちゃんの双方から感謝の言葉がかけられるが、俺としてはこっちの方が迷惑をかけたのでは……? なんて思ってしまう。


「諏訪!」


 そこで、カナリアちゃんから声がかけられる。


 俺がカナリアちゃんの方に顔を向けると、


「…………今日は楽しかった。ありがとうね」


 少し照れながらそう言われた。


 だから俺は特に何もやっていないのに。


 しかし、みんなの感謝を無下にする方が宜しくないと思い、


「俺も、楽しかったよ」


 最大の笑顔で返してあげた。











 皆が帰った後、俺は一人で修練場に入る。


 理由は明確。


 スキルとギフトの練習だ。


 白い部屋で受けたのは、自身のスキルとギフトについての説明。


 まずは、カカシを表示させ、AK47で撃つ。


 自分が鈍色に光る。


 左上に時間が表示される。


 3分。


 長いんだか短いんだか分からない数字だ。


 そして俺はもう一度【AK47】で撃った後、


 俺の手元では光の粒子とともに、【AK47】が虚式のショットガンに持ち替えられる。


 一発。


 虚式の【ショットガン】から、【初心者用の拳銃】に、


 一発。


 そうして、俺がまた光る。


 今度は錆色だ。


 なんか俺だけ汚くないか? と思いながら、俺はそのギフトの名前を言う。


「【厄】」






 諏訪スキル一覧

 【テイクファスト】

 効果……アイテムストレージからの物の出し入れを高速で行える。

 但し、事前に指定された四アイテムまで。


 【至】

 効果……発動すると、自分が光る。

 条件……相手が攻撃を認知せずにダメージを与える。


 【頂】

 効果……発動すると、自分が光る。

 条件……武器三つ(同種でも可)による攻撃する。※有効時間は三秒間。



 諏訪ギフト


 【厄】

 条件……【至】と【頂】の同時発動。


 効果……理想に至る。






 その日、俺は修練場を直ぐに出て、ログアウトした。


 あれはあまりにも、やり過ぎだ。


 カナリアちゃんだって多分相手にならない。


 それどころか、多分相手になる人の方が数える方が少ないのではないだろうか。


 それほどまでに、あのギフトは凄まじく、強大で、


「使わないようにしよう」


 つまらないものだった。

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