7話を入れ直す

「いいですよ」

「…………へ?」


 いや、いいっセリフだから聞き返さないで……。

 俺はアイテム欄から、ジカさんからショットガンを取り出し、村長に見せる。


「俺だってクエスターの端くれです」


 村長の目には、不安、悲しみ、歓喜等、色々な感情が駆け巡っているように見えた。

 先程から感じるゲームなのに、現実のようなその様子に、俺は複雑な気持ちになる。


「そ、それでは……」


 消え入りそうな声で、よろしくお願いします、と聞こえたような気がした。











『現実とは、目に映る今そのものである』











 俺は、目的地である森へと歩いていく。

 前をオド君が歩き、俺はその後ろをついていく。


 道中は基本的に獣道のような道が続く。

 そんな道中の整備の状況も、やけに現実味がある。


「にいちゃん、ほんとにやるのか?」


 しばらく無言で歩いていると、唐突に声をかけられる。

 声をかけられないもんだから、もうイベントはないと思ってたけど、まだ話あるのか。

 え、これ反応するべきかなぁ?

 俺は少し反応に迷いながら、


「いやまぁ、やるやらないの話じゃないからなぁ」

「は?」


 意味がわからない、と言わんばかりの返事が帰ってくる。


「ん? どうしたの?」

「どうしたもこうしたも、何言ってんの?」


 何って……どういうこと?

 俺はオド君の質問の意味がわからないので、無言で話を促す。


 すると、オド君は、ゆっくりと話し始めた。


「いやさ、あんたは魔物の討伐やってくれる、って言ってくれただろ?

 それなのに、やるやらないの話じゃないって?」


 少しピリピリしているのか、語尾が少し上がっている。

 あー、そういうことね……。

 俺はそんなオドくんに対して、頭を掻きながら、


「えーと、俺にとっては、やるやらないで決めたんじゃなくて、困ってるか困ってないかで考えてたの」


 いや、本当は楽しいか否か、的な感じで言ったんだけど。

 ……なんか妙にここのゲームのAI賢いから、はぐらかしとこうと判断した。


 ここで機嫌を損ねるのは、まずい気がする。


「それで、俺の目から見たら、君たちは困っていた。

 だから、こうしてる」


 その言葉を聞いて、オド君は、それはもう分かりやすいくらいに露骨に目を輝かせていた。


「すっげー……」

「えっと……別にいいじゃんか、行こうよ」


 そうして、オド君との会話は終わったが、次に始まったのは、オド君の質問攻めだった。


 やれどうしてそんなことを考えるようになった、どんな武器使ってんの、とか。


 正直無視したいくらいではあったが、ここで無視することによって、道案内をすっぽかされたらタダじゃたまらない、という意思で、相手をしていた。

 そんな道中は、以外にも弾んだ。


 正直、俺自身は前世の記憶のせいで中学時代は半ば引きこもりみたいな生活を送っていたため、人とのコミュニケーションに自信はない。

 つか話せるようなネタもない。

 それに俺の行動は、今のところは楽しいか否か、なので大層なことは話せない。


 ということで、ここで出てくるのは前世の記憶だ。


 俺は前世の記憶を、所々ぼかしながら話していく。

 まぁ、ぼかしながらだとしても、前世の記憶の話は、壮絶すぎる。


 例えば、1000人の守りを前にして、たった一人で壊滅させたり、


 当時恐れられていた犯罪者を、自ら捕まえに行ったり、


 魔法の軍勢を目の前にして、銃火器だけで立ち向かったりと、とにかく馬鹿みたいにすごい。


 そんあ逸話の数々を、俺はまるで自信が体験したかのような語った。

 ……だけど、この話の殆どに裏はあって、詳しく話すと長くなるのとギャグみたいになるため、オド君には割愛する。


「すっっっげぇ……」


 しかし、その話は逆にオド君の期待を高めるだけで、俺はしばらく話したあとに、失敗したなと思った。

 そうして続く獣道。

 大層村の住人が通っているのか、しっかりとした道になっている。



「ここだよ」



 そうして草原を抜けると、森に辿り着いた。

 そこは、やけに静かで、不気味な感じがした。

 現実にある植物より明らかに大きさが桁違いな木々たちは、俺らを小さくさせているかのようだった。


 だけど、どこか生物の鼓動や、視線を感じる。


 見られている……。


「あそこの、槍が刺してあるところが、境界線だよ」

「縄張りの?」

「そう、あのクソザル共のね」


 歯をくいしばるオド君。

 その表情は、前世で嫌というほどに見たそれと同じ。


 俺はアイテムストレージから、ショットガン…………ではなく、拳銃を取り出す。


「あれ? にいちゃんさっきのは?」


 オド君が、当然の疑問を口に出す。

 まぁ、さっきの大見栄を張った時に出したから、当然の疑問っちゃ疑問だけど、


「多分、こっちの方がいいから」


 俺はそう言って、オド君に下がるようにジェスチャーする。


 来る最中に聞いていたけど、今回戦う"ファイターモンキー"は、縄張り意識の強いモンスターで、その名の通りファイター……格闘が得意らしい。

 そんな相手に拳銃……いや別にショットガンも近接だからいいんだけど、拳銃なのは…………


「気分かな」


 独り言ちる。


 俺は、地面に突き刺さっている槍を目の前にして、頭を空っぽにする。

 前世の記憶でも、戦う前には、こうやって頭を空っぽにしていた。

 別に前世の記憶から、こうやっているわけじゃなく、"俺"の癖。


 なんだか、この癖が同じなだけで、俺の中での前世の記憶の人物……諏訪厄(すわやく)との距離が近づいた気がしている。


 そして、槍の先に足を踏み出した途端、



 ギィェェァァアアァ!



 耳を劈く音。


 その瞬間、


 ガサッ


 来る。


 視線は熱烈に感じていたから、場所はわかっていた。


 目が追いつかなさそうになる。


「早いって!」


 逆ギレになりながらも、


 バスンッ!


 開幕ブッパをかました。


 銃は記憶の中でも、自主練でも、かなり練習したので、しっかりとそのファイターモンキーの眉間を捉え、はじき飛ばした。


 ファイターモンキーは、声もなく弾き飛ばされ、地面に落ちる。



 普通だったらまぁ、眉間に攻撃が当たれば、死ぬはずだが、当然ながらこの世界はゲームなので、


 ギィィィィェエェェェェエ!


 その怒号で、俺は気持ちを入れ直した。

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