6話を楽しもう

 今回のクエストは、【薬草採取】である。

 ジカさんから聞いたクエストの見方をもとに選別したクエストだ。


 初心者向け、星一つしかなく、一人用ということをしっかりと確認したので、間違いはないと思う。


 ちなみに、クエストクリア条件は、一定数以上の薬草の採取。

 俺はジカさんからもらった銃を確認し、使い捨ての道具を確認する。

 今回は防具に関しては新調をしなかった。


 簡単なクエストを選ぶから、それよりだったらいざというときになんとかなる回復薬とかを選択した。


「よし、行くか」


 ちなみに、クエストを受ける前に備考欄があるらしく(ちゃんとチュートリアルでやってた)そこを見ることによって、前回の様なバックストーリーを確認することが出来るらしい。


 そして、そのバックストーリーの部分は自分でロールプレイをするか、AIに委任することが出来るらしい。

 ま、スキップ機能ではないらしいので、プレイヤーはAIに委任いた場合は背後霊の様に後ろからストーリーの進行を見守ることになる。


 ……俺は面倒だとは思わないから、AIに委任はしないが。


【備考

 カルダナ村に突如魔物が発生した!

 村の住民の男達の人手が足りないため、村長は、魔物の討伐よりも薬草の採取を優先した依頼を出した。

 (別口のクエストにて、討伐クエスト発生中)

 ※討伐が可能なら討伐をしても良いが、依頼報酬は正規の半分】


 つまり、今回のクエストは、もしかしたら討伐のクエストの人達と同じフィールドに出る可能性がある、ということ、でいいと思う。

 それに討伐をしては行けない、ということも無い。

 つまり、討伐できなくてもOKだから、試し打ちには最適のクエストだ。


 しかも、星一のクエストの、しかも討伐なんて、どうせ星二つくらいだから、別に困ることは無いだろう。

 俺はそんなことを考えながら、クエストを受注した。




 そうして、またしても俺は馬鹿な選択をした。


 このクエストの討伐版は、星三つ、2人以上推奨クエスト。


 どう考えても、下調べをし損ねるのが、俺であった。











『2度も間違えることが出来るのは、幸せである』











「基本教会なのか」


 降り立ったのは、またしても教会。


 内装は以前と違って、少しみすぼらしい感じがしているが、使い込まれている感じが漂っている。

 以前も見ていて思ったのだが、ここまで作り込んでいるとなるとほんとにゲームなのか疑ってしまう。


 そんなことを考えながらも、俺は辺りを見渡して、シスターがいるかどうか探す。


「お!にいちゃんがクエスターの人?!」


 ガンッ!

 そんな音を立てながら、扉を開けて、少年が入ってきた。

 少年は、絵に描いた様なにこやかな笑顔をこちらに向ける。


 俺はその様子に笑顔を返しながら、


「そうだよ」

「じゃあじゃあ!

 あのクソ猿共を倒してくれるのか?!」

「クソ猿?」

「そうだよ!

 あの猿のせいで、今年の薬草はゴミみたいなのしか取れないんだ!」


 悔しそうな顔をしながら話してくれる少年。

 さっきまでの笑顔が消えてしまったのと、討伐に来たわけじゃない、ということで、俺の中の罪悪感が降り積もる。


「ごめんね、薬草を取りに来たんだよ」


 少し呆気に取られた少年は、申し訳無さそうな表情で俺を見る。


「あー、ごめんにいちゃん……。

 クエスト張り出したあとに、俺らで安全に取れるところは取り切っちまったんだよ……」

「あー……。

 ってこと……モンスターがいる所しか、もう薬草を採取できる所がない……のかな?」


 俺から顔を逸らし、少年は頷く。

 俺はその言葉にゲームがバグった? なんて考えながらも、救済措置とかあるのだろうか、と考えていた、


「じ、じゃあ、とりあえず村長のとこに来てくれ。

 もしかしたらクエストを取り消しに出来るかもしれねぇしさ」


 しかし、まるで生きている人間のように、悲しそうな顔をする少年に、俺は声をかけれなかった。



☆☆☆☆☆



「村長!」

「おぉ、オドか」

「クエスターの人が来たぞ!」

「何っ?!

 あの猿をようやっと退治できるのか?!」


 やっぱり村長も、モンスターに悩まされている口か。

 さっきまで話していた少年……オドと呼ばれた子供は、村長の言葉に、表情を暗くする。


「いや、違うよ……。

 この前出した薬草の採取の方だって……」


 村長の顔が、オドの言葉で暗くなる。


 …………正直、ゲームだからいいけど、普通に考えて自分たちの出した依頼できてくれた人にそんな顔をするのはどうかと思うなぁ……。


 この雰囲気とは全く別方向なことを考えていると、村長は俺の顔を見て、ゆっくりと話し始める。


「私たちの村は、上質な薬草を提供するということで、それで村を維持していました。

 今年もこの時期に薬草の採取を行おうとしたところ、魔物……ファイターモンキーによって、薬草の群生地の大部分が、縄張りに入ってしまいました。

 ファイターモンキーは、この時期に出産期に入るため、縄張りに入ったものを容赦なく害します」


 村長は、次第に頭を下げる。


「そして、今回お受けくださった薬草の採取の依頼は、縄張りの範囲が定まらない状態での依頼でした。

 しかし、あまりにもクエストを受けてくださる方がいなく、私共で慎重に調査したところ、はっきりとした縄張りの範囲が判明しました。

 その結果、私共で取れる全ての範囲の薬草は取り切ってしまい、これ以上取ると私達の住む近くの生産量に響くとのことで、辞めていました」


 まぁつまり、クエスト受ける人がいないせいで、クエストの内容をやってしまったってことか。

 こういうことってあるのだろうか? と俺は顎に手を当てる。


 しかし、これはこれでリアルである。

 話の内容も実に理にかなっているし、変な点は見つけられない。

 だけど、リアルすぎる。

 それだけが、不安な要素だった。


「もし、もし貴方様に私共を助ける意思があるのなら、救っては下さらないでしょうか……」


 俺はその話を聞いて、やっぱりか、と心の中でため息をつく。

 こういう場合、ゲーム的に緊急クエスト! みたいなのが出て、クエスト内容変わるとかないのかと、俺はメニューをちらりと見るが、別にそういう通知は来ない。


 つまり、ここで受けると純粋に出来たとしても報酬は半分……?


「薬草の採取のクエストで、討伐は確かに貴方様に利点はない気がしますが、このクエストを終えたら、必ずや、追加で報酬を支払わせてもらいます」


 とうとう、地に頭をつけて話す村長。

 さぁ、どこまで信用していいものか。

 ここまでリアルだと、『嘘』というものの存在がちらついてくる。

 正直、前世の内容と照らし合わせると、黒ではあるのだが……


 だからこのクエスト、正直蹴ってもいい。


 しかし、ここでせっかくなら銃の性能を試してみたい、というのがある。


 それに今回失敗しても、これが終わったら寝るつもりでいたから、別に失敗……デスペナを恐れなくてもいい。


 失敗してもいい、ってのは、贅沢なことなのは自覚してる。


 同じような失敗を2度してもいい、ってのが幸せだったのも、前世の記憶から、重々承知している。


 だからこそ、


 今この時を、『俺』は精一杯楽しもう。

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