いわば8話である
このゲームにおいてのHPはいわば鎧である。
自身の体をしっかりと纏っている。
基本的には攻撃を食らうことによって、HPは減る。
肉体の損傷を肩代わりしている……らしい。
それ故に弱点や急所に攻撃を食らうと、大きく減る。
そうしてHPがゼロになると、HPという鎧はなくなり、生身で受けることになる。
そこで、一定以上の傷を受ける……死に至る傷を受けると、死亡という判定になる。
これは、モンスターにも当てはまることで、モンスターもHPを全部減らした後に一定以上傷を与えなければいけない。
だから当然、ファイターモンキーにもHPはあるわけで、それを全部削り切らないと倒すことはできない。
「やっぱこの前のクエストでも思ったけど、気味悪いよな」
眉間を打ち抜いたけど生きてるって……。
俺は撃鉄を起こして撃てる準備をする。
六連リボルバーは難しい手入れを必要としない代わりに、少し面倒くさいな。
起き上がり、即座に迫ってくるファイターモンキー。
「ひっ」
後ろからオド君の悲鳴が聞こえる。
俺は拳銃を両手で構える。
撃つ。
ファイターモンキーは両腕でガードする。
基本的にHPを高く保つには、防御か回避しか方法がない。
そのため、今のファイターモンキーの選択は、正しいものだが、
「一回で慣れるものではないと思うんだけど……」
苦笑いしながら、撃鉄を起こし、次撃を撃つ。
このHP制度、割と癖があって、撃たれるとどうなるかというと、
ギャンッ!
ファイターモンキーが弾き飛ばされる。
攻撃を受けると、衝撃が来る。
うまいこと連撃ができているが、さっきのファイターモンキーの慣れる速度からすると、次の弾は……
スパンッ。
当たらない。
予想はしていたため即座に撃鉄を起こし、撃つ。
躱される。
撃鉄を起こし、撃つ。
躱される。
「ずるくないかっ?!」
目の前まで迫ってくるファイターモンキー。
猿特有のしなやかな体を使った回し蹴り。
俺は華麗に体をそらして躱す……ことはなく、
「あっぶねぇ!」
思いっきり後ろに飛んでやり過ごす。
が、ファイターモンキーは着地とともに突進してくる。
俺は撃鉄を起こし……
「くっそ!」
撃てない。
六連式のリボルバー。
それは文字通り、六発しか撃てない。
……いや、自分でも普通過ぎることを言ってる自覚はあるけど、戦っていると結構忘れちゃうんだよな、これ。
てかそんな日常で拳銃の残弾とか気にしないし……。
言い訳しながらも体は対応するために動く。
ギイィィィエェェェアァァ!
ファイターモンキーの突進は止められない。
受け止めるとか無理に決まってるよな。
……かなりこいつ目が血走ってる……。
そんな的外れな感想を抱きながら、俺は顔面をガードして、
「ヘブッ!」
体を衝撃が襲った。
ゲームだから痛いなんてことはないんだけど、声が出てしまう。
暫く空中に浮かんだと思ったら、地面の感触と土煙が俺の感覚器官を攻め立てる。
拳銃をアイテムストレージにしまう。
そのまま、入れ替わりでショットガンを取り出す。
「クッソ!」
悔しそうな声を出しながら、俺は流れるようにショットガンをリロードする。
奇声をあげながら突っ込んでくるファイターモンキーの場所は、音で分かる。
その方向に銃を向ける。
そうして見えたのは、ファイターモンキーの顔面。
血走った目に、獣独特の覇気。
「ヒッ」
俺が今度は悲鳴をあげながら、ショットガンを放つ。
ファイターモンキーはその瞬間、ショットガンの轟音とともに吹っ飛ぶ。
……今防御しなかったのは、やっぱりさっきの俺の声のせい?
悔しそうな声でファイターモンキーは油断して突っ込んできた……?
ハッタリが……通じる?
俺はそんなファイターモンキーに追撃を掛ける……わけではなく、メニューを開き、リボルバーを指定し、リロードを選択する。
近代系の武器……拳銃などのリロードは、手動でやるほかにも、メニューから選択して行うことができる。
このようにすると、一発一発の時間がかなりかかるが、プレイヤーの手を煩わせないようにできる。
それなら、腐るほど武器を持って、常時リロードしていれば永遠に撃つことができる。
なんてことはなく、メニューでリロードができる弾数には限りがある。
がまぁ、さすがに六連式のリボルバーで弾数が足りないなんてことはなく、
ドゴンッ
俺は追い打ちの一発を撃つ。
……さっきまで無我夢中で忘れてたけど、ファイターモンキーのHPは……
って、倒してる?……
『成長は目に見えない』
「どういうことだ?」
俺は自分の持っているショットガンを見ながら、倒れたファイターモンキーを見下ろす。
「にいちゃん……」
そこで、後ろからいきなり声をかけられる。
俺が驚いて後ろを向くと、そこにはオド君が立っていた。
俺は、オド君が何か言いたそうな目でこちらを見ているのを察した。
仲間にしますか……じゃなくて、
「しっ」
オド君を黙らせる。
「今、ファイターモンキーが死んでしまったせいで、縄張りの形が変化している。
多分かなり大きな音を立てて戦闘していたから、他の猿達も気づいているはず」
オド君がハッとして口を閉じる。
いや、別にそんな深い意味ないけど、騒がれると嫌だなぁ、って思ったから適当なこと言ったんだけど、かなり効いてくれたな。
倒したばかりのファイターモンキーは、光の粒子となって、俺の体に吸い込まれていく。
これは別に経験値とかではない。
これは、後からモンスターを解体するために、取って置いているのだ。
アイテムストレージとは別に溜まっていくので、別にデメリットはない。
俺は、自分の言った通り、他の猿から何らかアクションがあるのか観察する。
「あっ」
すると、オド君が走り始める。
俺は一瞬頭の中が真っ白になった。
え?
どうしたの?
いきなり?
なんで?
はしった?
そのさきは?
もう追いつけない距離まで行って気づく。
薬草。
そりゃ、採取したいだろうけど……。
俺は手を伸ばそうとする。
そして、オド君が薬草に手を伸ばしたその瞬間、
ギィィィィェエェェェェエ!
オド君の姿が消えた。
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