ひたすらに聞かされる9話

「は?」


 突然のことに動揺する。


 消えた?


 いや、そんなはずは。


 オド君を探す。


 それより先にオド君がいた場所に、猿がいるのが見えた。


 ファイターモンキー?


 ファイターモンキーは、俺ではなく別の方を向いている。

 その向いている方向を見ると、HPバーが見えた。


 しかも、HPが無くなりかけている。


 茂みに隠れていてわかりにくいが、察した。


「オド!!!」


 走り出す。


 オド君の姿が見えた瞬間、


 キィェェエェエア!


 興奮したファイターモンキーが襲ってくる。

 俺には避けれないタイミング

 そして、ファイターモンキーが俺に触れようとした瞬間、


 ドゴン


 いきなりファイターモンキーは吹っ飛ばされた。


 いや、俺がやったのか。


 俺は自分でも予想外な形で反撃してしまったことに驚きながらも、オド君に近づく。


「大丈夫?!」


 俺はオド君に、ストレージから出した回復薬を与える。

 オド君のHPは、みるみると回復していき、安全だと思えるくらい回復した。


「にい…………ちゃん……」


 オド君は、息を切らしながら俺の事を呼ぶ。

 俺はそんな様子に、何か体に異常があったのかと、オド君を観察するが、異常はない。


「ごめん……痛くて……寝ちゃい……そう……」


 オド君はそのまま気を失い、俺にもたれかかる。

 オド君が安全なことを確認すると、俺はオド君のことをゆっくりと地面に下ろし、


 ちらりと姿を現したファイターモンキーを撃った。


 ファイターモンキーからしたら意味が分からないだろう。


 少し顔を覗かせただけで撃たれるなんて。


 だが、これらは全て、技術であるからして、


 ギィィ!


 ギィィ!


 ギャッ!


 三発でファイターモンキーの頭は弾け、残った体は地面にぽとりと落ちた。


 ファイターモンキーは、次第に光の粒子となり、俺の体に吸い込まれる。


「…………ちっ」


 舌打ちをしてしまう。

 やる必要はなかった、不本意だった。

 ここでは気楽にやろうとしたのに……


 オド君の様子を確認し、あたりを見渡す。


 二匹。


 俺はリロードの終わった拳銃を取り出す。

 そこからは簡単だった。

 もうファイターモンキーの動きには慣れた。


 後は少しずつ修正しながら、相手の動きの少し先に射線を定め、引き金を引く。


 そんな作業も終わり、最後のファイターモンキーの死体が俺に吸い込まれていく。


 とりあえず、村に帰してあげよう。


 俺はオド君を背負い、しっかりとした足取りで、村に帰っていった。











『戦わねばならぬ時とは、戦ったあとに気づくものである』











「こ、これは?!」


 村にたどり着き、村長の家を尋ねると、村長は焦った顔でこちらに駆け寄ってきた。


「……一体……」


 俺はなるべく、オド君が悪くいわれないように説明した。


 自分が一匹処理したところ、縄張りの中に薬草の群生地があり、オド君は、大丈夫だろうと近づいたら、猿にやられた、と。


 あとから思ってみれば、もう少し罪を被ったりして、機転を利かせられなかったのだろうか、と自分でも思った。

 が、目の前で勝手にNPC……オド君があんな行動起こして、倒されそうになったのを見たので、俺の頭はいっぱいだった。


 これが普通なのだとしたら、なんなんだこのゲームは、と俺は問答を繰り返しているうちに、


「あの、すいません」


 俺は村長の家の前で、用心棒がてら座り込んでいると、一人の女性が声をかけてくる。


 俺の母さんより少し若いくらいの女性。


 顔は少しやつれていて、村の人より人周り背も小さい。



「オドの、母です」



 そこからは、ひたすらに話を聞かされた。



 曰く、オド君の家系は、お父さんがファイターモンキーに怪我をさせられたせいで、片腕を失い、まともに仕事が出来ないらしい。


 その間、家を切り盛りしているオド君の母親は、街の中でもかなり稼げる薬草の採取をしていた。


 しかし、当然のことながら、今年の薬草の採取は困難を極め、一人、また一人と薬草の採取をやめて行った。


 そんな中、一人常に死なないように歩き回り、なおかつ縄張りの範囲をしっかりと特定したのか、オド君の母親だった。


 個人的には、仕事を取っていった張本人なのだが、話す度に見え隠れする、傷だらけの手、生傷が痛々しい体に、俺は何も言えなかった。


「ほんとうに……ほんとうに…………ありがとうございました」


 悪いことをしたとも思ってないし、いいことをしたとも思っていない。


 ただ、俺のゲームを邪魔されただけで、俺は内心イライラしていたはずなのに、


「いえ、助かって良かったです」


 涙を流していた。


 俺はそこで明らかにおかしいことを再確認する。


 おかしい。


 こんなに現実のように感じるなんてことは、ないはずだ。


 どれだけ優れていようとも、ゲームはゲーム。


 俺は村長に、今度また来ます、と伝え、クエストをリタイヤする。


 成功報酬なんていらない。


 失敗してもいい。


 だから、せめて早く現実に戻ってこの頭の中をちりつく嫌で嫌で仕方が無い前世の記憶を……人の涙を忘れたかった。


 俺は噴水の近くに戻り、そのままノータイムでログアウトする。


 ダイブギアを外した俺は、風呂にも入らずそのまま闇に身を委ねた。




 くそっ……、なんでこういう時に、前世のじいちゃん……『諏訪厄(すわやく)』は出てきてくれないのだろうか。


 要らんもん押し付けて消えたあのじいちゃんを恨む、という昔何回も何回もしたことを、またも繰り返した。

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