カナリアの10話

「っと」


 昨日あんな事があったものの、俺は翌日にはゲームに戻ってきた。


 別に昨日の一件で思うところがなかったわけじゃないけど、ゲームなんだし、深く考えない方がいいかな、と結論づけた。


 ん? 人多くね?

 ……金曜日だからかな?

 だとしても、人多くない?


「よっ」


 俺は後ろから声をかけられる。

 いきなりの呼びかけに驚きはしたが、聞き覚えのある声だったので振り返ると、


「ジカさん」

「昨日ぶりだな」

「あ、ショットガンありがとうございました。

 かなり威力が高くて驚きましたけど」


 それは良かった、とジカさんは笑う。

 その様子に俺はまた早く恩返ししなきゃと思うと、ジカさんの後ろに誰かいることに気づく。


「……誰ですか?」

「ん、あぁ、この子はカナリア。

 悪い子じゃねぇんだが、人見知りだから話しかけるまで待っていてくれないか?」


 うっすらと見えた金髪。

 その金髪は長いため、直ぐにジカさんの後ろにいることはわかったのだが……。


「ジカさん、誘拐とかしていないですよね?」

「…………言いたいことは分かる。

 だから今は許してやるが、次はないぞ」


 おっかない気配を醸し出したジカさんに、俺は肩を竦める。

 カナリア、そう呼ばれた人物は子供だと分かった。


 それは髪。

 ジカさんの腰元あたりからチラチラ見える金髪は、どう見ても子供の身長くらいだった。

 ……一瞬俺の見間違いであって欲しい、と思った俺は悪くないはずだ……。


 てか、ジカさんみたいな厳つい顔をした禿頭(超失礼)が、小さい子供を連れていれば、そりゃそう見えるだろうに……。


「で、このショットガンって、どのくらい強いか教えてくれませんか?」

「諏訪、その武器でクエスト行ってきたのか?」

「えぇ、一応」

「で、どんなモンスターで試したんだ?」

「ファイターモンキーです」


「おお、まさかあのやりにくい魔物とやったとはな。

 で、どうだった?」


 ショットガンを取り出して俺は話していると、昨日のことが話題になる。

 俺はそれを思い出してため息をつくと、ジカさんは少し残念そうな顔をして、


「ま、やっぱやられたか」

「え?」

「いやなに、あのモンスター、近代系だと射線を読み始めるからな。

 慣れるまでに倒さないといけないんだが、そのショットガンだったら止め込みで4発程度で倒せるくらいだし、無理だろうと思ってな」


 その言葉に、俺は確かにあのファイターモンキー、防御していたな、と思い出す。

 少し考えて、俺は、


「そうなんですよ、あと一歩まで行ったんですけどね」


 なんか昨日のクエストおかしかったし、なんかのバグだろうと思って、なかったことにしようとした。

 その言葉にジカさんは、まぁしゃあないわな、と言いながら、俺にとあるウィンドウを見せる。

 そこに移るのは、いくつもの服の画像。

 これはあれだな、


「そこで、だ。

 ここに新しい防具があるんだが、買っていかないか?」

「…………商魂逞しくて何よりです。

 けど「待って」…………え?」


 俺がこれ以上ジカさんに迷惑をかけれない、と断ろうとすると、女の子の声で発言を遮られた。


「あなた、嘘ついてる」

「カナリア……お前大丈夫か?」

「父さん、こいつやばい人」


 父さん?

 俺はそんな発言を記憶しながら、今発言した少女……カナリアちゃんを観察する。


 ジカさんの腰からひょこっと出した頭は、小学生後半くらいの身長に、腰をゆうゆうとこすそのツインテール。

 明らかにジカさんの娘だったら何一つ遺伝という言葉をかなぐり捨てているその可愛らしい容姿。


 やっぱり誘拐では?


 俺はひとつの懸念を抱きながら、ジカさんを見る。

 ジカさんはカナリアちゃんの方を向いて、オロオロとしていて、その厳つい顔が台無しだ。


「こいつの武器、鑑定した。

 全部、ヒットしてる」


 …………え、もしかしてこの子、鍛冶プレイヤー?


 俺はそういえば忘れていた武器ログの存在を思い出しつつも、ジカさんの顔を見ると、ジカさんも急いで俺の武器の武器ログを見る。


「おいおい、お前さん、4匹も狩ってんじゃねぇか」


 ジカさんからのジト目を、苦笑いで受け流していると、


「父さん、こいつと、やってみたい」

「え、でもこいつ、多分始めたばかりだからスキルもギフトも……」

「やりたい」


 カナリアちゃんの少し眠そうな目が、ジカさんを見る。

 俺はこれは折れる流れだと察して、逃げようとするが、ジカさんに首元を掴まれる。


「すまんな、カナリアが言うから仕方が無い」

「…………嫌だと言ったら?」

「その武器返せ」


 それを引き合いにだされたら俺、断れないんですけど……。

 ま、まぁ自家産にはお世話になってるし、面倒でも引き受けるのが大人の勤めってやつだし……


 俺は自分の中でどんどん言い訳を縄べていく。

 だが、一つ気がかりに思う。


 俺は多分……カナリアちゃんの思っているような戦いは見せてあげられない。

 俺が持っている戦い方は、どれもそんなに綺麗なものじゃない。


 考えれば考えるほどに、申し訳なくなってしまう。

 もしあれだったら武器も帰してやり直す、か。

 そこまで決意してしまうほどだったが、


「私に勝ったら、父さんにオーダーメイドの武器を無料発注」

「やる」


 ……なんだよ、悪いかよ。











『期待は、責任ではないが、責務ではある』











 やると行ってからは本当に早かった。


 先ずは修練所を展開。


 そうして一定範囲に決闘場を設定する。


 決闘場とは、プレイヤー同士が任意の範囲、ルールを決めることによって、正当なPvPをすることが出来るものだ。

 クエストでも使うことがあるらしく、チュートリアルでやり方は教えられていた。


 それでも俺は、絶対人と戦うもんか、なんて考えていたから、適当に流していたのだが、


「さ、やろう」


 まさかこんな早い段階でその決意を簡単に揺るがしてしまうなんて……。


 俺はストレージから拳銃を取り出し、弾が込められてあるか確認をする。


「あれ?ショットガンは?」

「あぁ、ショットガンは最初から使わないんだ。

 取り回しが面倒だからね」


 カナリアちゃんは俺がショットガンをしまったのを見て、質問してくる。

 『人と戦う時に、相手の手の内がわからないのにでかい獲物を扱うわけなかろう』なんていう俺の妄想の声が聞こえてきた気がした。


「ふーん」


 だがしかし、カナリアちゃんからすればそれは一種の舐めプ……舐めたマネをしているように見えてしまったようで、


「いや、すぐ終わるだろうから」


 相手がキレて早く終わらせてくれないかな、なんて淡い期待をしながら言い放った言葉に、カナリアちゃんが怒ったのは、当然のことだった。

 これで作戦的なサムシングで、俺が相手の動きを読んで勝利する、なんてのは漫画でしかないだろうが……。


 目の前のカナリアちゃんはわかりやすく髪の毛を逆立てている。

 ……漫画の中だけだと思ってたぞあんな怒り方……。


 まぁ、怒っていようとなかろうと、今回俺は負けると思う。


 スキル。

 ギフト。


 俺の知らない単語を使っていた二人は、多分だけど、俺の知らない戦い方、力を持っていると予測できる。


 だからまぁ、多分相手の方がやりこんでいるし、強いから、早めに負けれるかな? というのが予想だ。

 つか、チュートリアルにそんなものの説明なかったぞ……。

 隠し要素的なやつか?


「あー、それじゃあいいか」


 コホン、と咳をしながら聞いてくるのは、ジカさん。


 目の前にゴゴゴゴ、と静かに怒りに燃えているカナリアちゃんを目の前にしながら、俺はグッドサインを送る。


 カナリアちゃんも、同様にグッドサインを送るが、


 それをゆっくりと俺の方に向けて、


 ビッ!


 親指を下に向けた。

 俺はその様子に、小さいのにそんなことしちゃいけないでしょ、という発言を心の中にしまう。


 いや、なんか適当に言っただけなのに、こんなに怒ってくれるなんて、と少し引きながら、俺は構える。


 銃の持ち手を後ろに、


 逆の手を前に、


 相手に見せる体の面積を極力小さくする。



 そうして、カナリアちゃんも構える。


 背負っている刀を抜刀するように、手を肩の上に乗せる。


 しかし、カナリアちゃんのセには一つの武器もない。

 不思議に思う、がここはゲーム。


 前世でもそうだった。

 なんでも起きる可能性はある。

 考えるな、自分の打てる手を最大限に増やす。


 カナリアちゃんの姿勢から、突進してくるのは目に見えている。


「よしそれじゃあ……」


 ジカさんがウィンドウを操作して、機械音声が、5秒前のカウントを始める。


 すると、目の前のカナリアちゃんから、殺気を感じた。


 その殺気に、俺は反射的に、


 呼吸を合わせ、


 視線を合わせ、


 集中を合わせ



 カーンッ


 ゴングの音が鳴る。


 カナリアちゃんは、低い姿勢のまま走り出す。


 速い。


 人間に出せる速度ではない。


 そんな速い中、カナリアちゃんが何かを呟いたと思ったら、カナリアちゃんの背中が一瞬光る。


 すると、一瞬にして背中に棒の先端に紐で結びつけた石がついている、石斧が現れ、


「やぁっ!」


 上から俺に迫る石斧。


 結構しっかりした作りだな、と冷静に石斧を観察していると、


 カナリアちゃんが吹っ飛んだ。

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