11話が仲間になりたそうにこちらを見ている

「あ」


 気づいたときにはやっていた。

 そんな言葉を人生で一度は聞いたことがあるだろう。

 俺はそのセリフに対して『んなわけ無いだろww』とか思っている方の人間だった。


 だけど今はわかる。

 気づいたらやってた。


 大人気ないことをしたなという実感とともに、申し訳無さがこみ上げてくる。


 カナリアちゃんは意識の外からの一撃を食らったせいで、しっかりと吹っ飛んでいく。

 ざざざ、と地面と擦れながらも、カナリアちゃんは体勢を立て直す。


「こっの…………」


 その一言は、明らかに本心から出たものだった。

 ……正直、もう俺の負けでいい気もするけどな……。


 降参しようと思ったが、本人の方を見るとやる気は十分のようだ。

 一応戦いたいってことだし、最後までやるか。


 俺はため息をつき、気を張る。

 集中して、油断しないようにする。


 流石にもうさっきのあれは使わない。


 あれを使えば勝てるけど、それは勝負ではない。

 一方的な蹂躙だ。


 カナリアちゃんは立ち上がって瞬間に、俺の方に迫る。


「ふざけんじゃないわよ!」


 目にも止まらぬ速度。


 普通ならしっかりと反応することは出来ないだろう。


 そう、普通なら。


「ふべしばっ!」


 だからこそ、俺は反応出来ずに吹っ飛ばされる。


 そうして始まった、戦闘という名の蹂躙劇。


 石斧で叩きつけられ、石槍で突き刺され、紐に括りつけられた石で遠距離から攻撃され、石を投げつけられた。


 やけに攻撃方法が原始人すぎないかと思いながらも、俺は吹っ飛ばされ続け、


「………………」


 俺は石斧の懇親の一撃を頭に喰らい、意識は暗転した。











『気を張るな、気を張り巡らせるな、常に普通に、常に自然であれ』











「おい、大丈夫か?」


 俺はジカさんの声で目が覚める。

 特に寝ているわけでもなく、視界が暗転しただけなので、起きようとすれば起きれるので、目を開けると、


「カナリア、謝らないと」

「いや、私は……」

「これは流石にやり過ぎじゃないか?」

「そ、そんなことない……と思う……」

「こいつこのゲーム初心者だぞ?」

「う、嘘っ?!」


 ジカさんとカナリアちゃんが俺の顔を覗き込んでいた。

 ジカさんの発言に、目を丸くしたカナリアちゃんがこちらを見る。

 俺はジカさんの話していることを肯定するように、頷く。


 するとカナリアちゃんは、しばらく俺から目を逸らして口を噤んでいると思ったら、俺の方を見て、


「ごめんなさい……

 その、私一応普通の人に比べると強いのに、こんないじめるような真似しちゃって……」


 消え入りそうな声でそう言った。

 ……いい子だなぁ。

 率直な感想を心に抱きながら、


「うん、じゃあ許す!」

「へ?」


 俺は勢い良くカナリアちゃんにそう言い放ち、起き上がる。

 カナリアちゃんは、鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている。

 それに対して、ジカさんは、それ見た事かという顔をしている。


「あ、あんなにボコボコにされて、イラッとしなかったの?」

「俺は事前に君が強いの察してたから、予想の範囲内」


「……じ、じゃあなんであなたは勝負を受けたの?」

「ジカさんとは今後も仲良くしたいから」

「おいおい、そんな言い方しないでくれよ。

 照れるじゃないか」


 ジカさんが自身の禿頭を撫であげながら、頬を染めあげるが、


「気持ち悪…………気持ち悪いですね、ジカさん」


「言い直せてないぞ、スワ」


 俺の言葉に苦笑いをするジカさん。

 そんな俺とジカさんとのやり取りを、アホを見るような目で見るカナリアちゃん。


「変な人なの?」

「いやいや、普通のプレイヤーだよ。

 楽しくゲームしてる、ね」

「なら……」

「あ、それと」


 俺は立ち上がりながら、


「楽しかったよ、勝負」


 自分が笑っていることに気づいた。


「それじゃ、どこかでゆっくりしようか」


 ジカさんがウィンドウを操作しながら、話しかけてくる。

 カナリアちゃんは、どこか納得いかないような顔をして、こちらを見てくるが、俺はそれを無視して、


「なんも知らないんでおすすめ連れてってください」











『"楽しい"と"楽"の違いを自覚せよ』











「それで、色々と聞きたいことはあるだろ?」


 場所は変わって、在り来りなカフェに来た。

 服装的には、

 俺が初期装備であるTシャツとチノパン。


 ジカさんが、今にもラフなツナギ姿。


 カナリアちゃんは、先程の皮のライトアーマーから代わり、ワンピースを着ている。


 このメンツが偶然にも現代的な服装をしているし、店の内装も普通のカフェ(あんまり言ったことない)だから、現実と見間違えてしまう。

 まぁ、周りの客の中には、ガッツリ中世的な装備のやつもいるので、ここがゲームの中だ、っていうのも分かるけど。


「カナリアちゃん、本当に拐ってきた子じゃないですよね?」

「違うよ……」

「…………だから違うって言ってるのだろ……」


 俺のストレートな疑問は、いつものことらしい。

 俺は二人を交互に見る。

 カナリアちゃんは背が小さく、小学生だとしても小さいと思う。

 逆にジカさんは大きい。

 身長もそうだし、体つきというか、骨ががっしりしている感じだ。


「このゲーム、身長体重変更できないから、逆に違和感がすごいんですよ、ハハ……」


「どーせ私は背が小ちゃいですよ……」

「…………まぁ、俺は人よりでかいからな」


 あ、カナリアちゃん少し気にしているのか、申し訳ないな。

 俺はカナリアちゃんにはもう身長の話はよそうと思った。

 ジカさんがそこでそういえば、と話し始める。


「俺らのしっかりとした自己紹介をしていなかったから、そっちの方が先だな」


 その言葉に、隣のカナリアちゃんはも背をピンと伸ばす。

 ちなみに、四人がけのテーブル席で、俺の前に二人が並んでいる状況なので、俺的にはなんか三者面談している気持ちになってくる。


 教師の気持ちはこんな感じなのか……。

 俺が的はずれなことを考えていると、


「俺はジカ。

 オフィスthe武器の十階、【かじのじか】店のオーナーだ。

 有名なところで行くと、【虚】に武器提供をしたこともある」



「私はカナリア。

 討伐パーティ【女傑衆】序列三位よ。

 専門は対人戦」



「…………?」


 俺は2人のその言葉に疑問符を頭の上に浮かべる。

 その様子に目の前の二人は意外そうな顔をする。


「…………?」

「…………反応無いね」


 俺は少し自慢げにしている二人に、おずおずと手を挙げて、


「それって、すごいの?」


 目の前の2人が揃って額を抑えたのは、なんか壮観だった。



「まず、俺からだ。

 俺は近代系の鍛冶プレイヤーの中で、十本の指に入るプレイヤーだ」


「自分で言ってて恥ずかしくないですか?」


「茶化すな。

 それで、一番金がかかる貸店舗の一つである、オフィスthe武器で店を借りてる。

 …………つまり、それくらい稼いでいて、凄い鍛冶プレイヤー、ってことだ」


 へー、と俺は月並みな言葉を発しながら、カナリアちゃんの方に視線を向ける。


「わ、私は、パーティランクで唯一の女性専用パーティ【女傑衆】に所属しているわ」


「あ、外部のサイト見ると、【クエスター】のいろんなランキングが見れるぞ」


「そこで、激戦のパーティランキング部門で、不動の3位を維持しているのよ」


 カナリアちゃんの話にジカさんが付け加える。

 そんなランキングサイトあるのか。


 俺は後で見て見よ、と心の中にうっすらととどめておきながら、話を促す。


「それで、【女傑衆】は基本的に少数精鋭の、序列パーティ。

 その中で私は三位の実力を持ってるってこと」


「つまりすごくて強い、と」


「…………間違ってはいないから、訂正しないわ」


 不服そうな表情のカナリアちゃんに、ジカさんは俺に向けて苦笑いしながら、


「それで、今回はルーキープレイヤーに対して、ほぼトッププレイヤーであるカナリアが、ボコボコにしてすまない、って話だ」

「ぼ、ボコボコにしたって言っても、こいつは私に一発食らわせたのよ?!」

「それは油断していたからだろう?」

「そうじゃないわよ!」


 可愛らしくぷりぷりと怒っているカナリアちゃんに、ジカさんは宥めるように接する。



「だって、あいつは普通にお前に撃っていたぞ?」



「は?」



 カナリアちゃんは嘘だと言わんばかりの目をする。

 ……俺はその表情を見て、ごまかしておこう、と話に乗ることにした。


「いや、スワは、お前に対して銃を特に変な事もせずに撃っていたぞ」


 バッ、とカナリアちゃんはこちらを見る。

 ……そんな見ても何も出ませんよ……。

 俺は冷や汗が出るのを感じながら、何も話さずにポーカーフェイスを保っている。


「いやー、カナリアちゃんがいきなり来るもんだから、驚いて撃っちゃったんだよ」


 疑わしいと瞳に書いているくらいのジト目。

 依然ポーカーフェイスを崩していない(と思う)俺の顔を暫く見ると、カナリアちゃんは、


「私、こいつと一緒に今回のイベントに出る」


「はぁ?!?!」


 どうやら、仲間になりたそうにしているようでした。

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