やっと終わるチュートリアル19話

「……なんか私が教えることなさそうね」


 カナリアちゃんは、楽しそうにスナイパーライフルを見るウルトちゃんと、俺が教えた型をひたすら真似しているキャントちゃんを見ながら言った。


「うん、俺もこんなに二人に評判がいいとは思わなかった」


 俺は壊れたショットガンを、適当な布の上に置き、少し解体してみることにした。


 だが、


【ERRORCode:0003】


「ん?あんたなにやってんの?」


「いや、解体しようと思って」


 俺はいきなり真っ黒になってしまったショットガンにオロオロしながらカナリアちゃんの方を見る。


「あんた、スキルで武器制作系ないでしょ?」


「……え? 俺まだスキルないんだけど……」


 カナリアちゃんは頬を引き攣らせ、露骨な苦笑いをされているのが分かる。


 つられて俺も苦笑いをしてしまうが、


「えっと、これは直らないの?」


「ERRORCode:0003は…………確かオフィスthe装備に専用のカウンターだったような……」


 俺は面倒な直し方だということを察して、ため息をついてしまう。


「っていうか、最初のチュートリアルで言われなかったの?

 基本的に武器の作成は辞めましょう、って」


 俺は確かにそんなこと言ってたな、と思ったが、


「いやさ、武器の作成でしょ?

 今やろうとしてたのは直すだから、いいかな、と」


「あっ、そういうことね……」


 カナリアちゃんは顎に手を当て、


「武器、ってのは基本的に作るものでしかなくて、それは直すというものでも作るというものに入るの。

 つまり、直す、っては作り直すってことに入るのよ、すべて」


 俺はカナリアちゃんからの説明に、そんなややこしいことになっているのか、と頭を搔いた。


「とりあえず、ストレージには入るから、入れとけば問題ないんだよね」


 そう言いながら実際に閉まってみると、すんなりストレージに入る。


 俺はメニュー画面から確認すると【ショットガン(ERROR)】と出ている。


 俺はウィンドウを閉じ、初心者用の拳銃を再度確認する。


 弾は全弾入っている。


 ちなみに、リロード用の弾は基本的にメニュー操作で俺は出している。


 戦うために作られた服だったら、色んなところにリロード用の弾は入るのだが、あくまで俺はラフなTシャツにチノパン。


 そんなしっかりとしまう所があるわけはない。


「あんた、この前からだけど、防具買ってないの?」


「うーん、このゲームHPがゼロでゲームオーバーじゃないからさ、思わずね」


 ゲームだからHP0でゲームオーバー。


 しかし、このゲームは少し風変わりなので、そこから粘れる。


 ついついその粘りにかけてしまう自分がいる。


「とりあえず、みんなを呼んで始めようか。

 …………って、俺がいえたセリフじゃないけど」


 俺は自分の手元を見て言う。


「そうね、多分これ以上やっても実践より経験になるとも思えないし」


 カナリアちゃんは大きな声で練習中の二人を呼んだ。











『連携するというのは、足を引っ張ることにもなる』











「じゃあ、やろっか」


「え、もう?」


 カナリアちゃんの言葉にキャントちゃんは不安そうな顔をする。


「…………私たち何も出来ないと思う」


「最初はそういうもんだし、そもそもこのクエスト位だったら大丈夫よ」


「うーん、俺も初心者用の拳銃だけど、大丈夫だと思うよ」


 ウルトちゃんの心配の声をカナリアちゃんは笑顔で答える。


 俺も正直実践で成長すると思っているので、賛同する。


「うーん、諏訪さんがそういうなら……」


 キャントちゃんの仕方がないというような頷きに、ウルトちゃんも頷く。


 確かに、1番初めの戦闘でこんなでかい相手をするなんで思わないだろう。


 だが、


「楽しもうよ」


 俺は唐突に、さっきからサイズ的と比例した存在感を誇る人参星人に銃を打ち込んだ。


「え?!」


 これにはカナリアちゃんも驚いたようで、俺の方を呆気に取られていた。


 俺はすぐさま戦闘態勢を取る。


 しかし、いつもの様に半身になるスタイルではなく、両手を着きそうになるくらいに姿勢を低くする。


「あんた、いきなりすぎない?!」


 カナリアちゃんは戦闘態勢をとり、両手を光らせて武器を準備する。


 一方、初心者二人は唖然としながら動き出す人参星人を眺める。


「キャントちゃん! 怨嗟!」


「っ……はい!」


 俺が短く叫ぶと、キャントちゃんは急いで型を作る。


 ウルトちゃんの方にも声をかけようかと思ったが、ウルトちゃんもさっきの声に反応して、スナイパーライフルを構える。


「カナリアちゃん」


 俺は思いついたことがあり、カナリアちゃんにボソリと聞く。


「これってフレンドリーファイアってある?」


「ないわ」


「あるように出来る?」


「…………あるにはあるけど……」


 俺はそれ有効にして、という言葉と共に駆け出す。


 後ろからどういうことよ! と聞こえたが、無視する。


 俺は人参星人ではなく、キャントちゃんの所に走り込み、背中を叩き、


「来てね」


 そういって人参星人に突っ込んでいく。


 また何か言われたが気にしない。


 ぎゃおおおおお!


 可愛らしいまさに怪人と言うべきな声に、俺はクスリと笑ってから、一発。


 攻撃は当たったが、HPは少ししか減らない。


 でもまぁ、頑張ったら倒せそうなくらい減る。


 ちなみにこの初心者用の拳銃はセミオートなので、一々撃鉄を倒す、スライドする、といったアクションを必要とせずに撃てる。


「うーん、弱いな」


 ゆったりとした動作でこちらを叩こうとする人参星人を見て、どうするか考える。


「「でぃぃぃぁあ!」」


 すると、気合いの入った声とともに、キャントちゃんとカナリアちゃんが攻撃を加える。


 短槍の鋭い一発と、石斧の重厚な一発。


 装備もいいこともあり、人参星人の体力は大きく削れ、人参星人はその衝撃に大きく体を動かす。


 だが、あと一発といったところか…………


 ダッ


 地面を強く蹴ったような音と共に、人参星人の倒れるベクトルが大きく変わる。


 人参星人の倒れる方向とは反対側にいたのは、銃口から煙を出しているウルトちゃん。


 ウルトちゃんは人参星人のHPがないことを確認したのか、戦闘が終わったかのように立ち上がる。


 一方、キャントちゃんの方も、気を抜いたかのように突っ立っている。


 ウルトちゃんのその様子に俺は苦い顔をしながら、突っ立っている。


 ギィオオオオオ!!!


 すると、人参星人は倒れずに堪える。


 俺は知っている。


 ここのゲームのモンスターは、基本的にHPを削ったあとが強い。


 それを理解していない二人のために、ちょっとヒヤッとしてもらおうと、俺は無防備に立っている。


 迫る拳。


 結構なダメージかな? と俺は拳を見ずに考えていると、


「あんた!

 ちょっとは警戒しなさいよ!」


 俺のすぐ横にカナリアちゃんが現れ、石斧ではなく草刈り鎌を人参星人にぶつける。


 途端、人参星人は光の粒子となって消える。



【チュートリアルを終了します】



 頭に響く声に俺は肩をすくめる。


「もう! ここのモンスターはHPが終わってからが本番なのよ!

 そんなのも分からないの?!」


 俺は目の前でプンプンと怒っているカナリアちゃんに向き直り、


 少し、笑った。




「あんた!話聞いてるの?!」

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