泣いても……いいと思う13話

 ドゴン


 ドゴン


 洞窟の中で轟音が鳴り響く。


 そして轟音の後に聞こえるのは、甲高い動物の声。


 洞窟は光の粒子が舞い、一人の男に吸い込まれる。


 その男とは…………。


「かいっ……かんっ!」


 親父が見ていた再放送のドラマの主人公のモノマネをしている俺だ。


「…………流石に恥ずかしいな」


 俺は手元のショットガンの弾を込め直す。

 その間にも、俺の体には、そこらに落ちているモンスターの死体が、光の粒子となって吸い込まれる。


「50は多いな……」


 俺はショットガンのリロードが終わると、メニューを開いて、集めた死体を数える。


【ホワイトバット 52体】


「クエストの平均より多いのか少ないのか分からん」


 俺はメニューを閉じて、左上を確認する。


【WAVE5】


「一応クリアラインは超えているんだが」


【ホワイトバット駆除戦

 ジャンル 駆除

 目的 対象生物(ホワイトバット)の駆除(特定条件付き)

 難易度 四

 推奨武器 斬撃

 推奨属性 風

 人数 一人限定クエスト

 フィールド 洞窟

 備考 

 ストーリーは存在しません。

 WAVEが存在し、一定条件をクリアすると次のWAVEに進めます。

 WAVE4まで進むとクリアです。

 そこからはWAVEをクリアする都度、クエスト完了の意志を確認します。

 クエストクリア条件を満たしていても、クエスト完了の前に死んでしまうとクエスト失敗です

 素材は、WAVE×一体を報酬とします】


 いきなり難易度四は、無謀過ぎないかと俺も考えたが、実は先程いい感じに別れた後に、ジカさんと、


「ショットガン、強過ぎないですか?」


「いや、このゲーム武器とスキルとギフトとアイテムでしかアバターが強くなれないから、武器はかなり強さとしての比率が大きいぞ」


「え、じゃあこのショットガン、だいたいどのくらい強いんですか?」


「あぁ、そういえば数値教えてなかったな。

 武器の強さの数値は、クエストの難易度で指標とされてる。

 そのショットガンの強さは、五だ」


「……強過ぎないですか?」


「衝撃が強すぎて普通は撃てばバランスを崩す。

 お前が普通に撃てるから、強くなっているだけだ」


 という話をしていた。


 つまり、このショットガン、性能だけは難易度五相当なのだ。

 で、それを普通に使いこなせるから、俺はこのクエストを受けても大丈夫と言うわけで、


「いや、そりゃ衝撃は凄いけど、分かってれば簡単でしょ」


 俺はWAVE毎に支給品を腰バック(クエストを受ける前に買った)に入れ、構える。


 だが、みんなが思ってる、銃の構え方はしない。


 ショットガンは腰だめに、姿勢を低くして、走り出せるようにする。


 視界の端に白いコウモリ…………ホワイトバットが映る。


 走り出す。


 ホワイトバットは素早くなく、そのうっとおしい数で圧倒してくるタイプだ。


 普通は、その物量に耐えきれないので、ハンマーや属性攻撃などの、面での攻撃をする必要があるだろう。


 だが、


「いちぃ!」


 ホワイトバットにゼロ距離で銃口をあて、引き金を引く。


 ホワイトバットは、勢いよく吹っ飛んで、壁に激突し、その激突によって絶命する。


 三体が右から迫ってくる。


「体を大きく横に捻るぅ!」


 ラジオ体操を思い出しながら振るうのは、ショットガン。


 ショットガンの銃身を持って振るうことによって、持ち手の部分がホワイトバットをぶっ飛ばす。


 もちろん、倒せはしないけど、


「にーからよんっ!」


 冷静に構えてから、三発。


 洞窟なはずなのに、壁がところどころ発光していて、薄明るい。


 そんな中、白いコウモリというのは非常に目立つし、ホワイトバットはバスケットボールくらいの大きさなので、


 ギッ!

 ギャッ!

 ギッ!


 まぁ外しはしない。


 すると、今度は俺の挟むように前後から4体ずつ来るのを察知した。


「やっぱ多い!」


 俺はその場にとどまらず、近い方のホワイトバットを二体処理しようとして、


 ギッ!


 一発外した。


 恥ずかしいなんて思っている暇はなく、俺は数の少ない方のホワイトバットの群れに突撃する。


 今度はショットガンは仕舞い、リボルバーを取り出し、即座に2発。


 一撃で絶命しないものの、衝撃を与えることは出来る。

 二体はぶっ飛ばすことが出来、残りの1匹は、


「おらぁ!」


 普通にぶん殴る。


 ……いやね、近代系の武器持ってるからってちゃんとした使い方で、それっぽく戦うことは無いよね。


 WAVE2で、ホワイトバットの量の多さに絶望して殴り始めた。


 WAVE3では、1箇所に留まるのがダメだというのが分かった。


 WAVE4ではボスが出てきたから立ち回りとかは変わらなかったけど、出し惜しみすると負けるということを察した。


「一人専用ならもうちょっと弱くてもいいんじゃない?!」


 振り向き様に連射。


 残っている弾は四発。


 全弾命中したはずなのに、ホワイトバットの数は増えている気がする。


 ざっと数えて、飛んでいるのが八匹


 俺はいつの間にか増えていたホワイトバットに心の中で舌打ちをしながら、リロードをする。


 マガジンを取り出し、


 弾を込め、


「あと半分くらい込めさせてくれよっ!」


 ホワイトバットの群れが無視できない距離に近づいた。


 連射。


 八発撃った内、半分しか当たらない。


 ショットガンをストレージに仕舞い、リボルバーを取り出し、弾を込める。


 六発だけなのですぐに終わり、


 ホワイトバットの群れに向かって走り出す。


「映画みたいだろ?!」


 そのままスライディングしながら下から全弾ブッパ。


 …………1発しか当たらなかった。


 そして、ホワイトバットの群れがまた増えた。


「ふっ……お前らがそこまで増えるなら仕方がない」


 俺は緩慢な動作で、ストレージから武器を取り出す。


 俺の最高の相棒、ショットガンさんだ。


「なら見せてやる」


 前世の記憶から培った。


「近代系の武器の近距離の戦い方ってやつをなぁ!」


 近づかれたら銃撃つより銃で殴った方が早い理論を。











『銃の腕を磨いたつもらりはない。

 生きる術を学んだつもりである』











「ボスぅ…………」


 ボスは変わらなかった。

 雑魚を連れて、突進してきたり、不快な音を出したししてくるモンスター。


「だぁおらぁ!」


 向かってくるホワイトバットを素手で叩き落とし、辛うじてまだ機能するショットガンを打ち込む。


 ショットガンの弾が切れる前に、近づいてきたホワイトバットを退治するのでの壊れてしまった。


 しかしその頃には、ボスのHPはほとんど無くなっている。


 遂には【初心者用の拳銃】まで使い、攻撃しまくる。


 回復薬とスタミナ剤を使う暇さえない濃密な時間を過ごし、俺はボスを退治した。


 地面に座り込む俺を祝ってくれるのは、目の前に現れたたった一枚のウィンドウ。


【WAVE6に進みますか?】


 俺は清々しく【いいえ】を押し、あの現代の町並みへと帰っていった。




 今回の消費

 支給品 全消費


 武器 2つとも撃てなくなった。


 精神 集合体が怖くなった。


 スキル、ギフト 出なかった


 …………多分泣いていいと思うよ、俺。

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