三回目の21話

 三回目のクエストチャレンジ。


「大丈夫かな?」


 キャントちゃんは少し不安そうにしている。


 今回来たのは、イベントクエストの中級。


「大丈夫。

 みんなの装備は難易度五くらいなら余裕よ」


 カナリアちゃんはニコッとキャントちゃんとウルトちゃんに向かって微笑む。


「…………まぁ、一人を除いて、ね」


 そうして向けられた視線に俺は気付かないふりをして、


「今回は、難易度五を二回。

 もし余裕だったら六を一回、って感じなんだよね?」


「……そう。

 でも無理だったら戦闘は直ぐに辞める」


「そうね、このゲームにおいて必要なのは、事前情報と死なないこと」


 俺はその言葉に胸に突き刺さるものを感じて、頬が引き攣る。


「このゲーム、ほんとHPが無くなってから、やられちゃうのを大切にしてるよね」


 キャントちゃんの言葉に、二回目のクエストを思い出す。


 その時は、【キラー小松菜】と戦っていて、キャントちゃんがよく狙われてしまった。


 キャントちゃんは痛みがないから平気なんだろうけど、カナリアちゃんが止めたことによって、初めて自分のHPが無くなりかけていたことに気づいたという。


「今度はきちんとHP管理しっかりしてよねー」


「分かってるよー」


 楽しそうに話す姿に、俺はなんだか感動を覚えていると、


「で」


「は、はい?」


「あんたはなんでそんなふざけた武器を買ってきたの?」


 カナリアちゃんが俺の方を睨み、指さす先。


 そこは俺の手元であり、そこにあったのは、


「銃だからいいじゃない」


「いいもなにもそれ本当に使えないわよ?」


 ナイフ………みたいな銃。


 いや、正確にはナイフの塚にあたる部分が少し膨らんでいて、銃口がついている。


 ナイフのグリップには引き金がついている。


 この武器は暗殺用のいわゆるネタ武器。


 武器としては五だが、その限られた用途、暗殺は基本的にHPがあるから無理という面から、なんか安く売っていたのを見つけた。


「いいのいいの、危なくなったらこっち使うからさ」


 流石にこれだけで戦うわけはなく、俺はもう片方に虚式のショットガンを握っている。


 手間の分だけ高くなる、というのはどの世界でも同じようで、実式は基本的に高い。


 そんな高価なものを買えるワケもなかったので、さりげなく実式なナイフガンを買い、仕方がなく安売りしていた虚式のショットガンにした。


「あんたそれも安売りのやつでしょ?

 特に効果ついてないなんてついてないわね」


 カナリアちゃんの言う通り、この武器には特殊な効果は着いていない。


 そのため、虚式なだけのただのショットガンなんだが、俺は逆にこれじゃなかったらしっくり来ないだろうな、と考える。


 それに、多分この武器だと『名無し』を使えない。


 俺はそんな妙な確信を抱きながら、クエストに向かった。











『窮地は常だ。

 気づくまでは極楽、気づいてからは地獄』











「さ、いくわよ」


 来るなりチュートリアルを飛ばしてずんずんと歩き始めるカナリアちゃん。


 それについて行くキャントちゃんにウルトちゃん。


 俺は手元のナイフガンを弄りながら、考える。


 俺、ナイフ使ったことないやん。


 ナイフの構え方……いや、前世でもあんまり記憶が無い。


 どうしようか……、と俺が悩んでいると、


「おーい!

 早くー!」


 キャントちゃんの声で、俺は自分が置いていかれていることに気づく。


 俺は小走りでみんなに追いつき、それとなく尋ねる。


「みんなナイフ使ったことある?」


「ないに決まってるじゃん」


「……ない」


 キャントちゃんとウルトちゃんは当然として、カナリアちゃんはというと、


「……【女傑衆】の、4位がナイフ使い」


 暗そうにそう答えた。


「なんか元気ないけど、どうしたの?」


 俺は露骨に嫌そうに話しているカナリアちゃんに質問すると、


「……っあいつはほんとなんかいやらしいのよね!

 戦っていても真っ向からは来ないし!

 の癖に私と対人で張り合ってくるし!

 そもそも庭が違うだからもう!」


 いきなり吠えた。


 どうしたんだという声をかけるよりも先に溢れてくるのは、愚痴。


 やれ自分と張り合ってくるのが面倒だ。


 やれ別に順位を誇っているわけじゃないのに順位を強調して話してくるだの。


 その途中には戦い方に関するものも含まれていたので、聞き逃さないようにする。



 しばらくヒートアップした愚痴は、キャントちゃんのキラーベジタブルの発見で打ち消された。


「これ、なんだろうねー」


 土から出ているのは、緑色の……茎?


 俺はなんだっけなこの植物、と思いながら、戦闘態勢を取った。


「いくよ」


 開始の合図は、ウルトちゃんのスナイパーライフルから。


 俺達は前衛3人後衛1人と偏っているので、初心者なウルトちゃんからしたら、フレンドリーファイアがついている状態で無闇矢鱈に撃つのが難しいという。


 ちなみに、フレンドリーファイアは任意で外すことも出来るので、ウルトちゃんに無くそうかと聞いたら、


「……このままが、練習になる」


 と拒否された。


 確かに現実ではフレンドリーファイア無しとか、頭が悪い事を言っているとしか思われないと思うのだが、何もここはゲームなのに。


 俺はウルトちゃんの様子に呆れた様子を見せたが、内心結構嬉しかった。


 なんか、謎の仲間感がある。


 たまぁぁぁぁぁ!!!


 安っぽい声と共に出てきたのは、茶色い体に縦縞の線。


「玉ねぎね」


 俺はナイフを構える。


 姿勢を少し低く、なるべくどこにも動けるように、足に余裕を持たせ、半身になる。


 カナリアちゃんが語るナイフを使う人物の嫌なところを聴きながら、再現してみた。


「あとは……」


 なるべく目立たないように近寄る。

 足元に近づいた俺は、


「えいっ」


 右から左へと軽く切る。


 今まで高威力の攻撃ばかりだったから、衝撃とか凄かったが、今回はそんなに衝撃が来るわけじゃない。


 今度はその腕を戻すように。


「ほいっ」


 周りでは、キャントちゃんとカナリアちゃんが声を張り上げ、攻撃を加えている。


 しかし、今回の野菜達は体感がしっかりしているのか、倒れない。


 その間、俺は攻撃をしながら頭の中でナイフの使い方を整理する。


 まず、ナイフは基本的に一撃で終わらない。


「ほいほいっ」


 攻撃の為の一手と、戻すための一手。


 右から左。


 上から下。


 突きから戻し。


 俺は段々サックサック切れていく様子に楽しくなる。


 ダメージ自体は少ないはずだが、じわじわと確実に与えているのは確か。


 突如、玉ねぎが地団駄を始める。


 これは知らない行動だ。


 俺は余裕を持った状態の足を使って、玉ねぎの後ろから逃げ出す。


 こうやって移動に余裕を持てる状態にしておくことで、ヒットアンドアウェイをする。


「中々」


 俺が玉ねぎを見上げれる高さまで来るとと、玉ねぎはいつの間にか地団駄をしながら俺の方に倒れてくる。


 …………倒れてくる?!


 俺は急いで走り出す。


 今回は間に合う。


 俺はスライディングで玉ねぎの下敷きを避ける。


「諏訪!

 鎌!」


 すると、カナリアちゃんからの張った声が聞こえる。


 俺は即座に腰にセットした【草刈り鎌】を用意する。


 玉ねぎが倒れた地鳴りが止んだ後、玉ねぎの上に二人の影が見える。


「セイヤァァァァァア!」


「エンサァァァァア!」


 二人の掛け声? と共に与えられるダメージ。


 更にはウルトちゃんからの援護射撃によって、玉ねぎのHPはゼロになる。


 俺は動き始めそうな玉ねぎに向かって、【草刈り鎌】を振り下ろした。











 結果として、特に危なげなく難易度六まではクリア出来た。


 そうして俺らがクエストを終了して帰ろうとしたその時、


「あら?」


 俺は、元の噴水に帰らずに、白い部屋にいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る