いきなり心変わりする25話

 一回の【厄】で三匹分の野菜を一気に採取し、修練場に向かった。


 修練場での確認は、何回もの繰り返しの作業だったので割愛する。


 要約すると、



 【至】は、認識しない攻撃であれば良い。


 というのは、相手の予想している攻撃でなくても発動する。


 例えば、【ナイフガン】を見せて撃つ。


 相手は切り付けによる攻撃を予想していたが、銃弾による攻撃を受ける。


 それは、予想外の攻撃。


 つまり、それは認識の外の攻撃という判定になる。



 次に、【頂】。


 これがかなり癖がある。


 まず、武器三種での攻撃、というものの定義。


 拳は、【頂】には入らない。


 恐らく武器ではないからだろう。


 次に、アイテム。


 石を投げてぶつけるのは、武器には入らない。


 結局投げる、という攻撃は、露骨にHPが減る程度じゃないと判定に入らない。

 ……まぁ、大きめの岩を全力で投げないといけないけど。


 次に、【初心者用の拳銃】など、攻撃力が防御力より劣っている場合。


 これは攻撃に入る。


 というように、拳銃を投げたり、石を持って殴ったりと、カカシの設定と攻撃の仕方を延々と変え続け、


 攻撃に入るための条件を何となくだが見つけた。


 ・武器で相手に攻撃を与える

 ・HPを減らす(状態異常以外で)

 ・武器の正規でない攻撃の場合は、HPを減らさなければいけない。

 ・銃弾など、攻撃のために必要なアイテムは、武器には入らない。


 俺に必要なことはこれくらいだったのでやめたが、こうやって調べることが必要だなと思う。


 それだけ、俺がこのゲームに入れ込んでいるのかな、と一人修練場で胡座をかく。


 つまらないギフトを手に入れたなんて思ったが、真面目に研究するあたり、どうなんだろうか。


『おいおい』


 そこで、声が聞こえた。


 いや、正確にはちょっと違う。


 妙に鮮明に聞こえ、耳というか頭に響く声。


 この世界に来ても出てくるのか、なんて考えながら、俺は振り返らずに、


「いきなりすぎんですか?」


 意味不明な言い方をしながら、俺は声の主……俺の妄想である『諏訪厄』と、会話をする。


『はぁ……。

 お主があんまりにも儂を想うから、儂が出てしまったんだろうが』


 まるで俺のせいだと言うような口ぶりに、肩を竦める。


『幼い少女達を見て、楽しむことを教えるなんぞ言っておったが、正直なところ、お主が一番このゲームを楽しんでおらんじゃろ』


「……わからん」


『分かっとる癖に問答を仕掛けるな阿呆が』


「……確かに」


 楽しむ、とは言った。


 楽しんでいるつもりだ。


 だか詰まるところ、俺がやっているのは『諏訪厄』のおっかけで、真似事で。


『別にそれは悪くない。

 そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない』


 俺はこの問答の先にたどり着く。


「じいちゃん」


『なんじゃ?』


「登るか」


『どこへじゃ?』


 じいちゃんの声が跳ねているように感じた。


 まだ若い。


 それは前世の経験から、果てしなく感じる。


 たかが只の男子高校生。


 それによく分からん記憶が引っ付いただけの、普通の人。


 だけどこの世界に来て、楽しむ振りをしながら、俺の中で一つの想いができた。


 じいちゃんの存在を、証明したい。


 御伽噺より御伽噺で。


 英雄より凡人で。


 カッコよくてカッコ悪くて。


 俺はそんなじいちゃんに、憧れた。


『はっはっは、告白か?』


「ちげーよ」


 だけど、俺以外はこの話を知らないし、知る由もない。


 だから、


「いっちょテッペン、取ってみるか」


 ここに、俺……諏訪空(すわそら)が、ゲームという小さな箱庭の中だけでも、その『諏訪厄』の名を、広める。











『頂点は、ない』











「となれば、まずは金策」


 俺は焦らずに準備をすることから始めようと思う。


 じいちゃんの記憶では、基本的に準備万端なやつが勝つのは常識だ。


 そんな中でもひっくり返すのが『諏訪厄』だが、それを真似はしない。


「ジカさん!」


 ということで、早速来たのが、オフィスthe装備の【かじのじか】。


 やけに重苦しいドアを開けると、ごちゃごちゃとしていない内装の店だった。

 一つ一つが高級品。

 そんな印象を感じる店内に人がいないのを確認した。


 ジカさんは修練場に行く前に見かけはしたから、そんな直ぐにいなくなってはいないだろう。


 俺が奥に声をかけると、出てきたのはお目当てのジカさん。


「おー、諏訪か」


「ちょっといいですか?」


「ん?

 あぁ、じゃあちょいと待ってくれ、待たせている奴がいる」


 そう言うと、奥から男女二人組が出てくる。


 一人は、目付きがとても悪い男性。

 やけに背が高くて威圧的。

 額にまいているバンダナが、目つきの悪さをより一層際立たせている。


 もう一人は、美人さんだった。

 背こそは普通だが、スタイルがよく、モデル体型と言うやつだった。

 目鼻立ちは凛々しいという言葉が似合っていて、口元がなんかエロい。


 そこで、俺は何か違和感を覚えるが、話しかけられることによって無視した。


「あら、あなたは?」


「あ、ジカさんのフレンドの、諏訪です」


 女性の方の呼びかけに対して、俺が名乗ると、女性は僅かに眉を上げ、


「諏訪、っていうのはプレイヤーネーム?」


「え、えぇ、そうですけど」


 街中ではプレイヤーネームが頭上に表示されない。


 よってここで嘘をつくことも可能ということなのだが、別に今嘘をつく理由があるだろうか?


「おいお前ら、もういいのか」


「いいっす」


 目つきの悪い方の男が、ぺこりと一礼する。


「ったく……。

 諏訪、こいつらは【虚】の専門鍛冶のガントと、リーダーのエリンだ」


 またも引っかかる名前。


 なんで引っかかるんだ、と思った瞬間、思い出す。


 あ、姫さんの名前か。


 俺はやけに顔似てんな、と思いながらも、ジロジロと見てしまわないように、意識して視線を外し、


「ジカさん、いいんですか本当に」


 この人たちの用事は? という意味はジカさんにも伝わったようで、


「途中だったんだか、平行線だった話し合いだ。

 これ以上言われても、俺は首を縦に降らなかっただけだ」


 部外者がいる目の前でよく言うなー、と思いながら俺はジカさんと二人を交互に見ると、エリンさんがこちらを凝視していることに気づいた。


「……あなた……」


 そう言いかけたエリンさんの肩をガントさんに叩かれ、話を中断させられる。


 何を聞きたかったんだろうか? と俺は少し気になりながらも、


「俺らはこれで」


 ガントさんたちが去っていくのを見届けるだけだった。


「悪いな、よく分からないのに」


「いえ、俺がタイミング悪かっただけですよ」


 ジカさんは微笑してから、


「俺は見ての通り、なんも仕事は出来てなかったんだが、どうしたんだ?」


「あ、頼みたいことがあって」


 そこで、俺は切り出す。


「この店の1番強い近代系の実式の武器、欲しいです」


「……はぁ?」


 ジカさんの疑問は最もだと思い、俺は説明をする。


 この頃ゲームをやっていて、やっぱ強くなってみたいと思った。

 スキルもギフトも十分に凄いから、頑張ってみる、と。


「…………お前、本気で言ってんのか?」


「本気というか、なんというか……」


 俺はそこで、


「全力でやります」


 一言、そう言った。


「…………なら」


 諏訪、修練場行けるか? と聞かれる。


「3時間くらいはあとここに入れますよ」


 今日は昼から適当にゲームしていたので、あとしばらくはやれる。


「お前の専属鍛冶師、やったるよ」


 そう言われた。

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