そりゃもう27話
まず俺は、拳銃の中でどれがいいのかを選ぶことにする。
前世では基本的に全部使えたが、俺がそうとは限らない。
まずは、拳銃の大きな違い……リボルバーとオートマチックだ。
俺は安いという理由からリボルバーを使っていたが、だからといって俺がこれを得意という理由にはならない。
「ってことで、虚式だが、うちの店にある拳銃をだいたい持ってきた」
そう言ってジカさんから渡されたのは、十や二十では収まらない拳銃の数々。
俺は一つ一つを試し撃ちして、感触を確かめる。
結果、リボルバーとオートマチックでは、俺はオートマチックの方が得意だった。
マガジンでリロードという点に非常に魅力を感じた。
戦いの最中、俺はそれぞれの武器が違うことから、いちいちリロードに時間を取られていた。
しかし、武器を統一することによって、事前に弾を込めたマガジンを呼び出すだけでリロードは容易になる。
「やっぱリボルバーは護身用、って感じですね」
「……この世界だとジャムだったり不発って要素はない。
リボルバーはその点、その不測の事態への対応が高いのが特徴なんだが、このゲームだと不遇だな……」
ジカさんとそんな話をしながら銃の試し撃ちは続く。
俺は構えて撃ち、走りながら撃ち、ジャンプしながら撃ち。
「拳銃の利点って、やっぱり丈夫ですよねぇ……」
「そりゃ、一番作るのが簡単だからな」
「その単純さが、丈夫さに繋がるんですよね」
「ほう……つまり、丈夫であると長所が伸ばせるな……」
「だけどやっぱり、銃身が短いから距離はないですね」
「それが嫌なら違う武器を使えって感じだな」
「嫌な訳じゃないんですけど、攻撃範囲が一定になると、読まれるんじゃないかって」
前世の記憶だとあまり感じることの出来ない、実際に使ってみた感触。
じいちゃんは簡単に使っていたけど、それは戦場仕込みの我流。
俺みたいな普通の学生に、それが真似できるわけはない。
案山子を消した回数なんて既に数えるのを辞めた辺りで、
「すいません、これ、いいですか?」
取ったのは、【デザートイーグル】という銃。
ここにあるのは虚式のため、実式好きな俺としては衝撃が物足りないし、威力もイマイチだったのだが、こいつは違った。
「お前中々アホな銃持つな……」
「いや、分かってますって」
前世の記憶から、こいつのアホさ加減は身に染みて……いや、記憶に染みて理解している。
こいつは拳銃の中で一番強い威力の拳銃といえばわかりやすいだろうか。
「うん、こいつだな」
俺は数回撃って確信する。
俺はなんか中の衝撃に対する適正的なのがある。
ショットガンだって気にならなかったし、逆に衝撃が少ないからという理由で虚式を使わなかったくらいだ。
この使った感覚、ってのが好きなのだろうか、と俺は手元の【デザートイーグル】を見る。
「別に拳銃だから実式に作り替えるまでの時間はかからん。
一時間くれ、一丁は仕上げよう」
そうして俺はジカさんに拳銃を渡し、しばらく待つことにした。
『得意を作れば不得意ができる』
「あ」
俺がジカさんに拳銃の作り替え(虚式から実式に変える作業)をしている間暇になった俺は、前々から言われていた防具問題の解消のため、同じオフィスの五階に降り、防具を物色していた。
すると、そんな言葉と俺の後ろで聞こえた。
流石にイベント中にこんなに呑気に装備見ているやつは珍しいし、俺以外に周りに人はいない。
「なんでしょうか?」
振り返ると、そこには女性がいた。
「……エリン……さん?」
「あ、そうです、エリンと言います」
先程までジカさんの店にいた二人組の男女のうちの片方……エリンさんがいた。
「あの、確か諏訪さんでしたよね?」
「そうですね、諏訪っていいます」
俺としては別に面倒でないし、ぼっちな俺からしたら美人要素はいい目の保養になるからいいんだけど、
やっぱり似てる。
じいちゃん……『諏訪厄』が、生涯をとして振り向かせたかった女性……エリス。
その記憶を持っている俺からしたら、お前頑張り過ぎだろ、と言えるような数々を仕掛けていた。
そんな記憶があるせいか、目の前の女性に謎の警戒をしてしまう。
「えっと、その、私、諏訪さんに見覚えがあるなー、って……」
「……あぁ、確かに俺はリアルの姿なので見かけたかもしれませんね」
エリンさんの謎の発言に俺はよく分からなくなりながらも、
「エリンさんは、どうしてここに?」
他愛もない話をすることにした。
別に警戒しているからと言って悪い人ではないだろう。
それに、なんとなくこの人と一緒にいると、なんだか温かい気持ちになってくる。
…………あ、やばい、混同してるな。
「私は、アクセサリーの類を見ようと思って……」
「アクセサリー?」
俺の知らない単語に首を傾げると、エリンさんも不思議そうな顔をする。
「えっと、あれですよ。
こういうのです」
そう言って見せてきたのは、胸元のアクセサリー。
紅い宝石をあしらった中々の値打ち物に見える。
「綺麗ですねぇ……」
思わず息を呑む。
前世でのエリスに渡して、付けてもらえなかったネックレス。
あんまりにも奇跡的なことが続きすぎて、ちょいと怖いものを感じるが、
「え?」
「え?」
俺はエリンさんからの唖然とした顔に、同じような顔を返すことしか出来なかった。
「感想、それだけですか?」
「え、はい」
エリンさんは至極真面目な俺の様子に少し悩みながら、
「あ、知らない?」
「知らないってのは?」
「アクセサリー自体です」
「まぁ、確かに知らない単語ですね」
そこでエリンさんは大きく息を吐き、
「あなた、今まで【クエスター】でアクセサリー使ったことないんですか?」
「使ったことないも何も、俺まだ初めてから一週間経ってませんよ……」
不意を突かれた人間の顔、というものの典型を見た気がする。
「えっと、あぁ……確かにそれだったら知らなくて当然……」
エリンさんはほんの少し、顎に手を当て、ブツブツ話す。
独り言なのだろうか?
それにしても誰かと話してるみたいだな……と思っていると、
「すいません!」
いきなりの謝罪に俺は驚く。
「私、あなたがてっきり熟練のプレイヤーかと思って……」
「あはは……。
このゲーム、やってる歴が分かりづらいですよね」
「それに、初期装備の服装は割と人気があるから、その手の服にこだわる人だと勝手に決めつけてしまって……」
いえ、初期装備を未だに卒業できてないだけです、なんて言えず、俺は笑っておく。
「それで、お詫びと言ってはなんですが、アクセサリーのことについて教えましょうか?」
それは俺としても願ったりなので、お願いする。
そこから俺達は四階に降り、アクセサリーの売り場に来た。
「アクセサリーは、三つしかつけることができます」
「三つ」
「しかし、指輪三つ、ネックレス三つというように一箇所に付ける訳じゃなく、様々な場所につけることができます」
例えばこれのように、とネックレスを持ち上げるエリンさん。
「そうして、アクセサリーは装飾目的だけでなく、特殊な効果もあります」
例えば、と言って目の前のショーケースにおいてある指輪を指す。
「あのアクセサリーは、腕力微上昇。
ちなみに、微の値はスキルでの効果の三分の一です」
……つまり、アクセサリーによっては四つ目のスキルという扱いができる、と。
「しかし、アクセサリーは基本的に脆いです。
つけている部位に攻撃された場合、破損してしまいます」
だから、対人ではアクセサリーを破壊することも作戦の一つですよ、とエリンさんは微笑む。
「それじゃ、アクセサリーは三つつけた方がいいってことなんですか?」
「確かにそうなんですが、一概にそうとも言えません」
私が特にそうで、と言って自身のネックレスを指して、
「これに着いている効果は、他のアクセサリーをつけると消えてしまうんです。
それに、アクセサリーにも適性があって、合わないとそれなりの効果しか発揮しないようです」
アクセサリー、スキル、ギフト、武器、防具。
自身を強化できない代わりに、周りを強化して、プレイヤースキルも求める。
最初から変わらないこのゲームのスタンス。
俺はそこから、アクセサリーを見て回った。
アクセサリーは基本高い。
そりゃもう高かった。
これは所謂上級者アイテムなのか、と自分に言い訳しながら、アクセサリーを見て回った。
エリンさんとは、本当に他愛もない話をして、時間が流れた。
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