不必要な26話

 ジカさんのセリフを、俺はあまり理解できなかった。


「はっはっは。

 いきなり過ぎるし意味わかんねぇよな」


 二カリと笑うジカさんに、俺は苦笑いを返す。


「とりあえず、専属鍛冶師、ってのを説明するぞ」


 少し脱線したが、纏めると、


・専属鍛冶師、ってのはプレイヤー間での呼び方で、実際にシステムとしては存在しない。

・内容としては、所謂スポンサーみたいな感じで、個人、またはパーティ単位で鍛冶師に専用の装備を作ってもらうことを指す。

・凄い装備の供給を確定させてパーティはハッピー。

・専属鍛冶師だと言うことが知れれば、鍛冶師の名前が売れ、更にはそのスポンサーからのサポートを得られてハッピー。


「鍛冶プレイヤーには、具体的な高みがない。

 確かに、強さをの値を最大値にしようと、己の作った武器で最強を目指してもらおうと、それは各々の自由だ」


 だから否定する訳では無いけど、と付け足したジカさんは、


「俺の作った武器で楽しそうにプレイしている姿を俺は見たいんだ」


「……出来るんですか?」


 このゲーム、基本的にクエストは同じチームでなければプレイしている姿を見ることは出来ない。


 それに、ゲームの内容を録画、配信は禁止されているので、ジカさんの言っている内容を叶えるのは無理である。


「いーや、それが1つあるんだ」


 ジカさんは、店の窓を指さし、外を見ろと言ってくる。


 そこにあったのは、今回のイベントの大々的な宣伝……


「あ」


 それに、噴水の後ろに設置された、巨大な空中投影の映像。


 その映像では、三人の屈強な男達が、【キラー三葉】と戦っていた。


「あの映像なら見れる」


 後ろからジカさんの声。

 確かに、そりゃあれに映れば見れるけど……


「あれに映るにはどうしたらいいんですか?」


「あれは今現在のトッププレイヤーの映像だ」


 トッププレイヤー。

 つまり、今回のイベントの暫定一位。


「あれに楽しそうにプレイしている姿を見るのが、俺がこのゲームを辞める時だ」


 無理そうだろ? と問いかけてくるジカさんに、


「確かに、あそこに映っている人達は、楽しそうではないですね」


 命を懸けた死闘。

 まさにそんなもんを魅せられている気分だ。


「そう、あそこに映るのはいつもいつも辛気臭い顔したヤツらの、本来の目的を忘れたゲーム」


 真剣だから見る人もいる。


 ジカさんには言わずとも伝わる言葉を飲み込んで、


「それでも、ですか?」


「だからこそ、だ」


 やっすい夢だろ?


 ジカさんの言葉に、俺は笑った。


「流石にバカにするとは思ってなかったよ」


「いや、違うんですよ」


「何がだ?」


「ゲームでこの人に会えて、良かったっていう笑いですよ」


 しばらく固まったジカさんは、俺を鼻で笑い、


「お前、ホモのけでもあるのか?」


「失礼じゃない?!」


 笑いあった。











『友情は、道端の花くらいに気付かない』











「じゃ、やってみてくれ」


 ジカさんから促され、俺は銃を構える。


 あの後、俺は専属鍛冶師を受け入れ、今後はジカさんから装備を受け取ることにした。


 しかし、ジカさんは今の段階目で渡せる武器はない、と言う。


「お前のための武器を作る」


 真面目な顔のジカさんは怖いが、もう慣れたもので、どうやって作るのかと問うと、


「本人の意思と、俺の独断と偏見」


 そこで、俺は修練場に連れていかれ、俺の言った使えるスキルとギフトを試すことにした。


 【ナイフガン】、【ショットガン(実式)】、【AK47】の順で案山子を攻撃する。


 俺の汚い色に光り、


「【厄】」


 そうして始まった、俺の案山子蹂躙劇。


 即座に最大出現数の一千をランダム配置して、駆ける。


 俺は全ての銃を使い、弾を使い、体を使って、三分間全力でやり切った。


「っふぅ」


 その頃には、残りの数は13体。


 不吉な数字だと思いながらも、武器をストレージに仕舞う。


「おいおい、前世は軍人か超人か?」


 近寄って来たジカさんは驚いた顔をしている。


「こんな案山子じゃあ測れないと思っていたが、逆にこんな案山子でも分かっちまうほどに強いな」


 案山子は全て眉間を撃ち抜かれている。


 出現をランダムに、向きもバラバラにしたはずなのに、変わらぬ場所を撃ち抜かれている。


「最初は適当なだけかと思ったが、途中から意識してみるととんでもないな」


 ジカさんが撫であげる頭の輝きから目を逸らしつつも、俺は溜息をつく。


「どうした?」


「うーん、実はこれ、完成じゃないんです」


 俺は謙虚とかそういう事ではなく、説明する。


 この【厄】は、理想の動きができる。


 つまり、俺にとっての理想……つまりあのじいちゃんの動きを真似を、頭に思い描きながら戦っている。


「足りないんです」


 判断も、考えも、動きも、意味も。


 一挙一足全てに感じる差。


 記憶の中の『諏訪厄』は、どうやって動いてたのだろうか。


「それはお前でどうにかしてくれ」


「そうですよね」


 確かに、今そんなことを言われてもよく分からないだろう。

 ジカさんは『諏訪厄』なんて人物は知らないだろう。


「とりあえず、俺から見て思ったのはこれだ」


 そこに書かれていたのは、武器に関する事項。


 空に投げて武器をキープする時、それぞれの重さが極端に違うからタイミングがズレて扱いづらそう、見えない敵を打つ時に小さい獲物が少ないから取り回しがキツそう、殴る蹴るを織り交ぜている様子もみられているため、ガントレットなど防具が必要そう、つか防具ないのは何故?


 いくつもの俺も時間している反省点の数々に、下を巻きながらもお礼を言う。


「人から言われると、辛いですね……」


「そんな俺はお前を凹ませるためにやってるわけじゃないよ」


 ジカさんは俺に苦笑いしながら言ってくれる。


「確かに【厄】は強い。

 だけど、それを使うためにはお前の武器がそのためになっていないとダメだろ?」


「……そうです」


「で、それをお前は分かっているわけだ」


「……はい」


 突き刺さる言葉に胸を痛めながら聞いていると、


「だから、お前は武器を絞れ」


 俺はその言葉に不思議な顔をする。


 もともと、『諏訪厄』の戦い方は、数々の銃を扱い、その銃捌きとどんな獲物でも使いこなすことで、どんな状況下でも強さを発揮していた。


 時には死人から拾った銃で、時には相手の武器を使って、時には店先の武器を使って。


「確かに、お前の戦い方は、どんな時でも勝つための戦い方をしている」


 しかしだ、と付け加え、


「銃は量産できる。

 同じものは作れる。

 持ち物はそもそもストレージがある」


 そこで俺はピンとくる。


「そうですね、確かに俺はなんかどこで襲いかかられても良いようにしてました」


 街中で襲われてもいいように、いきなりモンスターが現れていいように。


 そんな考えで【厄】を使ってきたが、ジカさんの言う通り、クエスト前は準備の時間があるし、いきなりなんか起きるのはそもそも問題すぎる。


「準備を怠るから前まで失敗してたんだろ?」


 そういう所だよ。

 ジカさんの言葉に俺は、やっぱ大人だなーと思いながら、


「ジカさんから見て、どれが一番使いやすそうに見えましたか?」


 そう聞かれると、ジカさんは、


「それは分からん」


 自身を持って言われた。


「俺が見たのはあくまでお前の戦い方だ。

 得意不得意はお前が決めた方がいい」


 俺はそう言われて困惑する。

 そも『諏訪厄』には苦手な武器はなかった。


 どんな武器も平等に扱えるからこそ戦えた『諏訪厄』は、このゲームでは逆に不必要らしい。


 つまり、俺の好みというわけで、


「俺の好みか……」


 そうして思い出すのは、濃厚なここ一週間もないクエスト。


 イノシシにやられて、猿を倒して、コウモリを撃ち落として、野菜を狩って、


「拳銃?」


 俺が困った時に出していたのは、拳銃だった。


 威力が弱いけど、助けてもらった。


「拳銃か。

 なんかケチ臭いヤツだな」


「いやいや、別に安いからって理由じゃないですから?!」


 なんか割と使う回数多かった拳銃。


 弱くても、使っていた。


 こうして、ジカさんによる最高の拳銃は作られ始めた。

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