おっちゃんと巡り合う4話

 学校を終え、家に速攻で帰ってきた俺は、早速ゲームにとりかかる……わけではなく、


「宿題を終わらせないとやばい」


 昨日は休みだったのもあって、宿題の量が多くて辛い思いをしたため、今日は早めにやっている。

 いや、今日も宿題が多いというわけじゃないんだけど、宿題が残っているというままの状態でゲームしたくないからなぁ、って感じ。


 そのまま宿題を高速で終わらせ、俺は準備を丁寧に終わらせ、


「っしゃ!」


 ダイブギアを被った。











『準備を損なうのは、命を損なうことと同義である』










 なれないログイン時の地面の感触によろめきながら、ゲームをしているという事実を再確認する。

 当然ながらデスペナは過ぎているため、自由にプレイ出来る。


 俺は真っ先にクエストが受注できる場所……掲示板に、


「ごめんください武器見たいです!」


 行かなかった。


 昨日までの自分は、適当なクエストでも出来るだろうと高を括って、死んでしまった。

 油断は禁物とよく言ったものだけど、ゲームの中までそうだと落ち込むわ……。


 俺は速攻で掲示板とは違うビル……オフィスthe装備に来た。


「すいません」

「あぁん?」

「自分初心者なんですけど、装備について教えてくれませんか?」

「んなもん自分で調べればいいだろ?」


 俺はビルの武器コーナーに入り、最初に目についた人に話しかけた。

 振り向いたその人は、いかにもな感じの厳ついおっちゃん。

 禿頭が特徴的で、その体には筋肉が迸っている。


「自分で調べてもいいんですけど、こういうのは人に聞いた方がいいと思って……」

「ほぅ、なんでよ」

「この世界の武器、本物みたいじゃないですか?」

「…………おめぇ、武器についてどれくらい知ってる?」


 俺の言葉におっちゃんは質問してくる。

 それに対して全く、と誇らしく話すと、おっちゃんは暫く考え、


「武器は?」

「え?」

「おめぇの使ってる武器だよ。

 せっかくだから話してやるよ。

 武器について」


 俺はその言葉におぉ、と感嘆の言葉を発して、自分の武器を差し出した。


「これです」

「…………なかなか使い込んでいるな」

「え、えぇ、これで昨日クエスト受けたら、失敗しちゃって……」


 すると厳ついおっちゃんは、少し苦い顔をし、


「……あぁ、すまない、自己紹介がまだだったな」


 いきなりハッとしたような表情になった。

 厳ついおっちゃんは、手を差し出しながら、先程の微笑んで、


「俺の名はジカ。

 鍛冶プレイヤーだ」

「スワです。

 昨日始めたばかりです」


 俺の自己紹介にジカさんは少し驚き、


「昨日始めたばかりなのに、失敗したのか?」


 ジカの言葉に俺は苦笑いを浮かべ、


「いやー、何も準備しないでクエスト受けちゃって……」

「それで武器を買いに来た、と」


 その通りです、と俺が返すとジカは俺の武器を見ながら、


「見たところ……、多人数系の駆除クエストだな」

「分かるんですか?」

「損傷具合、あんたが昨日から始めた、そんでもって死んで今からプレイできる。

 この要素を満たすとなると、駆除系の、それもこれだけ使えるのに負けてしまう程に面倒くさい……多人数系だと推測が建てれるんだよ」


 見たところあんたソロプレイっぽいし、と付け加えたジカは、その禿げ上がった頭を一撫でし、


「それであんたは、装備を整えようと」

「あ、はい、それでこのビルに入ったら、ジカさんがいたから……」

「……自分で言うのもなんだが、話しかけづらい見た目をしているつもりだが?」


 いや、あんたくらいで怖い言ってたられないよ、という言葉を飲み込む。

 それで怖いとか言ってたら、前世の記憶の人達を目の前にしたら、穴という穴から何かを吹き出さないと行けなくなるぞ……。

 俺はそんなことを考えながら、一言、


「気にしないタイプなんで」


 ……そうか、と済ませてくれたジカさんにホッとしつつも、


「それで、ジカさんは何系の鍛冶プレイヤーなんですか?」


 武器には種類がある。

 それは三種類があって、古代系、中世系、近代系の3つがある。

 どれも一長一短で、特徴がある。


 それと同時に、基本的には武器同時は三竦みの状態になっていて、


 古代系は中世系に強く、

 中世系は近代系に強く、

 近代系は古代系に強い。


「近代系だな」

「近代系なんですか。

 中世系ではないんですね」

「人気がありすぎて逆にな」


 鍛冶プレイヤーは、一定数存在し、基本的には三すくみの内のどれかに属する必要がある。


 それで、よくあるファンタジー系の武器……剣や盾、杖などは基本的には中世系に属する。

 当然、ゲームをやっている人間は専らそういう武器が好きなので、中世系の鍛冶プレイヤーは多い。

 良く言うと、たくさんの武器が出回っていると言うことだが、悪く言うと鍛治プレイヤーは中世系では成り上がっていけないと言うことである。


「それで近代系の鍛冶プレイヤーやれるもんなんてすか?」


 よくも悪くも、【クエスター】はリアル重視。

 身体能力も現実に寄り添っているらしい。

 それに武器も現実の知識に即しているらしい。

 そのため、鍛治プレイヤーにはリアルの知識などが求められるらしい。


「今の時代、調べればなんでもわかるからな」


 あ、そっか、みんな調べるのか。

 俺は前世の記憶から、近代系の武器全部についての知識はもっている。

 そんな記憶のせいで調べるという発想がなかった。


「ま、こんなところで立ち話もなんだ。

 そこのベンチで話さねぇか」

「あ、はい」


 ビルは10数階あるが、大半がプレイヤーの持つ店である。

  そのため、6階からは実力も財力もあるプレイヤーのための店になってきて、装備の単価が一気に跳ね上がる。


 そんな中、俺が今いるのは一階の、初心者のお財布に優しい武器コーナー。

 どんな種類の武器もそこそこのものまでが満遍なく揃えられているらしい。

 

 そうして、ジカさんに連れられるまま、ベンチに座る。

 となりにジカさんが腰掛けた。

 ……正直、隣に座ると威圧感があるせいでベンチが狭く感じる。


 ジカさんはベンチに座るなり、メニューのメモの機能を起動し、


「じゃあ、あんたの武器に必要な条件を教えてくれ」

「ん?」

「だから、お前さんが欲しい武器に求めてる要素を教えてくれて言ってるんだよ」


 ジカさんの言葉に、俺は一瞬言葉を失った。

 ただ話しかけただけなのに、こんなに親身になってくれると言うことに驚いた。


「なんで……」

「……お前は化ける可能性があると俺は見た。

 だから、無料で武器一つやるよ」


 さらにはあげるなんて言い始めた。

 俺はいきなりの話に脳がついていけない。

 そうして頭によぎった言葉を素直に口に出す。


「詐欺?」

「お前さんから取れるものなんてあるのかよ」

「あとから高額請求……」

「……まぁ、壊したら修理代は貰うくらいだな」


 俺は否定しないジカさんから距離を取ると、ジカさんは苦笑いを浮かべた。

 その様子に、俺はジカさんの言っていることをひとまず信じてみようかなと思い、


「それで、俺に武器を無料でくれる、でしたっけ?」

「そうだ。

 あんまり裏がありそうだと思われると面倒だから言っておくが、根拠はある」


 ジカさんが俺の顔を見て、真面目な顔をする。


 俺が前世持ちだと言うことがバレる?!


 三年前だったら、そんな馬鹿なことを考えていた。

 が、今では出てくるのは純粋に疑問。


「まず、武器の使用感。

 鍛冶プレイヤーは、武器を見るだけで善し悪しが分かる、と言うが、正確には武器の使用ログが見える」

「使用ログ……」

「戦う時に出ているだろう、視界の端に」


 あぁ、と俺は納得した。

 わざわざ弾が当たったか外れたかとかを報告してくるやつ、という認識だった。

 しかし、確かにそれが見えるなら、客観的な事実として実力が見える。


 それじゃあ鍛冶プレイヤーだと、武器を見た瞬間相手の強さが一発でわかる?

 そんなことを考えたが、鍛冶プレイヤーはそもそも武器を装備することができない。


 そんな致命的なハンデを背負う代わりに、鍛治に特化しているのか、と自己完結した。


「それで、その初心者用の銃は、近代系の武器の中でも割と癖が強い。

 初心者に扱いが難しいものを渡して、後から楽をさせるためだな。

 なのに、お前と来たら、最近の使用ログを見ると、あのフォレストボアにほぼ外さないで当ててるじゃないか。

 それにフレームにも損傷が見える。

 初心者用の銃だったから良かったのものの、ほかの生半可な銃だったら速攻ぶっ壊れるぞ。

 それに、使った弾は支給品の弾ときた。

 基本的に近代系の武器は精密性の高さを求められる。

 なのに、最低品質しかない銃弾しか使っていない。

 なのにさっき言ったように、お前のログは面白い。

 おそらくこのログの数に、お前さんの服装を見るだけで、なんとなくどんな戦い方をしたのかは察しがつく。

 ほんと、馬鹿みたいな使用ログだけど、それが逆に面白い」


 長いなぁ、と月並みな感想を抱きながら俺は話を聞いている。


 とりあえず、外さないで当てているのは、とにかく最後のフォレストボアの数が多かったから。

 それに、一発一発をほぼゼロ距離で当てていたから、外すも何もない。

 きっとジカさんは遠距離から精密な射撃をしていると思っているのかもしれない。

 使用ログだからそこら辺はわからないのか、と俺は口には出さずにそんなことを思っている。


 …………いやだって、ここで否定したら武器作ってくれないかもしれないじゃん。


「とまぁ、お前は近代系の普通のプレイヤーとどこか違う気がしたから、今のうちに唾をつけておきたい」

「ストレートですねぇ」


 厳つい顔にも関わらず、眩しい笑顔を向けるジカさんに、なんだか騙しているような罪悪感を感じていると、


「じゃあ、この中から選んでくれ」


 俺の目の前にウィンドウが出てきて、その中には幾つかの銃が表示された。

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