初クエストな第2話
降り立ったのは、教会。
手入れのなされている銅像に、その方向を向いている幾つもの椅子。
そして扉から銅像まで敷かれたボロボロな絨毯。
正に教会、という感じだ。
現実世界では見ることの無い、神秘的だが使用感のある内装に見とれていると、
「すいません……」
声をかけられる。
声の方を向くと、修道服を着た17、8歳の女性が声をかけてきた。
教会に修道女とは、正に中世という感じがする。
先程まで近代的な建物に囲まれていたせいで、まるで異世界に来たような感覚を味わう。
俺は苦笑いを押し殺し、愛想笑いを浮かべながら、
「クエストをしに来ました」
一応このゲーム、平行世界からクエストを受ける、という設定である。
その設定が正しければ、このシスターはクエストを発行したことを知ってないわけがない。
ま、ゲーム的な考え方をするなら、一々大きな世界を作るより、様々なクエスト用の世界を作ってくれる方がいい。
下手にプレイヤー全員を一緒にされるより、自分たちしかいない方が気が楽だし。
「あ、あなたが……」
「……えぇ」
「それでは、こちらの方へ……」
俺の事を見て一瞬ぎょっとしたシスターだったが、俺が返事を返すと、案内を申し出る。
そんなシスターの立ち居振る舞いから、不穏な雰囲気を感じ取った。
俺はなんか不自然だったか? と自分の姿を確認する。
……まぁ、確かに現代の服装で来られたら、この世界の人達は驚くよな。
教会を出て分かる。
やっぱり俺の服装だ、と。
教会の外に広がる村は、俺の頭の中にある村とは違い、本当の意味で限界だと分かる。
やせ細った体で、よろよろと重い足取りで歩いていく村人たち。
よく見ると、目の前のシスターさんも、所々やせ細っている。
身綺麗にしているからか、気づかなかったが、ほかの村人達は一目でボロボロだと分かる。
俺はそんな惨状の村を見て、本当にゲームなのかと思いつつ、シスターについて行く。
道中、視覚操作でウィンドウを使い、支給品を受け取っていく。
そこで気づく。
一人で受けるにしては支給品の量が多いな、と思い事に。
たが、その時点ではそこに疑問は浮かばないでいると、シスターはゆっくりと立ち止まった。
「ここが村長の家でございます」
シスターが扉を数回ノックすると、中からいかにも村長、といった顔つきのじいさんが現れる。
当然のようにやせ細った体に、俺は顔が険しくなるのを感じる。
大きな違いがあるとすれば、その顎に蓄えた大きな髭だろうか。
村長は俺らの姿を見て、家の中に入るように言った。
中は最低限生きるためのものしかない村長の家に、俺はゲームなのかとさらに疑問に思いながら、村長から話を聞く。
「それでは、今回のクエストの内容を確認致しまする」
そして始まったのは、俺の予想を遥かに上回るクエスト内容。
村の男性じゃ膂力で叶わないフォレストボアという魔物の、20体の討伐。
道理で男が少ないし、村の人間は力がなさそうなのばかりなのか。
曰く、フォレストボアは現実のイノシシと同じで、人の育てた作物を食い荒らすそうだ。
それでこの惨状……。
俺は冷や汗が止まらない。
だがここで俺が取り乱せば、何が起こるか分からない。
もしそれで俺がクエストをやる前にクエスト失敗、なんてヘマをしない訳が無いので、表面上は至って冷静に話を聞く。
そして、村長から質問が飛んでくる。
「それで、今回はお一人なのですか?」
「…………えぇ、まぁ……」
返答を考えてしまう。
それが逆に村長からしたら強者に見えたのだろう、村長は笑顔で、
「それはさぞかし腕にご自慢があるそうですな」
皮肉混じりのセリフを放ってきた。
まぁ、それなりに経験(仮)を積んでいる分、当然のように分かる。
もしかしなくても……これ多人数用のクエストだよね?
俺は今すぐにでもクエストを中断したい意志に駆られる。
だが初クエストを中断で終わらせる程、俺は諦めが良くはない。
そんな意地だけで、俺はこの全力で逃げ出したい空間に居座った。
クリアできるかどうかは分からない。
だけど、ゲームだしやってみよう。
そうして俺は、村から歩いて15分程度の所にある森へと、歩を進めることになった。
『勇気は、恐怖と近い』
森の前まで着いた俺は、最終確認を行う。
まず、俺の武器。
チュートリアルの時にもらった、【初心者用の拳銃】
銃の攻撃は、本体の攻撃力と、弾の攻撃力の合計で決まる。
弾は消耗品、更には銃の方も打つ度に消耗してしまうため、人気はないらしい。
だがこの【初心者用の拳銃】は絶対壊れない。
それだけ聞けば確かにものすごく強い武器なのだ。だがしかし、その代わりにこいつに攻撃力はほぼない。
それを2丁。
弾丸は基本的に自前で持ってくるか、支給品のものを使うしかない。
当然、始めたばかりで買い物なんてしていないため、俺の持つ弾丸は、基本的に支給品だ。
防具は、インナー(最低限の肌を隠すもの)に、現代的なTシャツとチノパン。
戦場とゲーセンを間違えたのかというくらいのふざけようだ。
アイテムに関しては、支給品の回復薬と、スタミナ剤。
かなりの数があって、1人で使うにはあまりにも多い。
ちなみに、【クエスター】内で死亡した場合は、リスポーン……再出現できない。
クエストが失敗になってしまう。
多人数でプレイする場合は、ほかのプレイヤーによって蘇生できる可能性はある。
だがソロプレイだとそんな余地はなく、死ぬ=クエスト失敗。
装備とルールの確認を終えると、タイミングを見計らったかのように、森の奥からイノシシが出てくる。
イノシシの上に、【フォレストボア】と表示されている。
一応、視認できるのは4匹……。
さらに4匹は、見つからない位置にいるが、木の葉の不自然な揺れから確認出来る。
「厳しくない?」
拳銃を右手に一丁構える。
支給品の弾数と装備の貧弱さを考えると、二丁目は予備として持っておいた方がいい。
基本的には、ボクサーのファイティングポーズ。
半身になって、拳銃の持っていない方の拳を前に出す。
正直、クエストを今すぐ中断したいところだけど、そんなことをすれば俺の前世のあの爺さんは、きっと怒るだろう。
それに、俺の意地が、初クエストなのに中断なんかできるか、と訴える。
そんな個人的な感情で、俺は頑張ってみることにした。
しばらく睨み合いが続いたあと、フォレストボアは突進してくる。
まずは1匹。
様子見しているフォレストボアに隙を見せる訳にも行かない。
他のフォレストボアにも注意を払いながら、最低限の動きで突進を避ける。
バンッ
すれ違いざま、裏拳と拳銃を一発。
横目でちらりとHPを確認すると、20分の1くらい減ってた…………というか減っていると思わないとやってられない。
後ろに一匹、前に七匹。
こっから連携でも取ってくるか? と考えていたが、そんなことは無く、
そうして始まったのは、フォレストボアの突進祭り。
いくら前世の記憶があろうと、俺は少し鍛えたくらいの普通の少年で、一気に何匹もの突進を回避することは出来ず、無駄に動き回って避けまくる。
連続での行動回数によって減っていくスタミナをスタミナ剤で無理矢理に回復しながら、拳銃でちまちまと削っていく。
「無理ゲーなんだよなぁ……」
目の前にいるフォレストボアの数は、既に三匹。
結構減らした………が、それは俺がやったのではない。
フォレストボアの突進祭りの最中、フォレストボア同士を衝突させたらかなりHPが減ったのを確認して、頑張って同士討ちさせていたのだ。
当然だが、数が減る度にそのチャンスは無くなっていく。
残った三体のフォレストボアは、一匹だけが三分の二体力を残しているだけで、ほかの二匹は半分以上体力が削れている。
これをあとは自力で削るしかない。
俺は残弾が十分にあることを確認して、今一度ファイティングポーズをとる。
汚い鳴き声とともに突っ込んでくるフォレストボア。
防御という選択肢は既に頭の中から消えているため、回避を選択する。
サイドステップで回避。
銃弾を三発。
2発外したみたいだ。
左上のログを流し見しながら、次の突進を確認。
後ろに一匹いる状況を作らないため、三匹が見える位置に移動する。
だが、その前に突進してきたフォレストボアがこちらに衝突しそうになる。
「ホッ!」
威勢のいい声とともにフォレストボアを跳び箱代わりにして飛ぶ。
攻撃はできなかったが躱すことは出来た。
三匹目は着地の瞬間を狙っているのかすぐに来たが、
「甘いよ」
着地の瞬間に転がって躱しながら、二発。
今度は当たった。
別に三体になってからは苦もなく、戦闘を始めてから一時間という果てしない時間を終え、俺は三体を倒していた。
「………………」
無言で草原に倒れ込み、深呼吸をする。
ソロプレイきつい。
クエストの選択ミスった。
武器と防具買えばよかった。
クソゲーだろ……。
いろんな感情が入り交じって、俺はため息をついた。
だが、自然と俺の口角は上がって、笑顔を作っていた。
辛かったけど、楽しかった。
こうして、俺の初クエストは、華々しく攻略して終わ………………
「待って半分も狩ってなくない?」
その瞬間に出た冷や汗といえば、滝のようと表現するにふさわしいものであろう。
錆び付いた機械のように森の方に顔を向けると、そこにいたのは、
【フォレストボア×12】
………………まぁ、俺にとってかかれば、こんな数が少し増えたくらいでどうってことはない。
立ち上がり、銃を構えた俺は、フォレストボアに立ち向かい、
いや当然負けたんだけどね。
数多いし、リーダー格の奴がいたし、銃弾切れたし、無理っしょ。
クエスト失敗を確認した俺は、帰還を選択して、あの現代の街へとワープしたのであった。
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