同情する15話

 場所は変わり、カフェ。


 前にジカさんと一緒に来たところをドトールとするならば、ここはスタバといえばいいのか、比較的に若者が多い。


 俺は前を歩いている美少女達のせいで、物凄い視線を浴びながら、席に着く。


「ここは店員と話さなくていいから楽でいいわ」


 カナリアちゃんは、メニューを操作する。


 そしてメニューを閉じた瞬間、周りに何か違和感を感じる。


「あ、もう騒いでいいから。

 一部のお店のテーブル席はメニューで話の内容を認識しない様にすることができるの」


 つまり、話は聞こえるけど、意味を認識できない?的な?


 俺は特に科学に詳しい訳じゃないが、それだいぶ凄いことなのでは? と考えていた。


「あ、でもここに通ってスタンプカード貯めないとダメなんだけどね」


 ……結局金……。


 俺は目頭が熱くなるのを感じる。


「で、改めて話があるんだけど」


「なに?」


「あんたにゲームを教えて欲しいの」


 ……は?


 俺は意味が分からないという様子を全面に押し出す、


 カナリアちゃんはそれに気づいたのか、話を続ける。


「あ、技術的なものじゃなくて、あんたがこの世界をどう見てるのか、それを教えて欲しいの」


「え、この人に教えてもらうんですか?」


「…………」



 青髪の少女の言う通り、なんで俺? という感じだ。


 なんか教えてもらう要素……と考え、


「ジカさんに言われた?」


「……お父さんは……関係ない…………」


 悔しそうな顔をする。

 これはジカさんの考えじゃないな……。


「あ」


 そこで俺は思い出す。


「名前教えてくれない?」


「名前?」


「そうそう、二人の名前が分からないと、話しづらくて」


 いい加減白髪と青髪という呼び名を辞めたい。


「あ、そうだね、あたしはキャント!

 カナちゃんに誘われてやってみたよ!」


「…………ウルト」


 元気に返事する青髪……キャントちゃん。


 俺のことを興味なさげに見る白髪……ウルトちゃん。


 俺は二人の名前を頭に叩き込んで、カナリアちゃんの方を見る。


「それで話は戻るけど、なんでカナリアちゃ……カナリアが教えないの?」


 二人の友達なら、カナリアちゃんが教えるのが筋だと思うけど…………。


「私は……きっとこのゲームを教えることが出来ない。

 でも、あんただったら、教えれると思ったの。

 このゲームの楽しさを」


 悩む。


 別に悪い話ではない。


 俺も今回が初イベントなので、カナリアちゃんに教えて貰いながら、俺のゲームプレイを見せる。


 うん、確かにいいけど、悩む。


「ジカさんは?」


「行ってこい、って」


「パーティは?」


「今イベは見逃す、って」


「時間は?」


「みんなリアルの夕方迄だったら……」


 今昼終わりだけど、それゲーム内時間でいったら半日以上よ……。


 と、いうか。


 ビギナーなら尚更友達同士でキャッキャウフフと楽しむべきではないのか、と考える。


「……なんでみんなで遊ばないの?」


 当然の疑問。

 カナリアちゃんは、俺から顔を速攻で背け、


「…………わよ」


 何か言った。

 本当にボソリと言ったせいで、聞き取りずらかった。


「なに?」


「……私のプレイスタイルだと教えられないのよ」


 教えられない?

 俺はその意味が分からず、無言で先を促すと、カナリアちゃんはこちらを睨みつけて、


「私のプレイスタイルが特殊すぎて教えられないの」


 俺は、前に行われた試合を思い出し、納得する。


 繰り出される多様な武器。


 速さをコントロールする技術。


 そして相手に反撃を許さない連撃。


「確かに」


 キャントちゃんとウルトちゃんはよく分かっていないのが幸いだ。


 俺はカナリアちゃんのその言葉と、凡そ女子らしくない……あの戦い方を見せるのは、少々苦しいだろう。


 確かにあの気迫と連撃はそうそう教えるのは容易ではない。


「あ、うん、いいよ、教えるよ」


 その同情がなんか知らないけど、俺を頷かせるのに十分な理由になってしまった。











『教えることは、繋ぐことだ』











「このゲーム……【クエスター】は、私たちプレイヤーが、平行世界からの依頼に対してそれを遂行していく……って設定よ」


 カフェで了承してから、俺らは急ぐように【掲示板】の元へと向かう。


 別に急いでいるわけじゃないのだが、カナリアちゃんが早くやりたそうにルンルンしてるもんだから、早足になる。


「へー、なんかよくわかんないけど、いつもこんな祭りみたいな感じなの?」


 キャントちゃんが上空を浮いている飛空挺や、さっきは気づかなかった、噴水と反対側にそびえ立つ、空中投影の映像を指す。


「あぁ、あれは今週の土日にやってるイベント……【茂り満たせこの王を!!】っていうのをやってるからよ」


「……イベント?」


「イベント期間中は、特定のクエストが解禁になって、それをクリアすると色々な報酬がもらえるのよ」


「今回はどんな感じなの?」


 ウルトちゃんが質問し、キャントちゃんがウキウキしながら尋ねる。


 一方で3人の後ろを歩いている俺も、その会話に聞き耳を立てる。


「確か……今回のイベントは、10回のトライ制限で、ハイスコアボーナスと、総合ポイントボーナス、あとランキング部門でハイスコアと総合ポイントがあって…………」


 キャントちゃんは分からないであろうその次々の情報に頭を悩ませている。


「……つまり10回しかできないクエストで、いい成績を残せばいいってこと?」


 ウルトちゃんが的確な要約をしてきた。


「そう、そういうこと」


 その言葉でキャントちゃんは理解し、カナリアちゃんは肯定した。

 三人の掛け合いを見ていると、仲がいいんだろうなぁ、なんて月並みな意見が出てくる。


 俺は黒歴史のせいで、学校でぼっちまっしぐらだったからな……。


「ここよ」


「おっっっっきーー」


 ストレートな感想に、俺はなんだか面白さを感じた。


 確かに【掲示板】は、人が見上げても見収まらない位の大きさ。


 メニューでクエストを受けているからか、そんな当たり前のことをすぐに忘れてしまったな、と俺はなんとなく反省する。


「じゃあ、クエストを受けるわよ」


 カナリアちゃんは、上を見上げているキャントちゃんを他所に、サッとメニューを操作する。


【カナリアからチーム申請があります】


 俺は快諾(はいを押すだけだが)し、チームメンバーになる。


 チームとは、クエストを受ける単位のことを指す。


 パーティとは、クエスト内外関係なく、同じチームであることだ。


 俺は目の前で、これ、はいって押せばいいんだよね? とか話しているキャントちゃん達を見ながら、クエストの内容を確認する。


【茂り満たせこの王を!!

 ジャンル 採取

 クエスト内容 一定量の(3体)の野菜の採取

 難易度 1~(難易度の選択可能)

 推奨武器 無し

 推奨属性 無し

 人数 1~4人

 フィールド 草原

 備考 

 とある王は言った。

 "我を満たせ"

 そのためには、数十年に一度しか開けることの叶わない、"保存林"に入る必要がある。

 足を運べ!

 そして刈れ!

 王の眼前を茂ゆく大地で満たすのだ!


 ※イベント専用クエストです。

 一人10回までしか受けることができません。

 クエスト開始前に難易度を選択できます。

 初級(難易度1~4)

 中級(難易度5~10)

 上級(9~)


 なお、今回のクエストは特殊採取です。

 クエスト前のチュートリアルは1回は聞いておきましょう】

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