大破した16話

 いつもより多い情報量のクエスト内容に、親切さをなんだか感じる。


「じゃ、今回は初級受けるけど、いいわよね?」


 カナリアちゃんの言葉は俺に向かって言っているようだった。

 まぁ、拒否するかもしれないって意味では俺しかいないが、


「もちろん初級だ」


 キリッとした表情で答える。


「清々しいほどに正直ね……」


「いや、死んだら嫌だし」


 俺は当然の事のように言うと、キャントちゃんとウルトちゃんがこちらを見る。


「あ、クエスト失敗の時のペナルティは大丈夫だよね?」


「あ、はい。

 確か現実時間で8時間プレイできなくなるんですよね?」


 俺はキャントちゃんからの丁寧な言葉遣いに、距離感を感じる。


 しかし、彼女らがこちらを見ているのは別の理由なようで、


「……死ぬ、って?」


 ……俺は少し考えて、ハッとする。


「あ、それは比喩だよ?

 別に本当に死ぬほど痛いわけじゃないし、死ぬわけじゃないけど、やられるのは嫌だからね」


「……あのさ、あんたなんか現実でやばい仕事とかしてない?」


 俺は死ぬ、みたいな表現をしたのが不味かったかと思いフォローするが、カナリアちゃんの言葉で、意味がわからなくなる。


「いやさ、あんたの死ぬ、って言った時の顔、すっごい真剣だったから……」


 あら?


 俺はそう言われて自分の顔をさするが、特になにか着いているわけじゃないので、手を離す。


「別にそんなことないけど……。

 あんまりリアルのことは詮索しない方がいいよ」


 ゲームをプレイする前に、"ネチケット"なるものは十分に学んできた。


 俺はまだ子供だし気をつけるように、という意味で言ったのだが、なんだか彼女らは真面目に受け取ったらしく、


「わかった……」


「わかったよー……」


「…………」


 3人は頷きながらこちらを見る。


 俺はそんな真面目くさった様子を晴らそうと、笑顔で、


「さ、俺もイベント初めてだから、一緒に頑張ろー」


 そうして、俺らはイベントクエスト、【茂り満たせこの王を!!】に向かった。











『立ち居振る舞いは物語より、物語る』











 着いたのは、見晴らしのいい草原。


 不慣れな地面の感触に、少したじろぐと、前に出現したウルトちゃんにぶつかりそうになった。


「あ、ごめんよ」


「……気にしないで」


 眠そうな目をこちらに向けながら答えられる。

 一人だけ、見た目年齢じゃないんじゃないかと思うくらいに、感情が分からない子。


 たまにカナリアちゃんの恋バナっぽい話になると目を開けたりして、話に入るが、それ以外はほんとに分からない。


「なにあんたウルトのことジロジロ見てるのよ」


「ウルトちゃんはかわいーからねー」


 すると、残る二人も出現したのか、俺がウルトちゃんを見ているのを弄ってきた。


「ぶつかりそうになったんだよ」


「こんな石ひとつない所で転けそうになったの?」


 カナリアちゃんから正論を浴び、俺は反論しようとしたが、


【チュートリアルを開始します】


 天から聞こえる声に遮られた。


 俺含め、キャントちゃん、ウルトちゃんは天を見上げる。


 一方でカナリアちゃんは、メニューを開き、なにやら操作を始めた。


 ちなみに、女の子三人衆は、今や装備を変更して、


 カナリアちゃんは関節と胸当てを守るだけのソフトアーマー。


 キャントちゃんは、カナリアちゃん同様に、ソフトアーマーだが、動きを阻害しない程度で、足と腕がしっかりとした防具がついている。


 ウルトちゃんも同様だ。


 初期装備にそんなものはなかったので、きっとカナリアちゃんが上げたのだろう。


 ジカさんの娘なだけあって、ちょいとポンポンとものを上げるだろうか。


 いや、リア友っぽいから、普通にそこまでするだろ、なんてリアルの友達がいない人間が考えるのだが、無意味なことだ。


【今回のクエストは、野菜採取です。

 矢印の先を見てください】


 俺らは視界に現れた矢印アイコンの先を見る。

 そこにあったのは、草。


 しかも俺より一周り大きい草だ。


【今回のクエストは、あの野菜型モンスター……キラーベジタブル達を採取して頂きます】


 天の声が終わった瞬間に、その俺より人周り大きい草が揺れだし、地面からなにかが出てくる。


 その色はオレンジ。


 細長く、先端になるほど細い。


 デフォルメされたいかにも悪そうな目と、適当な手足が着いたそいつは、


 ぎゃゃゃゃゃ!


 舞台のヒーロー物の適役みたいな声を出した。


 人参星人。


 なんか唐突に出てきたけど、ちょっと面白かった。

 うん、当然ながら全然怖くない。


【キラーベジタブル達には、HPが存在し、それを削り切り】


 俺らの目の前が光り、その光の中からとあるものが出てくる。


【その草刈り鎌で刈り取ると採取できます】


 よく家の前の草を刈るための鎌が出てきた。


【HPがない状態で、鎌の攻撃範囲部分が相手にヒットすると採取されます】


 俺らの目の前に、さっきのと違う小さいサイズの人参星人が現れる。


 視界内には、鎌で攻撃しろ、と出ている。


 俺はとりあえず、草刈りをするみたいにさっと刃を当てると、ボンっと少量の煙を上げて消える。


 手元に残ったのは、小さい人参。


【ベビーキラー人参の人参】


 なんかよくわからん説明になっているが、実際の大きさで取れる訳じゃなく、小さくなる、みたいなことを言いたいのか。


 俺は小さい人参をストレージにしまう。


【キラーベジタブル達はそれぞれ個々で強さが違いますが基本的には草原の色で変わってきます】


 またもや視界には4色の色が出る。


【緑の色合いが強くなればなるほど、敵は強くなります。

 さらに、各エリア毎に、質が高い強めのキラーベジタブルが出てきます。

 遭遇した場合は、無理なく頑張ってください】


 最後丸投げ過ぎないか?


 俺はちょいと溜息をつき、草刈り鎌を腰にかける。


【目の前に出現しているキラー人参は、チュートリアル用なのでドロップはしませんが、倒すとチュートリアル終了で、クエストが始まります】


 俺は目の前のそこそこ大きめの人参星人を見上げる。


 大きいけど、怖くないから簡単だな。


 俺はストレージから自前の銃を出そうとする。


「なぁみんなはどんな武器使…………」


 俺はショットガンを取り出し、片手に持とうとして、


 ドサッ


 俺は草の上になにか落ちる音に対して、その方を見た。


 その音は俺の足元からなっていた。




 これは俺のせいだ。



 確かに昨日は直ぐにログアウトして、今日は直ぐにカナリアちゃん達に捕まって、


 直すのを忘れていた。


「oh…………」


 そこには、大破したショットガンが落ちていた。

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