前世の記憶だけで最強になれるのでしょうか?

ぬー(旧名:菊の花の様に)

さらっとした第1話

 突然だが、俺には前世の記憶がある。


 当然だが、こんなことを言われたら、やばいやつだと思われるだろう。


 当然のことだが、俺は嘘偽りなく前世の記憶を持っている。


 偶然なのか何なのか、俺の中にスルッと入った記憶は、妙に現実感があり、その中で俺は俺ではない誰かを、自分だと思っていた……。


 そうして俺は、前世の記憶を得た。


「っと、これでいいのか?」


 今、俺は少し小さめのヘルメットを持っている。


 これはダイブギアというものである。

 ゲームをするための機械だ。

 数年前に発売されていたのだが、その時俺は絶賛黒歴史フィーバーをしていたので、そんなもの知らなかった。


 それにこれは、ゲームをするといっても、従来のものとは革命的に違う。

 そう、これは現実と変わりない感覚でゲームをできるもの、であるらしい。


 らしい、というのは、俺はまだこのゲームをプレイしたことがないためである。


 細かいことは一介の高校二年生の俺には分からないので、とりあえず説明書を読みながら起動してみる。


 起動してからは簡単だった。

 指示に従うだけ。

 諸々の細かい設定を自動でやってもらい、後はゲームをするのみ、という所まできた。


 ここまで簡単なのは助かるのだが、このゲーム機、入手するまでが難しすぎる。

 本人の証明やら、病院の診察結果やら、事前に必要な書類を手に入れるのがすごく面倒だった……。


「簡単だけど本当にこれでいいんか?」


 それだけに、こんなに簡単に設定が決まるのが不安になる。

 ちなみに、前世の記憶があるといっても、それはこの世界のものではない。

 よって、こんな不可思議な最新機器に俺の前世の記憶が役に立たない。


 しかし、悩んでいても仕方ないということは、この総計100年を迎える俺の人生経験(仮)が役に立つため、ヘルメットを装着した。

 起動する。


 ゲームを始める前の諸注意が表示される。


 俺はその全てを確認し、ゆっくりと目を瞑る。


 前世の記憶を持ち、散々な黒歴史を生み出した俺。

 そんな俺がプレイするゲームは、今話題の【クエスター】というもの。












『謝ることで誤ることは、たくさんある』











「っと」


 本体とゲームのチュートリアルを受けたせいで、少し時間がかかってしまった。

 ふわりと重力が緩和されたような感覚とともに、俺は地面に降り立つ。

 しかし、最初だからか妙にバランスを崩しそうになる。


 だけど、自分の体は未だにベットの上に寝転がっているんだよなぁ……。

 そんなナンセンスなことを考えてしまう。


 周りを見渡すと、自分がよく知っている、”現代の”風景が広がっていた。



 中世!って感じじゃないの?!



 初めてプレイしたゲームだし、説明も禄に読んでいなかったのでよく分からなったため、いきなりの裏切りにツッコミをしてしまう。



【クエスター】



 シンプルな名前だが、今最高峰の人気を誇るダイブギアゲーム。


 内容は至ってシンプル。


 クエストをこなす、それだけ。


 単純なものから複雑なものまであるクエストは全てを網羅した人物はいないと言われるほどに膨大な量らしい。


 ここまで聞くと、ライトなノベルを読んだことのある人間なら、木造、レンガ積み、皮の服といった中世の世界観を思い浮かべるが、ここは違う。


 只の都会のビル街だ。


 歩道と車道があり、街路樹が一定間隔で並び、太陽を隠さんとばかりに高いビルが乱立している、都会だ。


 そんな様子を改めて確認した俺は、どうしようかと思っていると、


「あ、初心者さんですか?」

「あ、えぇ、そうですけど……」

「なら!是非うちのギルド【アウル】に入ってみませんか?!」


 もしかして現代が舞台なのか? とここまでの様子を見れば、疑問に思うだろう。


 だが、それは今話しかけてきた人の服装を見ると、さらに分からなくなってくる。


 顔まで覆うフルフェイスメイル。


 背負っているのは、その人の身長を超えるであろう大剣。



 その姿は、まるでライトノベルやアニメに出てくる騎士さながらの様相だ。


「あ、自分ギルドに入る気はないんですよ……」


 そうですか……、と露骨に落ち込む彼に少しだけの罪悪感が湧く。

 だが今はこんな人にかまっている余裕はない。

 俺はゲームの醍醐味である、クエストを受けるための場所を目指す。







 チュートリアルを基にマップを見ながら、俺は目的の場所にたどり着く。

 そこはビルだった。

 まぁ、ここら辺ビルしかないけど……。

 本当は頭の中では中世の世界観を想像していたため、肩透かしを食らった気分だ。


 それでも、下手に見慣れない景色よりかは、余計に見なれているせいで、気負うことなく中に入ることができる。


 そこで見えるのは、人が豆粒に感じるほどの"板"。


 そしてその板にベタベタと貼ってある”紙”。


 見上げても全容が分からないそれに、俺は唖然とする。


 しばらく呆けていると、"板"の前には色々な服装をした沢山のプレイヤーが手元に半透明の板……ウィンドウを出していることに気づく。


 そしてそれを見ていたその瞬間、プレイヤーの姿が消えた。

 チュートリアルで聞いていたからいいけど、何も聞いていなかったら怖かっただろうなぁ。

 俺は巨大な板に近づいていく。


「これが【クエストボード】……」


 板……【クエストボード】の目の前にたどり着くと、俺の手元にウィンドウが現れる。


 そこには、新着のクエスト、人気のクエスト、検索、といった欄があり、ここからクエストを選択することが分かった。


「ビギナー用……と」


 さっそくクエストをしてみたい、と俺は条件検索を指定すると、ずらりとクエストが並んだ。

 俺はしばらくは真剣に見た。

 だが少しすると、ページ数の多さで、


「これでいいや」


 【害獣駆除】の依頼を選んだ。


 依頼受注を選択すると、


 【準備が終わったらこの場所ではい、を選択してください】


 という表示が出る。


 俺はチュートリアルの時に渡された武器と防具……チノパンにTシャツ、さらに【初心者用の拳銃】のままで大丈夫だろうと、そのまま【はい】を押した。

 そうして俺の姿は、その場から消えた。



 ……いやまぁ、正直この後にがっつり後悔することになるから、ここで反省のために、クエストの詳細を掲載しておく。




【クエスト名 猪突進祭り!

 ジャンル 駆除

 クエスト内容 対象モンスター……フォレストボアの一定数討伐(20匹)

 難易度 二

 推奨武器 斬撃系武器

 推奨属性 風

 人数 最大四人

 フィールド サンキ村

 備考 

 サンキ村の近くに、フォレストボアが大量発生した!

 村の住人が出稼ぎで出払ってしまったため、残りの住人では対処できない……】


 人数が最大四人だったら四人で行くのが普通だ。


 難易度は初心者だったら一が普通だ。


 しかも、銃でやる気満々だった。


 それに、属性を持った武器も持ってない。


 波乱で始まる俺のこの【クエスター】


 ここでは一人の前世持ち……全部説明すると長くなるから、簡単に説明すると、




 戦争で【人外】と呼ばれ、


 その力は一騎当千、


 その名声は人々を恐れ戦かせ、


 その一挙手一投足が勝利をもたらし、


 敗北と対極に位置する男。


 これはそんな異世界の人間の記憶を持つ、とある男の【クエスター】での、プレイ日記だ。

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