第19話理由

お久しぶりです。アン・ユウリィです。

あの悪夢の3年戦争もやっと終わり。

待ち望んだ故郷へ帰ってから1年が過ぎようとしてます。

初めは農家のお手伝いから始めて、村にミシン工場が出来たので。

昔の経験を活かして今は役職をいただいています。

家もローンで建てて。みすぼらしい小屋みたいですが・・・


な、なんと皆さん。私の初恋の人。

アニィ・ベーカリーが帰って来て。今、同棲しています私の家で。

戦争に出兵して重傷を負い、両足がないけれど。

私が彼の足になってます。ちっとも辛くなんかありません。

だって今私達は、生きているんですよ?奇跡だとは思いませんか?



そんなある日のことです。


カチャ・カチャン・キィ・・・


アン「はー疲れたあ・・・」

 「新人の女の子がなかなか仕事覚えてくれないから大変!」

 「・・・アニィ?もう夕ご飯は食べたの?」

 「おーい、アニィ!聞いてるかーっ?」

 「!」


ゲっ!アニィが居ません。お風呂かしら。トイレ?


アン「!」

  「アニィッ!何してるのっ!」


アニィが裸でお風呂場で寝ている。

手首から真っ赤な血を流しながら。タイルの床に私の果物ナイフが落ちている。


アン「アニィ!アニィ!何て事してんのようっ!」


アニィの顔を両手で掴んでブンブン左右に振る私。


パチンパチンッ


平手でアニィのほっぺたを叩く。良かった、大した事なさそう。

アニイがゆっくりと目を開いた。


アニィ「・・・・・」


アン「アニィ!あなたが元気を取り戻すまで」

  「私はどんな事だってするわ」

  「私だってあの戦争で武器を持って人を殺したのよ?」

  「でも私は、かすり傷ひとつ負わずに生還した」

  「それが私の武運なら」「

  「両足を無くして生還したアニィの武運も私の武運!」

  「夫婦は支え合って家庭を築きあげるものよ」

  「あなたがハンデを背負うなら」

  「私があなたのハンデをカバーするわ!」

  「どんな苦労も喜びも、二人で共にあるのよ」

  「だから人生をあきらめないでアニィ」

  「あなたは独りじゃないのよ。アンが居るのっ!」


私は全裸のアニィを抱きしめる。洋服にアニィの血液が染まる。


アニィ「・・・あ、あ、あ」


アン「アニィ」


アニィ「アン」

   「ごめんなさい・・・ごめんなさい。ごめんなさい」


アニィと再開してから初めてアニィの声を聞いた。

4年ぶりのアニィの声は。野太く、男らしい声になっていた。


アニィはハンデを背負っても生きる覚悟を決めてくれたみたい。

私は職場でアニィの自慢やノロケ話をするようになった。

部下の女の子がうらやましがってる。

おしゃべりばかりしてるから生産が遅れていると、専務から注意されちゃった。てへへ・・・


今日も朝の出勤のための身支度。

机の上の大きめの置き鏡を見ながらお化粧をする。

ダブルベッドで寝そべりながらアニィが黙ってそれを見つめている。これがいつもの朝の光景になったの。


アニィが何か言いたそう。


アン「何?アニィ私に見とれて。いい女だなって言いたいの?」


アニィ「なあアン、アンは俺のどこが好きなんだ?」


アン「・・・・・」


アニィ「?」


アン「べーえだっ!知りませんっ!」


舌を出して可愛くスネた振りをする私。

心の中では嬉しくて泣いている私。


幸せなの、私アン・ユウリィは・・・

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