第27話暗闇の回廊

第8章




「ギャーーッ!!!」



真夜中の入院病棟。


アンが入院してから2週間が経ちました。


当直の看護婦さんが薬を持ってきました。


個室に入ってきて、飲ませようとしますが。


アンは正気でないようです。


自分の身体を傷つけないようにベッドに縛り付けられています。


アニィはアンの家で眠っています。


アニィもアンが心配で毎日眠れません。


後悔しています。


アンの心が傷だらけで張り裂けていることに、


気づいてやれなかったことに。


アンはいつも明るく気丈に振る舞います。


でもそれは自分に厳しく他人に優しい彼女の思いやりであり。


自分を犠牲にする生き方は。


生まれ育った環境、不遇な人生を受け入れ続けた故に。


だから彼女は愛の人を演じ続けたのですが。


それは仮面ではなく、悲しみを強さに変えるための。


彼女の愛の強さです。


もしも何不自由なく生きたならば、


きっと彼女は何も苦しまなかったでしょう。


愛を知らずに生きたでしょう。



今アンは、自分と戦っています。


意識は過去へと旅を重ねます。


錯乱状態になりながら、アンは生きたいと願います。


アンは知りません。自分が愛の為に戦っていることを。





南部歴0086年。


リィズ・ワズマン少尉と出会う前。


キム・ベクトル軍曹からもらった、アサルトライフルを。


右肩に下げたアンは、まだ18歳です。


どこかの店で買った深緑色の野球帽と。


派手な赤色のリュックは。


アンが、自分は女の子だと想いたい。その無意識の現れでした。



ある日ぶらりと立ち寄った、


トンナム国のどこかの村落で。


アンは変な光景を目撃します。


離れた茂みにに隠れます。


「何あの人たち?」


「ペパーミント軍だわ、子どもたちを並ばせて・・・何?」


現地民の、


ボロ布を着ている小さな子供ら数十人を横一列に並ばせて。


頭の上に両手を乗せている子供らを、ライフルで脅している。


一人の兵がホルスターからオート拳銃を取り出す。


「!」


白い民家の壁に、子供らの顔をくっつけさせて。


後ろから頭を・・・拳銃で撃ちぬいた。


パーン!


「な、な、な、な・・・」


信じられなかった。


アンは戦争の実態を知りませんでした。


一人づつ順番に殺されていきます。


「・・・・・」


アンは自分の心が信じられない怒りに駆り立てられます。


聡明な心のアンには耐えられない光景です。


「!」


ライフルの初弾をチャンバーへ入れ。


その場で構えます。


この場にいる敵兵は、数えただけで5人は居ます。


増援を呼ばれる前に全員殺さねば自分が死にます。


パラッパパパパッ!!


3人瞬殺できた。


「あんた達!早く逃げなさい!!」


「!」


意図を察した子供らは、一目散にどっかへ逃げました。


「!」


パララララララッ!


残った2名の敵が撃ってきます。


でももうそこにはアンは居ません。


敵兵の左側面に隠れてます。


ガラクタの物体越しに乗り出してアンが射殺しました。


2人の兵が首と胸から血を吹き出して倒れます。


・・・・・・


「・・・・・・・」


もう生き残っている子らは消えてしまい居ません。


白い壁の前で、子供の死体が十人くらい横たわっています。


皆、後頭部を撃ちぬかれています。


壁も鮮血で赤く染まっています。


「・・・・・・・・」


涙が止まりません。


家の中には住民の成人男性の死体が数体転がっています。



「私が敵兵を殺さなかったら、子供が皆死んだ」


でも・・・私が敵の兵士を殺したわ。


異常なのは自分も同じじゃないの?


私も怒りの憎しみに負けたんじゃない。


では、あの黒い肌の戦死した中尉殿にこの子を貰わなかったら。


ど~なっていただろう?


売春婦仲間の、あのおねーさん達も。


私も一緒にレイプされて殺されていたわ。


どっちが先?どっちが正しい?




あれ、私は今何処にいるの?


砂が舞う堅い人工の赤い地面に座る。


赤い地面の色が、砂の粒で黄色く隠れている。


ライフルを抱えてるけど、これはこの子じゃないわ。


知らない武器を何で持ってるの?


右手に持って銃床を地面に立てる。


あぐらをかく私の薄い青色のジーパンはひどく擦り切れた。


スリムタイプジーンズじゃないと、裾が雑草に引っかかるの。


目の前は何も見えない。黄色い砂嵐が全部を隠している。


私を中心に砂塵は円を描いている。


風の雑音が耳障りだ。


「誰?」


「そこに居るのは誰なのっ?」


「返事をしなさい!」


「答えないと撃つわよっ!!」


銃を構える。


気配がするのよ、何も見えない目の前に悪意がある。


引き金にかけた指が、ケイレンを始めた。


「!?」


オカシイ・・・・悪意?


自分も悪意を向けている。


悪意に悪意を向ける私も、悪人だわ。


ならどうすればいいの?


判らない!判らない!判んないのよお~!!


「うわあああああ!!」


私の絶叫がこの世界から私を連れ去る。



・・・・・・・・・・・



「うぎゃああああ!!!」


「はっ?」


私なんでこんなとこに居るの?


私の家じゃないわ。


「ユウリィさん、良かった」


「意識が戻ったわね」


「あ」


看護婦さんだ、じゃ、ここ病院か。


ああ、そっか。私、気が狂っちゃったんだ。


時計が一時?夜中の一時か。


「アニィは・・・」


「旦那さんは自宅にいますよ?」


「毎日お見舞いに来ています」


「黙ってあなたの手を握ってるんですよ?」



「!」


私の眼から涙か出てきた。


「ユウリィさん、まだ夜中です」


「寝ていて下さい」


「はい」



精神安定剤を水で飲んでから。


布団をかぶって目を閉じる。


・・・・・・・・


あんな夢を見るなんて。



アンは、自分の過去と戦う決意を持ち始めました。


彼女が人よりも敏感なのは、適応能力、順応能力。


つまり、助かる確率を高める自分だということです。

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