第28話武器とこころ
「う、ん・・・」
「うひゃ・・・ひぃ・・・あへ・・・」
「うふ・・・ひぃぃ!・・・うん・・」
アンが精神病院の個室部屋のベッドでうなされています。
身体から大量の汗が流れて。手足を動かしていますが。
力が抜けてゆくようです。
今は午前中。午後にアニィが来ることに成ってますが。
今アンの面会者が来ました。
「こちらですよ」
ガチャ
成人女性がお見舞いに来ました。
大きな荷物と花束を持ったこの女性は。
地面に全部落としました。
「あ、アン・・・あんたって人は・・・」
ケイト・ケチャップマンがお見舞いに来てくれました。
アニィがケイトに手紙を書きました。
アンの手帳にすべての知人情報が書いてあります。
チョンゴンシティからここまでかなりの距離です。
長旅で疲れているのにケイトは。
アンの右手を握ります。
窓の外から初夏の日差しが差し込んでいます。
アンは今もうなされています。
「うひゃ・・・ひぃぃ・・ぎゃ・・・」
涙目でアンの顔を覗き込むケイトは、昔の事を思い出しました。
「あ、あの時。この子が言ったこと・・・」
南部歴0087年。
広大な平原に、血と火薬が大量消費されます。
キャタピラ音とディーゼルエンジン排気音。
大機甲師団と歩兵師団が進軍している。
敵軍の航空攻撃が来ました。
制空権はこちらにはないようです。
金属音と爆発音、光の炸裂で。
一瞬、進軍が止まりますが。また始まります。
最前列の味方が居なくなっただけです。
「あ、あれ?」
「何で私はこんなとこに居るの?」
「私はこんなの知らないよ」
「何で?」
「なんでこんな景色を見てるの?」「見てる?」
「違うわ、私の魂がここに居るんだ」
「でも、幽体離脱はしていない」
「死んだんだ」
「現実世界の私は生きているけど」
「ここにいることは、今私は死んでるんだ」
「大気や重力、空気の振動、匂い。全てリアルだもの」
この人達はカンガルー軍じゃない。
ペパーミント軍だ。
機甲師団と歩兵師団が、大量に進軍している。
「・・・・・・・」
私の眼の前に居るこの歩兵の少年兵・・・て言うか。
この子はまだ子供じゃないか!中学生なの?
非正規兵が正規軍と作戦を共同するの?
こんな貧弱な装備で戦うのか。
「・・・・・・・」
この子の足の指が何本か千切れてて無いわね。
ブーツ履いてても判る。
完全な栄養失調なのに何で・・・そこまで。
坊主頭に巻かれた包帯の傷は。
キズを受けた前回の戦闘ではこの坊やには何もなかった。
何も見返りがないのに・・・・
意志だわ。鉄の意志。敵を殺したい憎しみ。
自ら進んで殺しに行く意欲。怒りの憎悪。炎が燃える。
なぜ?
何でそこまで?
あ、カンガルー軍の航空支援が殺しに来る。
「うひゃ・・・」
光の閃光と爆音、炸裂波動。
目がくらむ光。耳の鼓膜が敗れる音。破壊する暴力。
前に居た歩兵と戦車がみんな居なくなった。死んだんだ。
この少年と右にいる戦車は無事だわ。
左右に展開してる味方は皆無事だった。
進軍は再開した。
知ってる。
これは、ゴンゴン大戦車戦だ。
歴史上の大作戦だ。
捨てられてる新聞で読んだことある。
テレビでリアルタイムに観たんだった。
確か、ペパーミントは負けたんだわ。
カンガルーの最新兵器に。
数では完全に勝っているけど、それだけでは勝てない。
さっきから気になってるんだけど。
空の色が変わってゆく。
最初は青空だった。
でも黄色になったり、ピンク色やオレンジ色に変わるのは何で?
人の思念だわきっと。
私はお金がないから。学校や村の図書館で文献を読みまくった。
軍事の勉強もできたわ。自分に必要な事だったのだ。
その時は知らないわ。今は不思議でたまらいけど。
純粋に興味を惹かれるものは、多分何かがある。
何も魂胆は必要がないのね。
バッカーーン!!
爆風がすごいな。
あっちの左に居た戦車が破壊された。
そばの歩兵も居ないわね。死んだんだな。
さっきからこの右に居る戦車も何回も徹甲弾を弾いてる。
「・・・・・・・」
ヒューーン!!ヒュンヒュン!
キーーン!
すごい数の徹甲弾と弾丸が飛んでくる。
誰もひるまない、無言だ。
戦車内では無線と罵声でやかましい・・・
殺すという意欲。
死ぬことが怖くはないの?
「・・・・・・・・」
この坊やの瞳には何が映っているの?
目の前一点しか見ていないわ。
深く傷ついた心が見える、瞳のずっと奥の向こう側に。
人は人を傷つける。
殺されてしまえば済むのに、残された人は何をすれば良いの?
憎しみを果たせばいいの?
ズドンッ!!
ペパーミント機甲師団が主砲の砲撃を開始した。
大戦車戦が始まったわ。
無数の砲弾が飛び交う。
もうムチャクチャになってきたな。
あ、カンガルー戦車が見えてきた。
あれが噂に聞く最新電子制御の新兵器か。
強さがもの凄いな。
ダメだ、勝てないこれでは。
ペパーミント軍の装備では無理だ。
幾ら死んでも。勝つこととは違う。
人類が大量に産まれて来て大量に死んでゆくことは。
殺し合いを繰り返すことなの?
人間はただの消耗品?・・・命は死ぬ為に?
なら、心なんて要らないじゃん。魂だって。
傷つく心は、いちいちこんなバカみたいな繰り返しのために?
どんな心だって傷つくわ。
例外はないのよ。
志は団結するため。そうかしら?
一人の孤独は、団結とは言わない。
たった一人でも戦うことも志。私だって・・・
「あ、この坊や弾を肩に受けたのに・・・」
「まだ戦うの?」
「いやよ・・・こんなもの見たくなんかないよ!」
「うひゃああ・・・・・」
私が飛ばされる、どっかへ逝く・・・
あれ?
ここは・・・覚えてるぞ。
赤い人工床だ・・・黄色い砂塵の砂嵐。
黄色い砂で何も見えない。
私を起点に砂嵐の渦が発生している。
恐怖が私の心を喰っている。
恐いわ、死にそうだ。
あぐらをかいて座り、右手にライフルを持っている。
でもまた違うライフルだ。違うわこれは。
こんなライフルは無い。未来兵器と言うなら、それが嘘だ。
ダマされないわよ。
履いてるジーパンは、ブラックジーンズ新品。スリムタイプ。
これは私が昔買ったものだ。買った店も値段も憶えてる。
でも、これも違うんだ。
すべてが罠だ。
私を試している。
「!」
また現れた。
何も見えない砂塵の中に悪意がある。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
今度は3人?・・・いや3体だ。人間とは限らない。
怖くてたまんない。耐えられないよ。
「誰だ!」
「姿を見せなさい!」
「撃ちます!」
ライフルを構える。
「!」
何だこりゃ?
スコープには体温センサーで見えてるわ。
赤と黄色のサーモグラフィで人体が3体見えるが。
肉眼では見えていない。
砂嵐の雑音がやかましくて、気が散る。
砂粒が目に入るし。
確かに狙って撃てば当たるし殺せる。
「・・・・・・」
そうよね。おもてなしされているんだわ私、アンは。
バンッ
私は赤い地面にありえないライフルを捨てた。
「はら・・・」
「いいよ?」
「殺していいよ、アンを」
「私だって沢山殺してきたんだから」
「生きてるほうがオカシイのよ」
「・・・・・・」
「早く撃ちなさい」
「持ってるんでしょ?」
「早く殺して」
「好きなように殺して」
「!」
「え?何だって!?」
悪意が一瞬で一斉に消えた。
「あれええ・・・?」
うわっ
意識が飛ばされるわ、この世界から弾かれる!
「う、んん」
「あへ?」
「あ、起きたかアン」
「アニィ・・・」
アニィに手を握られてる。
向こうのソファーで誰か寝てるわね。
「あの人は?」
「アンの親友だよ」
「はへ?」
「うーん・・・」
「もう朝?」
「ケイト!」
「あんたなんでここに居んのよ?」
「アホかあんたは」
「アンが病気で死にそうだから来たのに」
「あ、失礼ねえっ?」
「私は死なないわよお!!」
「アン!!」
「あ、ごめんなさい・・・」
私、アンはど~やら新しい運命が始まったみたいだ。
この不幸も私は、乗り越えちゃうもんね?
「てへへへ・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます