第29話擦り切れたブルージーンズ
今日は、あんまり苦しくなかったな。
まだ個室だけど、もう少し落ち着いたら。
2人部屋に移るんだって。
大部屋はまだ先みたいね。
主治医の先生は、あたしが過去へ旅してることを知らない。
そりゃそうだわ。
チョンゴンシティからはるばる見舞いに来たケイトは。
近くの宿に泊まってるの。
アンの家に泊まりなよって言うと。
「それは出来ない」
って怒られちゃったわ。
もうじき晩御飯だな。
あーん、お腹すいたなー。
ガチャ
「ユウリィさん、晩御飯来たよ」
「起きなさい」
ガバッ
「はいここに置くよ」
「?」
「ねえ、ヘルパーさん。この御飯は・・」
「あんたオワンカレスープも知らないの?」
「外国人なの?」
「わ、やっぱそうか」
「オワンカレとコタツいもだ!」
「美味しいからあったかい内に早く食べなよ」
「あんた乳がでかいから、牛乳も飲むんだよ?」
「え、そうなの?」
「赤ん坊にお乳をあげるんだから、男にあげるのかい?」
「いや~ん!おばちゃんいやらしいなあ!」
「はは、ガキからかってもお金にはならんか」
ガチャ
「・・・・・・うーん」
「いただくわ」
「ぱくぱく、ごくごくごく、んぐんぐ」
「うん、うまいわこれ」
「お母さんに作り方教えてもらえばよかったな」
「お母さん、生きてるのかな?」
「まだ、終戦してから間もないからなあ」
「あ、いけないわね。生命線の食い物が冷めちゃう」
「じゅるじゅじゅ・・・・?」
「フォークでぶっ刺すこのニンジンて・・・」
「ばくっ」
「あるわ・・・刺したことがある」
「・・・」
「あ、あれ?」
頭がふらふらする、気が遠くなる。
「あ」
ばたん
ありゃ
今度はどこなの?
「パアッ!」
照明弾の音だわ。
あ、視界が開いた。
土の道路は土煙がスゴイな。
夜のトンナムの町だ。
貧民街だ。
向こうにビジネス街が見える。雑居ビルは明かりがついてる。
金儲けは人殺しとは関係ないもんね。
照明弾の明かりが下を明るく照らしてる。落ちてくけど。
「始まるわね」
ひゅーーん
ひゅひゅひゅーーーん!!
ひゅひゅひゅひゅん!
何千発ものロケット弾攻撃だ。
通りの後ろから向こうの前方へ向けてすっ飛んでく。
上空の夜空が白い煙で真っ白状態だわ。
「アンちゃん」
「はっ!」
「誰だ!」
「ここだよアンちゃん」
「あなたは誰なの?」
「私だよ」
「隠れてないで出てきなさい!卑怯者!」
「隠れてないよ最初から・・・」
闇の中から、実体化してくるわ、人体が。
でも真っ黒で何がなんだか・・・・
「あなたフード取っても誰か判んないわよ?」
「いいんだよアンちゃん」
「私は、私なんだから」
「うまい屁理屈だわ」
「私はね、闇の番人なの」
「はへ?」
「この世の看守、時の管理官なのよ」
「なんか訳がわかりません」
「いいのよ、アンちゃんは解ってるくせにそう言うのも」
「あんたが産まれる前からずっと知ってるよ」
「なんか、頭がおかしくなりそう」
「あ、もう病気だから別にいいじゃん」
「うん、私の名はDにしとくよ」
「とりあえず、Dと呼んで頂戴」
「ふ~ん、アンの相手してくれるんだ」
「あなたオバサンだよね?」
「いやいや、声としゃべり方だけで判断しちゃうのかい?」
「え、ちがうの?」
ガチャ
「ユウリィさん、食器下げるよ」
「あ」
「・・・・・・」
「食べてる最中に寝るなんて、器用な子だねえ」
「看護婦さん、ユウリィさんがまたやったよ」
「ユウリィさん、牛乳だけ置いてくよ」
「アンちゃん、あれを見なよ」
「うん・・・・」
「もう見たくないんだろ?」
「・・・・・・」
「でもあんたは、まだほんのガキなんだよ?」
「解ってるわよ!」
「あなたね?今までアンにこんなもの見せてきたのは」
「それはカン違いだぞ、アンちゃん」
「私じゃないよ」
「私はあんたを助けたいんだよ、アンちゃん」
あ、ありゃ?
ここは・・・・
またここか、赤い人工床と黄色い砂嵐の世界だ。
またアンを起点に砂嵐が渦を作る。
砂塵で何も見えない。
強風の雑音が耳障りだな。砂粒も眼に入って痛い。
ジーパンも、あれ?
これは昔はいてた擦り切れたブルージーンズ、スリムタイプ。
だけど・・・
右手に持ったライフルは、この子だ。本物だわ。
「・・・・・・」
怖くて死にそう。
「ここまでしてアンを試して、何がしたいわけ?」
「ねえ?答えなさいよ!」
びゅううう!!
「うひゃあ!」
砂嵐が襲ってきた。
あ、私はまた憎悪を抱いてる。
「ねえ、Dのおばさん」
「アンはいつになったら普通の暮らしができるの?」
「答えてよ・・・・」
「!」
来たわ。
悪意だ。
気配は・・・アンの前後ろ左右。4体。
囲まれている。
何でこんなに怖いのかしら。
うん、この子にはスコープがついてないわね。
がばっ!
ライフル、この子を構える。
「誰だ!」
「出てきなさいよ!」
「撃ちます!」
「・・・・・・」
トリガにかける指がヒキツル。
ピクピクけいれんする。
ひたいから汗が出てきた。
アンの髪は長いこと洗ってないから、ハリガネみたいだわ。
「本当に撃つわよ!」
「・・・・・・」
バン!
また赤い地面にライフルを捨てる。
「いいわよ」
「さあ、好きなように殺してよ」
「いいですよ、撃って下さい」
「どうぞ」
「・・・・・・・」
こ、恐い・・・・
パーン!
「ぐは!」
あ、アホな・・・
血が吹き出した、私の胸から。
「い、いや・・・」
本当に撃ったわ。
痛いなんてもんじゃない、立っていられない。
こんな激痛が存在するの?
パーン、パーン!!
「!」
順番に撃ってる・・・コイツラ。
悪意達が喜んで楽しんで撃ってる、遊んでるの?
アンの身体から血が大量に吹き出す、血に染まって。
もう助からないわ。
ばたん。
「死ねる・・・」
「ひっひっひっひっ!」
「ひゃあーーっはっはっはっはっ!!」
悪意達が笑ってる。いやらしく、勝ち誇ったように。
意識はなくなる・・・・
アンはまだ若いけど、これで良いのよね。
「う、うん・・・」
「ユウリィさん、朝ごはん来たよ」
「ここに置いとくよ」
ガタン
がバッ!
「あ、あれ?」
昨日と違うヘルパーさんだわ。
「もう朝なの?」
「ユウリィさん、昨日の牛乳飲んじゃってよ」
「は、はい」
ちゅぅぅぅ・・・
「・・・ぷは!」
「ちょっと腐ってるわ・・・うげ」
「あれ?」
「この御飯て」
「乙女うどんも知らないの?」
「あんた外国人?」
「やっぱそうか・・・乙女のためのうどんね」
「朝の牛乳も飲みなさいよ?」
「は、はい」
ガチャ
「・・・・・」
「い、いただくわ」
「じゅるじゅるじゅる」
「んぐんぐんぐ」
あ、あれ?
アンは死んだんじゃなかったのね。
そりゃそうだわ。
「ちゅるちゅるちゅる」
アニィに病室で遊ぶオモチャでも買ってもらおう・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます