第15話奪われたもの

パラパラァー


ブォオオ


キィ


ブシュゥ



電車とバスをいくつも乗り継いで、やっとチョモル村に着いた時には一日経って、昼になっていた。



アン「焼け野原・・・」


山はハゲ山となり田畑は無くなっていた。


アン「・・・・」

  「私の家は」


通りを歩いている人に声をかける。


アン「あの、すみません」


通行人A「はい何か」


アン「占領軍はもう帰ったのですか?」


通行人A「ああ」

  「ペパーミント軍は終戦の2週間前に撤退命令が出たらしくて」

  「とっくに居なくなっていたんですよ」

  「疎開していた人達も大勢帰ってきてますよ」

  「家が残っていれば良いんですがねえ・・・」


アン「ありがとうございます」


アン(私の家は?・・・お母さんっ!)



アンは愕然とします。


アン「・・・・」


アン(無い、無い!)

  (私の、お母さんの家がなくなってる!)

  (そんな・・・)


アン「焼け落ちたの?それとも壊されたの?」

  「確かにここよねお母さんの土地は」


アン「・・・・」


アン(役場に行って聞いてみよう!)




アン「ポルカさんっ会えてよかったあ!」


ポルカ「アン、生きていたのですか。良かった」

   「役場は壊されたから」

   「この簡易小屋で役所の仕事をしているんですよ」


アン「あの、私の家は無いんですか?」


ポルカ「ええ」

  「ペパーミント軍がほとんどの家に火をつけましたから」

  「僅かに残っている家だけですよ」

  「仮設住宅、と言ってもトタンだけのホッタテゴヤですが」

  「アンも住むことが出来るように手配しますから」

  「明日の朝にまた来てください」


アン「あの、私のお母さんは?」


ポルカ「ミンさんですか?彼女は行方不明らしいですよ」

   「どさくさの滅茶苦茶な状態でしたからねえ・・・」

   「とりあえず、農家の人達が働き手を募集していますから」

 「アンも農業を手伝ってくれればお給料は出るそうですよ」

 「私が手配しておきましょうか?」


アン「お願いします」


ポルカ「あと、小学校の教師も募集しています」

   「生き残っている人たちが少ないので」

   「仕事の口はまだまだ増えるみたいですよ」



アン(早く帰ってきてよかった・・・)



アンはチョンゴン・シティで働いて貯めたお金を生活費にして。

なんとかチョモル村落で新しい生活を始めました。


農家の人「おおいアンちゃん。もう日が暮れるから」

    「今日はあがっていいよう!」


アン「おじさん、お疲れ様です」

  「ふう、農業は腰に来るわね」

  「ウエイトレスとは全然違うけど」

  「これはこれで素敵な仕事よね・・・」



仮設住居に住んでまだ日が経たない頃。


アン「ここはどこ?」「真っ暗・・・」


ズブズブ


アン「あっ!」


足が真っ黒な底なし沼に沈んでゆく・・・


アン「いやっ!まだ幸せも掴んでもいないのに」

  「まだ死にたくなんかないわ!」

  「誰か助けてえっ!」


パシッ


アン「!」

  「アニィっ!」


アニィがアンの右手をつかみます。ですが顔も体も影になっていて誰かわかりません。アンは無意識にアニィだと感じました。

その人の手が離されてしまいます。

アンは真っ黒な沼の中に飲まれる。


アン「!」

  「い、いや、死にたくだ、い・・・」


ズブズブズブ・・・


アン「は!」


目が覚めました。


アン「はあっはあっはあっ!」


汗をびっしょりかいている。まだ夜中。アンは今までの人生を振り返る気持ちになったようです。


アン「私が17歳の時、学校を辞めて働きだしたあの日」

  「まだまだ頼りない少女だった」

  「まだ4年も経っていないのに」

  「色々な事があった・・・」


アン「アニィ、あなたは今どこにいるの?」

  「まだ生きているの?」

  「会いたい・・・」


アニィの所在を役場のポルカさんに聞いたら分からないと言っていました。まだ終戦して間もないから情報が入ってこないそうです。


アンは髪をバッサリとハサミで切って。

17歳の頃のようにオカッパの子供っぽい髪型にしました。

アニィにひと目で見つけて貰う為に。


アン「アニィ、あなたのことが忘れられない・・・」

  「アニィ、私はもうあの頃みたいな少女ではありません」

  「ごめんなさい」

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