第16話アンの手紙

あたしはケイト・ケチャップマン。

親友のアンが居なくなってから、もうだいぶ日が経ったわね。

大都市チャンゴン・シティは相変わらず平和。

あの戦争もやっと終わり。前よりも街は賑やかに、そして繁盛している。

先日アンから手紙が届いた。

あたしが手紙を持っているという事は。アンが生きていて、そして元気に暮らしている事の証明でもあるわ。

もう何回読み返したかしら。

あの娘はどんなに劣悪な最低で最悪の環境でも。自分の力で切り抜けるチカラ(根性)を持っている。

まるで宝石の原石みたい。

どんなにみすぼらしくてもあの子自身の輝きは隠せない。

世の男性がたは何をやっているのかしら。

あんなに素敵でチャーミングな女の子など滅多に居ないのに。

あ、ごめんなさい。

あの子の手紙を読んでみるわね。



アン(親愛なるケイト・ケチャップマンへ)

  (ケイト、あなたと別れてから無事に故郷へ帰りました)

  (家はなくなっていたけど)

  (役場の人や地元の人たちが親切にしてくれて)

  (仕事と住む所は確保できました)

  (今は地元のミシン工場で働いています)

  (昔働いた経験があるから、会社では優遇されています)

  (少しずつ貯めたお金を頭金にして家を建てました)

  (母親は未だに行方不明、私一人で生活しています)

  (恥ずかしいけれど、私には心に決めた男性がいます)

  (軍隊に入って今、行方不明だけど)

  (必ず帰ってくると信じています)

(今度の夏休みに(と言ってもだいぶ先よね)そちらへ参ります)

(またあなたと朝まで語り明かしたいな)

 (都会の生活は、田舎者の私には十分刺激的でした)

 (過酷な体験が私を鍛え上げたように)

 (チョンゴン・シティは私を慰めてくれました)

 (まだまだ書き足りないけれど、ここで区切ります)

 (また会いましょう、私の友よ)

 (ケイト・ケチャップマンへ)

 (アン・ユウリィより)



短い手紙だけど、彼女の真心が伝わってくるわ。

あんなに素敵でたくましい女性が私の親友なんだから。

あたしは頑張れるわ。今日も明日も明後日も!

宝物のファッション・デザインのスケッチブックには。

アンが書き込んだダメ出しの修正がある。

これは絶対消さない。アンとの記憶の証明だから。


ナナ・ワンショットとの一年間の同居生活は青春そのものだったわ。決して色あせない気がする。どんなに年をとっても・・・


ケイト「アン、あなたは素敵な女の子ね」



もうこんな時間。アルバイトに行かなきゃ。

今は近所のスーパーでアルバイトをしている。

ファッションデザイナーに成るにはまだ道のりは険しい。稼ぎを得る為に色んなアルバイトを経験してきた。

自分が生きてゆく為に。


ある日ナナは私に言ったわ。


ナナ「仕事を毎日続けることが生きるための義務なら」

 「どんなにつらくてもあきらめない事が、生きる理由なのよ」

 「失敗しない人間なんて居ないわ、だから」

 「怖がる理由なんてないのよ」

 「間違いや失敗を恐れてちゃ何も出来無い」

 「勇気をだして明日へ向かって突き進むのよ!」



ナナ・ワンショット。いえアン・ユウリィ。

あなたと出会えてあたしはラッキーな人ね。


ケイト「さあ、仕事仕事っ!」





俺はリィズ・ワズマン。今は大佐だ。

ペパーミント軍の大攻勢で負傷してしばらく軍の病院に居たが。

もうケガが治って戦線に復帰している。

と言ってももう終戦になっていたから。

カンガルー国本部の軍司令部で戦後の事後処理に追われている。

ほとんどディスクワークだ。


ポイント・ヤマタカタロウ基地は結局最後まで落ちなかった。

何度も敵の急襲に遭ったが決死で防衛してきた。

アン・ユウリィが居た頃に彼女と知り合った兵らは半分以上が戦死してしまった。

アンを知っている奴は俺と会う度に彼女の話をしたがる。

アンのブロマイド写真が高値で売られている。

仲間うちではアンという少女は伝説のアイドルになっている。


そんなある日、軍諜報部から一通の手紙が送られてきた。

可愛らしいピンク色のポップな女の子らしい封筒だ。

とても軍隊には似合わないと誰でも思うだろう。

上官のリコン中将に、


リコン「上層部にラブレターを送るなと彼女に言っておけ」


と釘を刺された。どうせ全部検閲した時に読んだくせに・・・


これが読んでみると赤面してしまう。

大胆な手紙だ。


じゃ、読んでみる。


アン(親愛なるリィズ・ワズマン中佐殿)

  (お元気ですか、生きていますか?)

  (私は元気です。無事に故郷へ帰りました)

  (中佐殿と過ごした半年間の基地での生活は)

  (刺激的な体験でした)

(従軍慰問パーティで派手なアイドル・ファッションを着たとき)

  (あの時が私の最後の下着でした!)

  (洗濯も出来無いから臭い下着のままでした)

  (恥ずかしくてとても言えないから)

 (中佐殿が替えの男物下着を支給してくれましたね)

  (股間がスースーして寒かった事を覚えています)

  (最初のヤマタカ基地での戦闘で)

  (私も戦いましたが)

  (怖くてオシッコちびりました・・・恥ずかしい)

  (もうワズマン殿とは会えないのかな)

  (カンガルー共和国へ旅行に行けば会えるのかしら)

  (まだ軍隊に所属していますか?)

 (生きていて欲しいな)

 (再会できたらいいですね)

 (リィズ・ワズマン中佐殿へ・・アン・ユウリィより)


リィズ「くくくく!」


面白い手紙だ。

あの娘は本当に女神様だな。あらゆる人達を幸せにしてしまう。

あの不屈の闘志と元気さは彼女の才能なんだろうな。


リィズ「アン、俺は生きてるぞ」

   「手紙の返事を書くのは恥ずかしいなあ」

   「俺も軍を除隊して田舎で頑張ろうかな」

   「クックックッ・・・あっはっはっはっはっ!」




第五章終了

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