第23話アニィ・ベーカリー

第7章



南部歴0087年。

カンガルー同盟軍とペパーミント連邦軍の軍事戦争が始まってから、もう2年が経ってしまった。


俺はアニィ・べーカリー上等兵。

年齢は・・・歳なんてどうだって良いだろう。

まだ若いんだよ俺は。

ここはチョコン河沿いの湿地帯。河の岸辺にある水上の木製の小さな小屋で。休憩を取っているところだ。

河に緑色の長い雑草が無数に生い茂っている。

魚がいっぱい居るんだろうな。今日は釣り名人のバタフライ少尉が釣ってくれた魚、カワイイナを焼いて食った。

美味だった。腹が膨れて満足だ。

これで敵が来なきゃ天国なのだが・・・

それにしても屋根の下は良いもんだ。雨風をしのげる。

木製の布団もないボロボロのベットで休憩の仮眠を取る。

俺「暑いなしかし・・・」



今の支給されてるアサルトライフルは誰でも扱えるし癖がない。

良い自動小銃だな。ジャムの確率も低い。精度が高い証拠だ。

「101式自動小銃」イーワンシキ。

前に使ってた「100式自動小銃」ハンドシキは。

クセが強くて上級者向けの銃だから扱うのが大変だった。

仲間の兵達も、こっちのイーワンの方が良いと同意見だ。


弾薬はまだ余ってる。最近は敵とあんまり交戦が無いから。

減らないだけだ。ところが食料というものは、何にもしなくとも。

決まった時間が経てば腹が減って死にそうになる。

困った事だ。死活問題だな。

弾や爆弾が食えないかとマジで考えた事がある。やはり無理だろうと諦めたが。


食いもんがあるのは幸せなことだ。この前までは食料の補給が無かったから、散々飢えの地獄と戦ったが。別に人間様用の食いもんを食わなくても良いんだ。

そこら辺に居る生き物を捕まえて食えば良い。

生き物は全部食いもんだ。

毒に気をつければ何食ったって良い。

草花や樹木だって生きてるんだ。食おうと思えば食える。

ホ乳類の獣はスバしっこくてなかなか捕まえられないが。

一番美味かったのが、蛇・カエル・トカゲ。殺してサバイバルナイフで切り裂いて火であぶって食う。ご馳走だな。

真下にいる虫も手で捕まえて食った。生で食えば良いからそのまま口に入れる。まずくはない。

人間だって食えるんだろうな。人間食えば美味いだろうなきっと。

色んな雑念や怨念、欲望、色欲が詰まってるから。

この世で一番美味いんだろうな多分。


この前、自軍の他の部隊が地元の農家の農民を撃ち殺して、家畜や食料を奪って食ってるのを目撃したが。狂ってるなんて俺には言えない。

戦争が人を狂わせるんじゃなくて、戦争自体が狂っているんだ。

学校に行く頭があれば誰でもわかる話だ。


兵学校で鬼教官に強烈に鍛え上げられた。身体と精神を。

まさしく強靭な肉体と精神に生まれ変わったのだ。

初陣で、初めて人を殺した時。俺は何も感じなかった。

嬉しくも悲しくもない。自分が狙って撃った弾が、相手に命中して死んだんだ。葬式屋が儲かるのだろう。家族は泣くよなきっと。

奥さんが可愛そうだよな。ひどすぎる。

誰も死んでからでは、責任を取ってもらえない事を知らないらしい。

イカれてる世界だな、狂った世界だ。食う為では無く、ただ殺すだけ。殺したのなら、食ってあげるのが自然界の礼儀、摂理だ。

人間だけがルール違反だ。


数え切れないほど作戦の戦場を経験してきたが。

1センチ隣を敵の弾丸が飛んでくる弾幕の中を殺戮と生存の為に踊り狂う。なぜ自分は生きているんだろう?と不思議な気持ちになる時がある。

弾丸が何故、自分に命中しないのだろう?

爆弾が何故、自分の身体を裂かないのだろう?

死ぬ確率で言うのなら、ここは地獄だと確信できる。



故郷に残した幼馴染の少女は、生きているだろうか?

明るく元気な田舎娘の少女。貧乏で苦労を知っていても。

決して愚痴を言わないけなげでたくましい娘。

社会ってのは本当に不公平で理不尽だよな。

戦争で死んだ兵隊は戦死なのに、民間人はただの死亡。

死にも差別がある。軍服はよほど偉いらしい。


もう見張りの交代の時間だ。どうか敵さんが来ませんように。





ドドーンッ!バチバチバチッ・・・パンパンパンパン!ババ!


国士一等兵「軍曹!もうここは持ちません!」


等々力軍曹「分かっている!」

  「軍司令本部からの全軍撤退命令が出ている」

  「味方の撤退のための砲撃支援が始まる頃だ!」

  「ぐずぐずしていたら、味方の砲撃にやられちまうぞっ?」


俺「・・・・・・」


パンパンパパパパパッ!


等々力軍曹「ベーカリー上等兵!いつまで撃ってる」

   「早く退却を始めろ!死んじまうぞっ?」


国士一等兵「始まった」


ヒューン・ヒューン・ヒュヒューン・ヒュン・ヒュンッ!


等々力軍曹「おい!ベーカリー!何してやがる早く来い!」


俺「最前線に取り残されてる味方のD中隊はどうするんですか」

 「見捨てるんでありますかっ?」

 「トーテムドールやハイネケン達のおかげでどれだけ俺たちが助けられたと思ってるんですかっ?」


等々力軍曹「命令が最優先だ、私情を挟むな上等兵!」


俺「そんなもん知るかクソくらえだ!これは俺の戦争だ!」


等々力軍曹「あ、バカこの野郎!帰ってこーいクソバカ野郎!」

   「軍法会議にかけてやるぞ、このガキャあ!」


ヒュンヒュンヒュン!ドドドドーンッ!ドッカーン!! 

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