第7話ポイント「ヤマタカタロウ」基地

 俺はリィズ・ワズマン少佐。

ポイント「ヤマタカ・タロウ」地区に前線基地を設置してから3ヶ月になる。最前線の活動のバックアップと。補給の拠点として機能している。武器・弾薬・燃料・食料をワンサと備蓄している火薬庫だ。敵にこの拠点を奪われたら最後。戦況はジリ貧になっていくだろう。

つまりここが生命線と言うわけだ。ただの田舎基地のように偽装してあるが。この基地の司令官であるパウエル少将はいつも不在だ。

だから今は俺が指揮をしているが。

噂では少将は、愛人とラヴ・ロマンスの旅行中だと言う。

テレビゲームの世界大会に出場する為に長期休暇を取っていると言う噂もある。むちゃくちゃな噂だな・・・

 

俺は今、指揮所に居る。自分の軍服の襟元を掴んで左右に動かす。


リィズ(蒸し暑い・・・)



リィズ「おいっ」


部下A「ハッ」


リィズ「何だこのBB地区の作戦立案事項は」

   「決定事項、承認されちゃったのか?」

   「TVアニメみたいなヒーロー気取りの無茶苦茶な作戦考えやがって!」

   「どこのゲームオタクだあっ?」


部下A「ハッ」

   「作戦参謀長官殿であられます!」


ビシッ!


ものすごく恐縮した大げさな敬礼。


リィズ「・・・・」

   「あ、そう」

   「今の発言、全部聞かなかったことにして」


部下A「ハアッ!少佐殿!」


ビシイッ!


さらにもの凄く大げさなな敬礼。


リィズ「・・・・」


部下A「・・・・」


このあと沈黙が5分続く。



無線交信室から、けたたましく怒鳴っている声が聞こえる。

ニワトリも逃げ出しそうな音声の混雑。

リィズ少佐が入ってきた。無線技士の頭を平手で軽く叩いてヘッドセットを奪う。


リィズ「こちらヤマタカ。何が起こった?」

   「何をうろたえている。機甲師団でも現れたのか?」


相手「こ・・ちら・・C中隊」

  「おん・・・お・・ん・・」


リィズ「なんだって、オンナ?」

   「女が現れたのかっ?」



ところ変わってこちら無線の相手のC中隊。


バリバリッズダーンッパラパラパラ


兵A「違います。女の子が、田舎の少女が敵と交戦してるんです!」

  「同盟国の市民と思われますが。現地語でわめき叫んでいるので、意味が全くわかりませんっ!」

  「応戦しろと言っているみたいです」


ヒュンヒュンッ!バンッ!


兵A「ひぃっ」

  「信じられません!」

  「どう見てもただのカッペ少女が、一人で敵部隊と銃撃戦をしてるんですよっ?」


リィズ「・・・・」

   「なんだか分からんが、味方なら加勢してやれ」

   「アウト!」


また最前線。


兵士B「少佐から加勢せよとの命令だ!」


C中隊「よっしゃあ!」


兵士C「加勢するぜ、お嬢ちゃん!」


アン「オイコラッ」


兵士A「へ?」


アン「グレネ、グレくれっ」


兵士A「あ、グレネードね」


アンは乱暴に受け取り、即座にグレネードの安全ピンを歯で噛み引き抜いて、なんとカウントを数えています。


アン「フンッ!」


間髪入れずにライフルに持ち替えて、銃撃を加えます。


ボンッズダーンッ!バリバリ!


アンの両目は泣きはらしたように真っ赤に充血、鼻水をすすりながら。




二週間ほど前に戻ります。

人間は労働をして賃金を貰い、そのお金でご飯を買って食べないと生きてゆけません。

でも今は戦時下、仕事は殆どありません。軍事工場は稼動している筈ですが・・・


大人の女性が、自分の体を男の客に売ってお金を稼ぐのは。

どんな時代でも当たり前のようにあることです。

アンは女の子ですが、女です。少女趣味の男の客に、いくらでも身体を売れるでしょう。

アンは悩みます、そして涙を流します。

アニィに自分の初めてをあげられなかった悔しさと申し訳なさ。そして醜い男どものハタラキバチ・コンプレックスの世界を呪います。


ある日、他の売春婦たちのファッションを見ていて。

アンは「はっ」っとしました。


アン(私、全然色気出てないじゃん・・・)


思い切って、稼いだお金を握りしめ、いかがわしいお店へ。お色気が出る衣装を購入しに行きました。



チリンチリン


アン(・・・・)

  (ひえー)

  (こんなの着るの?あたしが!?)



アン「これとこれと、それとこれ下さい!」



カタカタカタ・チーン!


店に入った時からアンを注視していた。中年男性の店のオーナーとおぼしき金の銅像が金歯を光らせ。ジュエリーだらけででゴテゴテの手の平をしならせながら。

アンにせまってきます。


オーナー「お嬢ちゃん」

    「アタシのところで働かない?」

    「イイ金になるわよ、ウフフ♡」


ボンッ


アンは下を向いたまま。


アン「結構です!」


早足で店から逃げる。右手と右足が同時に前へ出ています。


アン「はあっはあっ」 

  「怖かったー!」

  「何あいつ?異星人?」



そんなある日、3・4日前のことです。

アンが親しくなった売春業の年上の二人の女性と。

3人で廃墟のゴーストタウンの道で世間話をしている。

アンは普段のジーパンルックですが他の二人は高級そうなドレスを着ています。

 

と、いきなり現れたペパーミント連邦の兵士4人に、自動小銃を突きつけられて取り囲まれました。


女性A「ひいっ」


女性B「ミクッ!」


ミクと言うのはアンの売り名、売春婦としての源氏名。

アンを含め3人とも両手を挙げてガタガタと震えています。


アン「どうせ犯してから殺すのよね・・・」


アンはチラッと後ろを見ます。


アン(5メートル後方。タイミングと消費時間・・・)


女性Aの高そうなワンピースのドレスが軍用サバイバルナイフで縦に引き裂かれた。


ビリビリビリっ!


女性A「キャーッ!」


上半身があらわになり、破れたブラジャーが見え純白のパンツも丸見えの状態にされました。

3人いる兵士の真ん中に居る、デブのブ男が下品な笑みを見せて喜んでいます。


デブ兵「ゲヘヘヘッ」


女性Aの血が飛び散る。乱暴にドレスを切り上げたから思い余って女性Aの身体を傷つけたのでしょう。

綺麗だったドレスがボロボロになり血液で赤く染まっている。

アンは運良く、狙われにくい状況のようです。


女性AとBが大声で泣き出した。兵士3人が笑いながら舌なめずりをしています。


アン「いまっ!」


ものすごいダッシュで後ろに駆け出します。ゴミ箱の後ろに隠したアンのアサルトライフルを取りに。

兵士3人はまだ間抜けズラで笑っている。

5メートル後方からアンが照準サイトを使って狙いをつけると。

ペパーミント兵3人は驚いてひるみます。


タタンッタタンッ!


切り裂くような銃声が廃墟の街中にこだまする。

バースト3点撃ちで手前の2人を殺す。2人とも同時にその場に倒れた。アスファルトに血だまりが出来た。

女性二人は地べたにへなへなと座り込んでしまいました。

二人とも失禁しているようです。

アスファルトの地面が水溜りを広げてゆく。

まだガタガタと震えている。


銃口を向けながら、デブ兵ににじり寄ってゆく。


デブ兵「◎☆♀≒〒!!」


アン「うらっぱあっ!!」

 「うらぺっぺっぺっ!」


言葉が通じないから無茶苦茶なことを叫ぶアン。

デブの男はどうやら命乞いをしているようです。持っていた自動小銃を地面に置いた。


アン(こいつらを生かしておくと女が皆死ぬ・・・)


アン「・・・・」


タタンッ!


ブシュゥ


デブ兵の頭が吹き飛んでなくなった。血液が飛び散る。

首のない死体がゆっくりと後ろに倒れた。

道路が大量の血で赤黒く染まっていく。


アンの目が真っ赤に充血しています。涙を流していたのでしょう。


アン「はっ、そうだ!」


最初、兵は4人居ました。とすると残りの一人は見張りの役割の筈。


アン「まずい・・・」


道路をメインストリートまで走ってゆくと。


アン「やっぱり・・・」


見張り役の一人が駆け足で遠くへ逃げてゆきます。


アン「ここから当てられる?」


考えている暇はありません。

狙いをつけてフルート射撃。集弾させて当てる。

マガジンには残弾半分はある筈。

呼吸を整えて、ゆっくりと狙いを定めトリガを引き続けます。


バラタタタタタタタ!


倒れた。


アン「あ、当たった」


カシン・チーン!


アン(弾切れだ・・・)


マガジンを交換して弾を再装填。


カチャンッ・・ジャキッ・バシャッ


生死を確認しなければいけない。

倒れた兵士の居る所まで歩いてゆきます。


まだ息がある。



タン・・・



今、アンはポニーテールの黒髪の上に。お店で買ったつばの長い深緑色の野球帽をかぶっている。


アン「高かったけど思い切って買ったの」


アン(バザー、市場の出店のくだもの屋さんの店番が一番楽だったな。食べるのに困らないもん)

  (港の荷物の荷運びは、あんな力仕事は女の子の私には続かなかったわ)

  (・・・くだもの屋さんのおじさんに頼んで、また働かせてもらおう)

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