第10話人生を否定する戦争

田舎のチョモル村落、今夜は秋祭り。花火が綺麗に上がって夜店がお客さんで賑わっています。

まだ小学校低学年のアンは母親から貰ったお小遣いで焼きとうもろこしを買ってかじっています。

左手に焼きもろこし、右手にはアニィ兄さんの小さな手がしっかりと握られています。


アニィ「いいかいアン」


アン「うん」

アニィ「僕のこの手を離すなよ」

   「離したらもう家に帰れなくなるぞ」


アン「うん」


農家が立ち並ぶ田舎道の明かりの影の中。小さな人間の影が二つ並んで歩いています。

アンは、独りっきりの怖さの中で考えます。


アン(アニィに手を離されたら、私は永遠にこの暗闇の中に置いてきぼりなんだ)

  (アニィこの手を離さないで、私をヤミから連れ出して・・)





アン「アニィ・・・」


現実のアンは目を覚ます。

まだ夜明け前で暗闇。少し明るくなりかけている空。


アン「そっか、あの時・・・」


体育座り、木の杭に背をもたれてうたた寝していたアン。


アン(ん?)

アン(何だろう、空から何か。雨?)


その刹那(せつな)


ガバッ!


アン「ひいっ」


ものすごい力でアンは体ごと地下壕へ連れ込まれました。


ヒューンヒュヒュヒューン!ヒュンヒュンヒュンッ!


ズダダーンッ!ダダダダーンダダダッーンッ!!


敵軍ペパーミント連邦軍の野砲による集中砲火。

ものすごい爆音と振動。


アン「ぐっ」


いかついこわもての兵士がアンの命を救ってくれました。

おっぱいまで潰されて肺で息が出来ません。


アン「エッチ・・・」


今は防弾チョッキを着用。貰った迷彩柄Tシャツの上。

下着は?下着はアンはどうしているんでしょう?

いつもノーパン・ノーブラでは無いようです。


アン「ぐうっ!」


個室の空き部屋に放り込まれました。すぐに扉を閉めて鍵をかけようとしています。


アン「!」


急にアンは怒った顔で立ち上がり扉を思いっきり蹴飛ばす。


いかつい兵士「ぐうっ!」


扉ごといかつい兵士が吹き飛ばされました。

脳しんとうを起こしたようで伸びてしまった。


アンは怒った顔のまま指揮所に向かいます。

激しい大声でせわしなく会話が聞こえてくる。


リィズ「敵の砲撃終了と同時に敵歩兵部隊の強襲が予想される!」

   「ここが落ちるわけにはいかん!」

   「全兵力を持って迎え撃つ!」


アン「私も・・・」


リィズ「なんだアン!お前は待機だっ!」


アン「私も戦いますっ!」


リィズ「戦争をなめるなっ!たかがお前一人の戦力が無くても俺達にはどうでも良い事だ!」

   「お前が死んだって誰もほめちゃくれないし!」

   「給料なんて出ないんだぞ!?民兵のお前には!」


アン「でも私だけ見ているなんて出来ません」

  「お願いだから私も戦わせてください!」


リィズ「・・・・」


リィズ(もうこの娘を説得している時間はない)

   (一番安全だと予想する部署に配置するしかない)

リィズ「しょうがない。いいか?死ぬんじゃないぞ」

   「お前は女の子なんだからな」


アン「はい!」



もう砲撃はやんでいます。

ヤマタカタロウ基地の敵勢力と反対側の基地後方にアンは配置される


アン「・・・・」


アンが夜明け前の敵の野砲集中攻撃の時から感じている事。


アン(怖い・・・)


不思議なことに、今まであまり恐怖を感じなかったのに。

今朝初めて感じたのです。

怖すぎて足がガクガク震えている・・・

今すぐここから逃げ出して安全な土地へ行きたい。

アンは知りませんでした。もうアンの中にはキム軍曹は居ない事を。

自分の実力で生き残らなければなりません。


兵士E「お嬢ちゃん、俺たちの後ろに居なさい」


兵士F「大丈夫、ガムでも噛むかい?」


アン「はい・・へへ・・・」


怖くて泣き出したいのを我慢してアンは立ちすくんでいる。


ズダーンッバリバリ・バンバンッ!


兵士G「本命の攻撃予想地点の銃声だ。ここは大丈夫だろう」


そう言い終わる瞬間。


ドーンッ!!


手榴弾の炸裂音と爆炎。

右手の林の中から敵兵6名が飛び出してきた。もの凄い殺気。


兵士E「応戦しろ!」


バリバリバリッ!ダンダンダンッ!!


バンバンッ!ズドーンッ!


アンには目の前で起こっているその生々しい残酷な光景がとても信じられませんでした。

さっき私にガムをくれたあの兵隊さんは、わずかばかりの肉片になっている。私を慰めてくれたあの兵隊さんは頭が無くなって胴体が横たわっている。


アン(こ、怖い。怖すぎるよ・・・)


アン「ハッ」


今は怯えている時じゃない!

味方は私も含めて3名。敵は同じく3名。

今度は私が狙われている!


アン「いや・・・」

  「嫌だーっ!」


アンは泣き叫びながらトリガを引き続ける。


パンパンパンパンッ!


アン「嫌なんだよこんなのはあっ!!」


敵兵2名が倒れた。赤い鮮血が飛び散る。内臓が飛び出しもう一人の頭が無くなった。

味方に頼ってはいられない。

敵兵の最後の一人がサバイバルナイフを振り上げて私を殺しに来る。殺気で目が血走っている。考えている暇はない。

後ろに後ずさりしながらライフルに残っている残弾を最後まで撃ち尽くす。


カシンッ


弾切れだ。




リィズ「戦果の確認をせよ」

   「被害報告、戦死者と負傷者の搬送を急げよ!」


   (アンが気がかりだ、急行せねば)


   「お前ら」

   「俺と一緒に交戦があった基地後方を確認しに行ってくれ」


泣き声が聞こえてくる・・・子供の泣きじゃくるような・・・


「うえーん、うわーん、えーん・・・」


アンが独りで石のブロックの上に座って泣きじゃくっている。


リィズ「アン・・・」


顔を血で真っ赤に染め、まるで子供の鬼が泣いているようです。


アン「アニィ、どこに行ったの?私はここだよ」

  「早く迎えに来てよ」

  「独りは嫌なんだよ、怖いんだよ!」

  「うえーん!ヒック、ヒック・じゅるじゅる」


生存したのはアン独りだけのようです。

辺りは死体と肉片、血液だらけ。内臓や腕や足が落ちている。

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